モジモジくえすと ~そして伝説へ~

藤田アシシ

モジモジくえすと

 ぼくの名前は『。』っていいます。


 正式には句点というのですが、みんなには『まる』と呼ばれています。

 悪い魔王を倒すために旅に出たばかりの、駆け出し冒険者をやってます。


 1人じゃ心細いので、今はコロコロ転がりながら街で仲間を探しています。

 あっ、ぼくと同じようにキョロキョロと仲間探しをしている人を発見しました。


 あれは『さ』さんですね。

 これはチャンス、さっそく話しかけてみましょう。


「こんにちは、『さ』さん」


「おう、『。』か。何の用だ?」


「もし仲間を探してるのなら、ぼくをパーティに加えてくれませんか?」


「お前を? ダメに決まってるだろ!」


「そんな……、どうしてですか?」


「俺は『い』と『き』と『ょ』と『う』を仲間にして、最強パーティを作るんだ」


「そこを何とかお願いできないでしょうか?」


「はあ? 他のやつならともかく、お前と組むのだけはゴメンだね。お前が入ると、せっかくのパーティが『さい。』と『きょう』に分裂しちまう」


「みなさんの邪魔はせず、後ろを引っついていきますから」


「『最強』と『最強。』、強そうなのはどっちだ?」


「……『最強』です」


「決まりだ。お前なんぞいらん」


 そう言うと『さ』さんはどこかへ言ってしまいました。


 ……しょぼん。

 ちなみにこれは、ちょうど10回目のお断りです。


 ぼくはしかたなく諦めると、1人でザコモンスターをちまちまと狩り始めます。

 やっとの思いで何匹か倒すと、ファンファーレとともにレベルが上がりました。


  『。』のレベルがあがった!

  ちからが1ポイントあがった!

  すばやさが2ポイントあがった!


 やりました! 能力がどんどん上がっていきます!

 じゅもんを覚えたりしたらいいなあ。わくわく。


  たいりょくが1ポイントあがった!

  うんのよさが2ポイントあがった!

  ヒットポイントが5ポイントあがった!


  形状が『。』から『゜』に進化した!



 …………えっ?


 あの、何か姿が変わっちゃったんですけど……。


 こんなことってあるんですね。でも同じ『まる』だし、まあいいのかな。

 進化って言っても、位置が上の方に移動しただけなんだけどなあ。

 どうせならもっと盛大に変化して『△』にでもなりたかったな。誰かの後ろに引っついてれば『○○さんかっけぇ!』って褒め称えられるのに。


 いや、でもちょっと待ってください。


 よく考えてみると、ぼくが『。』じゃなくなったということは、パーティを分断する恐れはなくなったということではないでしょうか。


 これはもしかしたら、誰かが仲間になってくれるかもしれません。


 ちょうどそのとき、こっちに向かってくる人がいました。

 あれは『ふ』くんですね。ふーふー言いながら1人で歩いています。

 これはチャンス、さっそく仲間にしてもらいましょう。


「こんにちは、『ふ』さん」


「ふー、ふー、こんにちは『゜』くん」


「もしよかったら、ぼくを仲間にしてくれませんか?」


「ふー、ふー、それは願ってもないお誘いだ。おれもふーふー息切れする体はもうこりごりだ。こうなったら生まれ変わるつもりで一緒にパーティを組もう!」


「いいんですか! やったあ!」


 やりました! やりましたよおおお!

 これで念願のパーティを組むことができます!


 さっそくぼくは『ふ』さんと一緒に歩き始めました。



 ぷー、ぷー。

 ぷーーーーーーーーーー。



 盛大なおならの音がしました。

 周囲に耐えがたい臭気が立ち上ります。


「くっせー! 何だこの臭さ! これだったらふーふー言ってる方がましだ! じゃあな!」


「ああっ、待って! 『ふ』さん!」


 『ふ』さんはのくせに全力疾走で行ってしまいました。

 別れとは悲しいもの。そして……ひたすら臭い。

 ぼくも早くここから立ち去りたい思いでした。


 仕方なくぼくは、ふたたび1人でザコモンスターを狩ります。

 しばらくして、ファンファーレとともにレベルが上がりました。


  『゜』のレベルがあがった!

  ちからが2ポイントあがった!

  すばやさが1ポイントあがった!

  たいりょくが1ポイントあがった!

  うんのよさが1ポイントあがった!

  ヒットポイントが3ポイントあがった!


  形状が『゜』から『○』に進化した!


 おお、これは……っ!

 ぼくは嬉しくて、思わずその場で跳びはねてしまいました。


 だって○ですよ!


 先ほどぼくが「○○さんかっけぇ!」と表現したように、○にはどんな文字だって入ります。

 トランプで言えばジョーカーのような存在。

 まさにオールマイティー。


 それにぼくが先頭に立ったら、『○ほのお』とか『○れいき』とかいうパーティも作れます。きっと炎や冷気に強くなれるはずですよね。


 フハッ、フハハハハハッ!

 すごいなあ、ぼく最強じゃないですか。

 これはもう、引く手あまたってやつですかぁ? ぼくってモテモテですかぁ?


