第14話・春

 ここ一千年で、はじめての春が地上におとずれました。このお話に出てくる人間は、生まれてこのかた、冬しか経験してこなかったのです。

 しかし、乾ききってひび割れていた大地は、今は一面にシロツメクサが咲き誇っています。どこまでもひろがる青空には、極彩色の蝶が群れ飛んでいます。みどり生い茂る山には、色とりどりの花が咲き乱れています。人々がはじめて目にする春の光景は、あざやかな色彩に満ち満ちていました。

 廃墟と化したロボット要塞は、今は鳥や鹿、ハリネズミなど、様々な動物のねぐらになっています。

 人々は畑を耕し、麦やくだものを育てはじめました。

 そして、じいじは柔らかい陽光の下で、麦わら帽子を編んでいました。

 その目の前の畑では、タケルが土にクワを入れ、パルが種をまいていました。

 そして、なんとあのロボット王が、その上から水をまいています。

「王様。もっとすき間なくまいてくださいな」

「うるさい。ちゃんとやっておるであろう」

「そうじゃなくて、こう」

「無礼者。わかっておる。余のすることに口を出すでない」

 それでもロボット王は一生懸命でした。彼はゼンマイ仕掛けで動いているのです。てつ学博士であるパルが、彼をよみがえらせたのでした。

 草の原に野積みとなったロボット兵たちも、てつ学者たちによって次々にゼンマイ仕掛けとなって再生され、人間と協力しあって、豊かな土地をつくっていました。

「ゼンマイが切れる前に、一反分は水をまいてくださらないと」

「うるさいのう・・・まったく人間めが・・・」

 タケルは笑って尻モチをつきました。パルも鼻の頭に土を付けて笑いました。

 じいじはそれを見て、おだやかに笑いました。

 一面にひろがる青空のどこかで、ヒバリが声高くさえずっていました。


 おしまい

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