溢れ出てくる泉

 旅をする小さな男の子、レテクル・スプリングと、大鴉のワタはこんこんと水が湧き出す泉の傍で休憩していた。


「残念だが、今日も収穫はなしだったな」

「そうだね。でも、いろんな所を見て回れて面白かったよ」


 泉の水は、清らかな小川となって、流れ出していく。そしてその小川は、下流で多くの生き物を潤しているのだろう。

 泉から溢れ出す水は、それほどまでに美しく、迷いがなく、澄んでいる。


 喉の渇きを覚えたワタは、泉に嘴を突っ込んでゆっくりと喉を潤した。溢れ出てくる泉の水は、心地よい冷たさで、ワタの心に染みていく。


 それを眺めていたレテクル・スプリングは、突然大声を上げた。


「ワタ、羽根の色が!」


 泉に映ったワタの体は、真っ白になっていたのだ。


「おお、これは……」


 ワタは、驚きの余りに声を失った。しかし、一時的に声を失ったことで、ワタは気づくことも出来たのだ。


 本当に失くしていたものが、何だったのかに。


「そうか、俺が失くしていたのは、白い羽根の方だったのか」


 ワタは、静かにつぶやいた。ようやく探し物を見つけたワタを、レテクルは祝福する。


「すごいね! 白い翼も、格好いいや」

「ありがとう、レテクル。あんたのおかげだぜ」

「僕は何もしてないよ」

「いいや、レテクルのおかげさ」


 レテクルは、溢れ出てくる泉の水を掬う。

 小さな両手から、綺麗な、真っ直ぐな、汚れのない水がこぼれていく。


 そうして両手に残ったわずかの水を、小さなレテクルは大事そうに飲んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る