 ……いやいや、謙虚さを忘れてはいけませんよね。

 あくまでもぼくは仲間に入れてもらう身なのですから。


 ここでちょうど、ふたりの冒険者がこっちに向かってきます。


「俺たちラッキーパーティーだー♪」

「逃げ運だけなら負けなしだー♪」


 楽しそうに歌っているのは、『う』さんと『ん』さんです。

 まさに絶好の機会。ぼくはふたりに話しかけました。


「こんにちは『う』さん、『ん』さん」


「やあやあ『○』くん、こんにちは!」


「何だい『○』くん? 絶好調な俺たちのサインでも欲しいのかな?」


「あの、ぼくを仲間にしてくれませんか?」


「ほう……、最高にラッキーな我が一員になりたいとは、実に良い目の付け所だ!」


「なあ『う』、『○』くんが仲間になるって、ちょっと嫌な予感がしないか?」


「何を言ってる『ん』! 俺たちの運は誰にも止められない!」


「……それもそうだな! よし『○』くん、一緒に冒険しよう!」


「やった! ありがとうございます!」


「ハッハッハッ! いいってことよ」


「じゃあ早速、たいれつを組もう!」


 ぼくたちは隊列を組むことにしました。

 うわあ、隊列なんて初めてです。まさにパーティって感じだなあ!


「それじゃあ、ヒットポイントが高い順に並ぶぞ!」



  たいれつ   う  ん  ○



 こ、これは――っ!!

 途端に周囲に、またも耐え難い悪臭がただよってきました!

 しかも生暖かい……。


「ぐはあ――っ! 止められないのは、まさかの『うん○』かよおおおおお!」


「嫌な予感ってこれだったのかああっ! こんなやつとパーティなんて組めるか!」


「ま、待って! ぼくが真ん中に入れば! 後ろじゃなくて、真ん中に……っ!」



  たいれつ   う  ○  ん



 ぼくのとっさの機転により、悪臭はなくなりました。


「どうですか? これならウコンでもうどんでも雨天でもいけますよ!」


「いや、他はともかく雨天もダメだろ」


「それならぼくを先頭にしてください! 『○うん』で、さらに運が良くなる気がしませんか?」


「うーん、そうだなあ……」


「でも、やっぱりなあ……」


「伏せ字っぽく見えるだけで」


「どうしても品がないように見えちまうよなあ」


「……っ!!」


「ということで、やっぱり仲間にはしてやれないな」


「ごめんな。でもきみにはきみにピッタリな仲間が、きっと見つかるさ」


 こうして『う』さんと『ん』さんは行ってしまいました。

 ぼくは伏せ字……。品がない伏せ字……。ショックです。


 こうなったらレベルを上げて、もう一度別の姿になりましょう!

 ところが、


  『○』のレベルがあがった!

  ちからが4ポイントあがった!

  すばやさが1ポイントあがった!

  たいりょくが3ポイントあがった!

  うんのよさが2ポイントあがった!

  ヒットポイントが8ポイントあがった!


 ……あれ? じゃあもう一度。


  『○』のレベルがあがった!

  ちからが1ポイントあがった!

  すばやさが4ポイントあがった!

  たいりょくが1ポイントあがった!

  ヒットポイントが2ポイントあがった!



 そ、そんな……。もう進化できないのですか……?


 こんなぼくに、もう生きる希望なんて、ありません。

 尋常ではないほどのショックを受けたぼくは、命を捨てようと考えました。

 ところが首をつろうにも首らしきくびれはなく、高い場所から飛び降りてもボールのように弾み、水に飛びこんでも泡のように浮いてしまう始末です。


 そんなこんなで、ぼくが途方に暮れているときのことでした。


「おいきみ、そんな顔してどうしたんだよ」

「よかったら俺たちの仲間にならないか?」


「え……?」


 ふたりの冒険者が、ぼくに声をかけてくれました。

 こんな僕を仲間に誘ってくれるなんて、同情でも嬉しいです。

 でも……、またきっと迷惑をかけてしまうことでしょう。


 ところが、僕が顔を上げた瞬間、その不安は一瞬にして払拭されました。


「きみたちは――『●』さん!?」


 そう、ふたりは黒丸でした。そっくりなのは双子だからなのでしょうか。


 今までぼくは、文字の人ばかりに声をかけてきました。

 でも、同じ記号なら。

 僕と同じ、記号の人なら……!


「ぼくが仲間になっても、いいんですか?」


「もちろんいいに決まってるだろ!」


「俺たちが誘ってるんだし!」


 『●』さんたちの言葉が胸に染み入ります。

 まだ生きてて良かったと、ぼくは心から思いました。


「それでは、よろしくお願いします!」


「よーし、さっそくたいれつを組もう!」


「ヒットポイントが多い順な!」


「はい!」


 ぼくはわくわくしながら、たいれつを組みました。



  たいれつ   ●  ○  ●


          \パタン/

  たいれつ   ●  ●  ●



「……え?」


 何ですかこれー!? オセロですかーっ!?


「やったー、『●』仲間が増えたぞー!」

「いえーい!」


 ふたりの『●』さんたちは大喜び。

 ぼくの姿は、みごとに『●』へと変わってしまいました。

 もしかしてぼく、騙されたのでしょうか。


 そ、そんな……。こんなことって…………!


 でもぼくは、このまま負けてなどいられません。

 今まで変化してきた経験をすべて生かして、最後の抵抗を試みました。




  ○(゜。゜)○ ←現在の心境 



                おしまい

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