第4話 史上最悪アンウエルカム

 キャストに対する暴言、隷属の強要、乱暴行為はいかなる理由があろうとも禁止されております。

 主人公である訪問者ゲストの皆様と役者キャストは、このワンダーキングダムという舞台を心から楽しむための共演者プレイヤーです。

 一緒に楽しむことができるように愛をもって接していただけるようお願い致します。


     ―――遊園世界ワンダーキングダム王宮広報庁より抜粋




近衛騎士ロイヤルガード様よぉ。わりぃがここは俺達、自由アトラクション推進派が仕切るぜ」

 五人の先頭にいた一人のカウボーイが煙草を吹かしながらそう言った。男達は女騎士とユウに注意深く視線を送りながら、腰のリボルバーをいつでも抜き放てるように準備している。

 ユウが見ている横で女騎士はチャと剣をその先頭の男に向け、口を開く。

「ここはイーストエリアの緩衝地帯。貴方たちのようなウエストエリアのキャストが近寄っていい場所ではありません」

 女騎士は透き通るような声でハッキリと言い切った。

 それに男は、はん、と鼻で息を吹き出して笑う。

「ククク。まだ何も分かっちゃいねぇな。もうそんな時代じゃねぇんだよ! 俺達はパレード族の王権から解放され、ここに俺達と海賊の略奪合戦アトラクションを建設するんだよ!」

 忌々しそうに男は煙草を吐き捨て、声を荒げて唾を飛ばす。

 そのポイ捨てに女騎士は非難の声を上げる。

「ポイ捨て!? パレード族のキャストの風上にもおけません! その罪、断罪します」

 その言葉にカウボーイ達はいきり立ち、腰のリボルバーを抜きはなった。

 隣のユウは、状況を飲み込みつつ女騎士に聞く。

「俺も手伝うぜ」

「くっ・・・ゲストにこのようなことを・・・仕方ありません。先ほどの腕を見込んで、一人、任せます。後は私が」

 ユウと女騎士の会話を聞いたリーダー格のカウボーイが肩をすくませる。

「おいおい、マジかよ。この人数を相手にしようってか? 俺達はパレード族の中でも戦闘キャスト。パレードで歩いてるだけの近衛騎士ロイヤルガード様に何ができるってんだよ」

王族ロイヤルキャストに捧げるこの剣。その鋭さを味わってから戯れ言をほざきなさい」

「ハ! その剣と俺の―――」

 カウボーイ達と女騎士が二人で言い合っている横でロックがユウに語りかけた。

「おぃ、ユウ。なんでアイツらはのんびりとお喋りしてんだ? 勝負バトルをささっとしろよな」

 ロックを構えながらユウは苦笑する。

「あれじゃねぇか? キャスト魂って奴だよ。勝負バトルじゃなくて、ここのキャストにとってはこれも演出ショーになるんだろ?」

「つまりアイツらは主人公ゲストがいなけりゃいつまでも演出ショーをしてるって事か? くだらねぇ。喜んで損したぜ。ユウ、俺はフルオートできんだ。この話し合いをささっと終わらせてくれ。しらけちまった」

「仰せのままに」

 そう言ってユウは、隣でまだ言い争っている女騎士の甲冑をコンコンと軽く叩いた。

「なんだっ?! 今忙しいんだ」

 女騎士が迷惑そうな声を上げてユウに振り返る。

 ユウは彼女ににっこりと笑い、カウボーイ達へと顔を向ける。その仕草にキョトンとした女騎士が尋ねる。

「なんだ? その笑―――」

―――ダダダダダッ!

 大音量の発砲音が連続五回。

 あまりの音で女騎士が後ろにのけぞる。

「ケッホ、ケッホ、ケッホ」

 モウモウと立ちこめる硝煙がユウの上半身を隠して、彼は涙混じりに咳き込む。視界は零でユウは仕方なくロックを拳銃袋ホルスターにしまい込み、スタスタとマントを翻しながら前に歩いて行った。

 硝煙の霧を出ると、地面でスヤスヤと仲良く寝込むカウボーイ達。ユウは彼らの身ぐるみを検分して、火薬と鉛玉、リボルバーやお金を抜き取って自分の鞄の中に放り込んだ。

「おいおい、ユウ。こんな安い火薬メシを喰わそうってか?」

 ユウが鞄に火薬を入れていると拳銃袋ホルスターに入ったロックが不満そうに言った。

「まぁまぁ、これは非常食だよ。非常食は我慢してくれ」

「ちっ、仕方ねぇなぁ」

 二人がのんびり会話していると声を荒らげて女騎士が走りよってくる。

「おい! いきなりは卑怯だろ。騎士の誇りを汚されたぞ! 私は!」

 囃し立てる女騎士を背にユウは気持ちのこもっていない謝罪を口にする。

「ああ、すまんすまん。ちょっと催し事ショーが長いんでね。早送りスキップしちまった」

「なんだとっ!?」

 女騎士がそう叫ぶと、今度は馬の足音が地鳴りのように響いてくる。その音につられ、ユウはその方向を見た。

 それは遊園地の石畳みを行軍する木馬に乗った騎士達。重甲冑を身に纏った騎士が木馬を駆り、ユウ達の元へと走ってくる。

 騎士達はユウ達の目前で止まった。木馬が嘶き声を上げて高く前足を上げる。それを手綱で抑えながら一人の騎士が兜の眉庇バイザー越しにユウへ碧い目を流し、ゆっくりと女騎士の姿を捉えた。

「グランビー。探したぞ」

「ドク団長!」

 助かったとばかりに女騎士はその団長へと声を向けた。団長は頷きながら、ユウへと顎をしゃくる。

「で? その男はなんだ?」

 鋭い目を向けられたユウは、どう言ったらいいか、考えあぐねていると横の女騎士グランビーが代わりに答える。

「この男は招かざる客アンウェルカム。それも史上最悪の招かざる客アンウェルカムです!」

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