第3話 厄介事ジェットコースター

 遊園世界ワンダーキングダム。

 世界を丸ごと遊園地にしてしまったここワンダーキングダムでは、王や王妃、王女でさえも貴方を温かく迎えてくれる。あらゆる世界の物語や珍品、名品が集まるこの一代遊園世界は、異世界の者達にとっての楽園。昔懐かしの遊具施設アトラクションや大迫力の催し物ショーが貴方の心を癒やし、昔に忘れてしまった冒険心をくすぐってくれる。もちろん若い者達にも愛を囁き永遠なる誓いを果たす人気観光地スポット。お年寄り、家族から恋人達、子供までをも楽しませ、感動すること間違いない。

 なにしろこのワンダーキングダムでは役者キャストはいない。役者キャスト達は実際にその役割ロールで生活している。このより現実的リアルな場所で貴方はその世界の主人公となり、心の趣くまま感動と冒険が楽しめるのだ。

 特に、純白灰ホワイトシンダー城からご来臨される王族ロイヤルキャストの豪華絢爛な行進パレードは圧巻の一言。

 是非この行進パレードを目に焼き付けてワンダーキングダムの締めにして貰いたい。


     ―――遊園世界ワンダーキングダム公式案内本ガイドブックより抜粋



 ◆◆



「そう。つまり貴方は招かざる客アンウェルカムなのね」

 女性騎士と一緒に歩いていたユウは首を傾げる。

招かざる客アンウェルカム?」

「ええ、そうよ。今この遊園世界は閉界しているの。入界していくる者はいないのよ。だから貴方は迷い込んだ招かざる客アンウェルカム。ちゃんとキャストの責任を持って元の世界に返してあげるわ」

 その女騎士の言葉にユウは首を振って断った。

「そいつは駄目だ。俺はこの世界でホラーハウスの王の涙を手に入れないといけないからね」

 その言葉を聞いた瞬間に女騎士は激情を迸らせた。

「馬鹿言わないで! ホラーハウスの王の涙!? あれは血も涙もないただの骨の怪物よ!」

「ま、そう言われてホイホイ諦めないよ。俺はやりたいようにやる」

 女騎士はユウの言葉を聞いて苛立ち、彼を掴もうと電光石火のごとく手を伸ばした。それをひょいと身軽に避けて、彼女からユウは距離をとる。

 簡単に避けられた事が信じられないのか、女騎士は腰の鞘に手を当てて警戒する。

「この近衛騎士ロイヤルガードのキャストの動きについてこられるなんて・・・貴方は一体何者?」

「言っても通じるかな? 俺は調停者だよ。半人前だけどね」

 その名に女騎士は驚きの声を上げる。

「まさか!? 貴方はあの調停者だっていうの!?」

「ん? 知ってるの?」

「当たり前じゃない! 調停者はあらゆる異世界に行ってその世界の諍いを収める者。でも同時にその世界の諍いの原因ひほうをも盗み出す厄介者よ!」

「なるほど。俺はそういうロールなんだな」

「そんな厄介なロールはもう入場制限こりごりよ!」

 女騎士はその言葉で走り出してユウを捉えようとする。

 その速度はまさに人外がなせる速度。駒落ちのように女騎士が突如、ユウの背後に回り込みその甲冑の手甲でつかみかかる。

 間一髪、ユウは横に飛んでその手から逃れることができた。

「おいおい、こんな嬢ちゃんにやられるんじゃねぇぞ、ユウ」

 拳銃袋ホルスターからのんびりとしたロックの声が上がる。

 至近距離にいた女騎士はその急に聞こえてきた声に警戒して、ユウから距離を取った。

「仲間?」

 警戒を滲ませながら周囲とユウを睨み付けた。

 素早くユウはロックを取り出して答える。

「ああ、俺のロックなロールの師匠」

「ハハ、そいつはきっちり俺が教えてやる役柄ロックンロールだぜ」

 その銃を見て女騎士は剣を抜き放つ。

「本当なら訪問者ゲストの苦情クレームを聞くのもキャストの仕事だけど、今は招かざる客アンウェルカム我が儘クレームに付き合ってられる状況じゃないの」

 女騎士が剣を構えて走り出そうとする一瞬前、緊張の糸が張り詰められた中でロックの声が上がった。

「嬢ちゃん、一つ聞きてぇんだがよ」

「なに? 貴方たちの退界まで私の休憩ブレイクがないんだから早くして頂戴」

「そいつは知ったこっちゃねぇがよ。さっきから安い火薬メシの臭いをさせてやがるのは嬢ちゃんの知り合いか?」

「え?」

 ロックの言葉に女騎士は間抜けた声を上げ、その心の隙間を縫うようにロックが鋭く声を上げる。

「ユウ! 俺を適当にぶっ放せ!」

「っっ!!!?」

 女騎士が声にならない驚きの声を上げ、ユウがロックの言葉に反応して引き金トリガーを引いた。

 大音量の発砲音。

 女騎士は自分を襲う銃弾に身をこわばらせ衝撃に備えた。

 だが、襲ってくるはずの銃弾は彼女を狙わず、離れた茂みに吸い込まれ、何かが倒れる音がした。

 見つかったことに観念してガサガサと茂みをかき分けて五人の男達が歩み出でる。

 西部風のカーボーイの格好をした男達。テンガローハットに赤い格子状の分厚いウェスタンシャツ、ジーンズの腰にはホルスターに入ったリボルバー、ウエスタンブーツの踵には馬を叩く用の歯車が付いていた。

 その男達の姿を見た女騎士が驚きの声を上げる。

「こんなところにウエストエリアのキャストがいるなんて!」

「ヒュー! こいつぁいい! ユウ、マカロニウエスタンとしゃれ込もうぜ!」

「んー、久しぶりで懐かしいなぁ。この厄介事トラブルのジェットコースターは」

 三者三様に声を上げて、厄介事が天地逆転していく。

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