旅の果て
レテクル・スプリングは小さな男の子だ。大鴉のワタと共に、旅をしている。
「結局、見つからなかったな」
ワタは、旅立ちの日と変わらずそこにある椎の木を見つけて言った。
「レテクル、あんたの探し物は、一体どこにあるんだろうな」
「さあね、僕にも見当がつかないよ」
「まあ、気長に探せばいつかは見つかるだろうさ」
「うん、でも――。もういいんだ、そのことは」
ワタは驚いて目を丸くした。白い翼を広げて尋ねる。
「おや、どうしてだい? あんたは欠けてしまった小さな悲しみを探し求めていたんじゃないのか」
「そうだけど、もうそれは必要ないんじゃないかなって思うんだ。代わりのものも手に入ったしね」
「そうか。それなら仕方がないな」
「うん、仕方がないよ」
ワタは一つ羽ばたくと、椎の木の枝に止まった。
レテクルを見下ろしながら、ワタは別れを告げる。
「なら、旅もおしまいだ。そうだろう?」
「そうだね。いろいろありがとう、ワタ。君のおかげで、楽しい旅になったよ」
「そうかい? 俺は何もしてないぜ」
「いいや、君のおかげだよ」
ワタは照れくさそうに笑った。ワタがそんな表情を見せるのは、珍しいことだ。
それで、レテクルは綺麗なモルフォチョウを見つけた時みたいに驚いた。
「じゃあな、小さなレテクル」
「さようなら、ワタ」
大鴉のワタは、白い翼を羽ばたかせて、さっさと飛び去ってしまった。
小さな男の子、レテクル・スプリングは、それをいつまでも見送っていた。
レテクル・スプリングの小さな旅路 鹿江路傍 @kanoe_robo
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