山頂目指さなくても
右膝の腫れも大分治り、MRIの検査を受けた。
結果は、日帰り全身麻酔で関節鏡の手術を1ヶ月後に受ける事となった。怪我してから手術の日まで約2カ月間。まぁ、予想通りの結果だった。
松葉杖をついて歩いていても、膝に何か引っかかったような感じですごく痛く、関節の動きが悪いので膝はほとんど曲げられなかった。夜は、横を向く時に足を動かすのが痛くて寝返りも打てず、同じ態勢のままなので肩が凝り、熟睡出来なかった。
デスクワークなので、仕事は休まずに出勤していた。椅子に腰掛け膝を伸ばしたまま座る。座っていても常に膝は痛く、中々仕事に集中出来ない。
集中出来ない時、下山中に滑った時の事が頭をよぎる。K子、M男さん、C男さんともう一緒に登れない、もう山行記録も書けない、山好きのサイトで知り合った方達との山の語らいも出来ない。「山」に行けなくなる事は、漲っていたパワーの電源をOFFにしてしまった。怪我して2ヶ月程は、仕事中、夜痛くて眠れない時、何度も何度も悔やんでも悔やみ切れない思いが押し寄せてきた。
「何も考えず、痛みもなくただゆっくり眠りたい」
1番気持ちが落ちている時に、とても素敵な温かみを感じるお花の写真と、その写真につけるコメント、感想のコメントが詩的で心惹かれる山行記録をネットにアップされるている方と、ネットを通じてコメントを書かせて頂いてたHさんから、そのサイトを介してプライベートメッセージが届いた。サイトのコメントでは、数回コメントを互いにし合った事があるのだが、プライベートメッセージを貰ったのは初めてだった。Hさんも私の山行記録をネットで見て、私が足を怪我した事は知っていて、そのサイト上で温かい励ましのコメントを頂いていた。
そのメッセージには、
「歩けるようになれば、自然の陽光、空気、風がより新鮮に感じられ、道端や小川に咲いている草花が微笑みかけてくれます…そんな自然に癒される心、感動する心の動きが伝わるレコを読んでみたいです」
「これからも、メッセージのやりとりしながら時々お話ししましょう」
余りに多くの言葉を頂き、熱いものが込み上げ、「私は1人ではないんだぁ」と、改めて思った。立山に一緒に登る予定だったM男さんは、私が怪我して以来、山行中、頂上からの素敵な心洗われるような北アルプスの景色をメールで送ってくれる。私は、大事な仲間が素敵な山行をしているのが本当に嬉しくて、私も一緒に景色を眺め、感動が共有出来るのがとても嬉しかった。
手術を受ける頃には、頂いた温かい言葉が、気持ちに変化を与え穏やかな気持ちになっていた。
そして2015年9月、右膝の関節鏡による滑膜炎の手術を受けた。全身麻酔から目が覚めた時は、まだ意識が朦朧とする中、ただホッとした。
先生から、「歩く時にひっかると感じていたものは、全て綺麗に取り除きましたから大丈夫」と言われ、
「終わった」全身の力が抜け、また眠りにつく。
1週間近く、痛くて眠れない日々が続いた。数ヶ月したら今までのように普通に歩く事は出来ると思っていた。ここから更なる試練が始まった。
膝を曲げる、伸ばす、歩く、力をいれる。そんな当たり前の事が出来ない。週1回のリハビリ通院と、月1回の間接の動きを良くする膝の注射。自宅に戻ってからリハビリの先生から教わった膝の筋トレ、マッサージ。
膝の筋トレは凄く地味なトレーニング。床に座って両膝を伸ばし、右膝の下にタオルを丸めていれて、それを膝に力をいれて押しつぶす。ひたすら押しつぶすのを繰り返す。膝を伸ばす目的もある。筋肉がついてくるまで半年位かかると言われた。
歩く時には痛みがあり、ほんの少しの距離しか歩けず、階段の昇り降りも出来ない。そんな状態は4月頭位まで続いた。
何故、こんなに治りが悪いのか。中学生の時に怪我した、右膝前十字靭帯断裂、半月板損傷の手術が響いているようだ。そこに変形性膝間接症。
今までスポーツを諦めていた私の右足の筋肉は細く、特に太もも、膝上の筋肉はなかった。怪我して一層おちてしまっていた。
手術してから1日も休む事なく、自宅に戻ってから約1時間半の筋トレ、リハビリ、先生の手による施術も加わり、6月リハビリに行った際に、「ようやく膝上にちょっと筋肉がついてきたから、ここからがスタートだよ」と、言われた。
「やっとスタート地点か」
そう、4月を過ぎた辺りから歩く時の痛みが大幅に減少した。階段も手摺につかまりながら昇り降り出来る様になった。全ては地味なリハビリ、筋トレの成果。
術後、余りにも歩くのが痛く、リハビリしても成果は現れず、何度も何度もくじけそうになった。
その時も、気にかけてくれる山仲間が絶妙のタイミングでメッセージをくれた。くじけそうになると、温かい言葉に助けられここまでこれた。諦めず治るのを信じて。自分が諦めたら終わり。地味なリハビリもやり続ける。
今1番の目標は、福島県、新潟県、群馬県の3県にまたがる高原である「尾瀬」に行く事。
本来ならその先にある日本百名山の「至仏山」を目指したい所だが、下からのんびり歩き眺める事にする。そして山行記録をネットにアップする。温かいお言葉を頂いた方々に「おっ、帰ってきたな」と、サイトを通じてではあるが、「微笑んで欲しい」
山頂目指せなくても、平坦な綺麗な景色を、自分が歩けるだけ歩き、無理せず、風を感じ、空気を感じ、感じたままを記録する。
数少ない23登頂、1度も登る喜びを知らないままの人生よりも、知った人生の方がはるかに密度の濃い時間を過ごせた。知り合うことも、語り合う事もなかった人とも出会えた。山頂から見る景色、こんなにまでも熱くなる感情、泣けれくるくらいの感動。
全て「山」で教えて貰った。山に貰った。
今は怪我して約1年が経とうとしている。まだまだリハビリは続く。いつか山頂につくかもしれない。
こんなにマウンテン好きと気づいた日 久保田 美由紀 @miyuki7
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