ヒトの身で最強の精霊術士

KUROKO

第1話 プロローグ

『外の世界には何があるの?』


 僕が目の前にいる彼女に聞くとにっこりと苦笑してこう言った。


『うーん。私たちが言える世界って、この星からすればほんの一欠片だからなぁ。これっていう答えは教えられないかな?』

『だな。それでも良いなら教えられる範囲でならはなしてやるよ』


 彼女の隣で寝そべっていた彼は彼女の話に同意して起き上がり、僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。


『うん、聞きたい!教えて教えて!!』


 あの頃の僕は外の世界に憧れていた。

 外の世界どころか住んでいる場所さえ何があるかよくわかっていない子供の世界にとって、違う大陸から来たと言っている彼らの話は常に刺激があった。

 今も外の世界への憧れる気持ちに変わりはないが、あの頃はあの頃とはまた違う特別なワクワク感があった。


『坊主、お前、今いくつだ?』


 彼はそう言って僕の目を見た。


『えっと・・・・・・今年で3つ』

『・・・・・・そっか。もし、もしもだ。もし坊主がもうちょい大人になってもまだ外の世界を知りたいって言うなら、俺達がお前の願い、叶えてやれるかもしれないぞ』

『ほんとうっ!?』


 目を輝かせる僕を見下ろし、彼はニカッと笑ってうなずいた。


『やったーーーーーー!!!』


 そんな彼の表情に僕はあまりにも嬉しくて両手をあげその場をピョンピョン跳び跳ねた。


『ちょっとーーー。何言ってるのよ。そんな約束してもし駄目だったらどうすんのよ!?』

『えっ、できない、の?』


 期待は絶望を二乗する。

 あのときはまさにそんな感じで、出来ないと言った彼女の言葉に僕は悲痛な表情になり肩を落とした。


『え!? いやその、あのね。まだ確定はしてないというか、だから約束も確実に叶うのはどうかで』

『・・・・・・できないんだ』

『えぇーっと、あの、だから、そのーーーーーー』

『できる』


 涙目になった僕を見てあたふたし始める彼女。

 そんな彼女の言葉を否定するように彼は自信に満ちた顔をして断言した。


『え?』

『絶対にできる』


 呆然として彼を見上げる僕に、ニカリと笑って再度同じことを僕に言い聞かせるように喋り、頭を撫でてくれた。


『絶対にできるから坊主、お前も頑張って俺みたいな強くて立派な大人になれよ』

『・・・・・・そうね。出来なきゃ駄目だもんね。あと、あんたを目標にしたらだらしないスケベな大人になっちゃうから、こいつのやることの逆をやりなさい。そうすれば立派になれるわ』


 彼女も彼に続いて僕と目線を同じくするため腰を落とし優しい笑みを浮かべ、その後口の端を上げて彼を見下すような顔を向けた。


『おいおいそりゃねーだろ。俺のどこがだらしないスケベだよ? むしろ俺ほど品行方正なやつはーーーーーー』

『・・・・・・王都の街外れ』

『うぐっ!』

『ビヨン、シガラッテ、アリエンド』

『ま、待て。なんでお前がそれをーーーーーー』

『クリゲート、シシルー、スィード等々。 ・・・・・・まだ言ってあげましょうか?』

『・・・・・・イエ、ナンデモアリマセンデス、ハイ』


 なんだか彼が目から滂沱の涙を流し膝を抱き抱え座り込んでしまった。

 そんな彼を見て彼女はしてやったりといった風に満足そうな顔をしている。

 彼らの喋っていることは全然わからないが、とりあえず彼にとって触れてはならないものだと言うことだけは分かるが。


『ねっ? こんな情けないやつになりたくなかったらあいつの真似はしないようにね』

『うん、わかった!!』

『ははっ。坊主、いい返事するじゃねーか』

『あはははははっ!!』


 力ない笑みを浮かべる彼。目は生気を失い少々ショボくれている顔が何だか可笑しくて僕はついつい笑ってしまった。





『もう、行っちゃうの?』

『あぁ。ここでやらなきゃいけないことは終わっちまったからな。報告もあるし』

『君とはもっとお話ししたかったけどね』


 それからしばらくして彼らはここでの仕事が終わったらしく、この地を去ることになった。


『・・・・・・ぐすっ』

『ほら、泣いちゃダメよ。強くなりたいのならね』


 彼女は僕を優しく抱きしめ背中を擦ってくれた。


『だな。外の世界に行きたいならこれくらいで泣いたらダメだぞ』


 彼は笑ってまた何時ものように頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。


『・・・・・・うん。僕、もう泣かないよ。強い大人になって外の世界に行って、今度は僕がみんなのところに追いかけるよ』

『それでこそ男の子だ!なら、そんな男になった坊主に俺らから渡したいものがある。手をだしな』


 素直に手を差し出すと彼は僕の手首に腕輪をひとつ着けてくれた。

 金を基調としており、色とりどりの小さな水晶球がいくつか埋め込まれているものだ。

 ただ、この頃の僕にはこの腕輪はブカブカすぎてすぐに落としてしまった。


『あぁ、悪い悪い。まだ早かったな。しばらくはタオルを詰めてつけるか大事に保管してくれ』


 苦笑し謝る彼にそこくらい考えときなさいよと彼女に怒られた。


『ま、まぁなんだ。とにかくその腕輪は俺とーーーと坊主を繋ぐ友情の証だ。無くすなよ?』

『うん。ありがとう、ーーー、ーーー。これ、大事にするね』


 そう言って僕がにっこり笑うと彼らもそれにつられて笑みを深めた。


『じゃあな、坊主』

『またいつか、きっと会いましょう』


 2人は軽く手を振り、去っていった。僕は彼らが見えなくなるまでずっと手を振り続けた。

 彼らがくれた腕輪を着けた手で。


『待っててね。僕、強くなるからね』


 誰もいなくなった草原でぼそりと、しかし確かな決意を示すようにしっかりと。




 ーーーーーーそれから12年の月日が経った。

 あの頃の想いを胸に秘め、鍛練を雨の日も風の日も一日足りとて怠らず続け、自分のことも「僕」から「俺」に変わり、村の上役からもようやく許しを経ることができるくらいに強くなった。

 そして今日、俺は旅立つ。


 ーーーーーーエルフの村に住み、歴代最強の術師とまで呼ばれるようになった唯一純潔の人間・・である俺、アーネスト・クロイツェルの冒険の始まりである。

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