異端ノ魔剣士
如月 恭二
プロローグ
お伽噺(とぎばなし)というものがある。それらは子供らの枕元にて語られる、史実や故事、神話のお話。摩訶不思議(まかふしぎ)で、正義や友情がもてはやされる、余りに美しく眩(まばゆ)い物語。
それら物語には基本的に、正邪が存在する。ほぼ必ずといっても良い。
馬鹿げたように思えるが、かつてこの大陸において実在したとされる英雄と、その対極に位置する存在が在った。
英雄は聖剣の担い手で、騎士でもあった。
悪の権化たる英雄の好敵手は、魔剣の遣い手であった。
物語の終局は、正義が勝利し悪の化身は無惨に討ち滅ぼされるというものだ。
それがシエル王国王立図書館に記される史実とされる。
遠い、昔の話だ。
なにせ魔剣や聖剣の類を扱うなど、昨今では夢物語が良いところなのだ。無理からぬことではある。
何故ならば、それらは《魔導具(アーティファクト)》に分類される代物だからだ。
《魔導具》に精通している人物ならいざ知らず、それは到底素人の手に負えるものではない。仮に手にしたところで遠からず廃人になるか、変死体で見付かることが関の山だ。
──だが、この大陸の隅でまことしやかに囁(ささや)かれる、実在したとされる魔剣士の噂があった。
大抵の伝承が示すものは、眉唾ものか、多少の噂に尾ひれが付随しているものだが、それだけは違っていた。
「そいつと一戦交えた」。そう嘯(うそぶ)く人間達がいたのだ。
──曰く、化け物。
──曰く、お伽噺以上にイカれてる。
──曰く、一騎当千。
──曰く、伝説以上。
──等々。
これは魔剣や聖剣の実用性のない昨今にて語られる──身一つで魔剣の域へとのぼりつめたとされる男の物語。
異端ノ魔剣士 如月 恭二 @kisaragi8310
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