むっちゃん
ぞうむし
第1話
昆虫採集セット 注射器と青と赤の液体の入った瓶。
親戚のおじさん「ほらゆきを!お前虫好きやったろ?おみやげたい!」
上杉ゆきを 小学2年3組の名札をつけた僕は(何でかわからんけどすごく嫌だな)「おじちゃんありがとう」と言った。
ゆきをは団地の駐輪場に座りコミ、虫かごを見ていた。 虫かごの中にはカブト虫の幼虫 左手には昆虫採集セット。
「あっ!ゆきをー!どうしたとや?」 小学5年1組 武藤むつひこ の名札をつけた少年。
ゆきを「あっ!むっちゃん」
ー むっちゃん(武藤むつひこ) ー
ゆきを「うん、一番デカいアンドレが元気ないっちゃん」 幼虫を手のひらにのせている。
むっちゃん「治してやろうか?」
ゆきを「えっ?できると??」
むっちゃん「ああ、それば貸してんか?」と昆虫採集セットを指差す。
ゆきを「えっ?これを使うと?」
むっちゃん「うん、これに付いとるのはボーフザイとかいうやつやけんね、こっちを使うと」 (*実際は着色水)
飲みかけのファンタグレープを注射器で吸い取る。
ゆきを「だ、大丈夫と?」
むっちゃん「うん」
ブス! 幼虫の頭に針が刺さった。 幼虫は一瞬ピーン!と一直線になり、ぐったりして死んだ。
トール「あー!アンドレが死んだー!!」 「むっちゃんなんしよん?!(なにやってんだよ?!)」
むっちゃんは真顔で 「これでダメなら寿命たい、、」
むっちゃんはすべてにおいてデタラメな人だった。
9年後 ゆきをの独白
「ここは陸の孤島なんて呼ばれてる町」
「電車なんか通ってねぇから この町の若いやつらはほぼ全員免許をとって安い中古車を手に入れたりする」
「この町の産業? 競艇、あとは自衛隊だな」
「隊員たちが呑み食いする金がこの町を潤わせていた」
ゆきをは高校生になり、 団地の下でホンダCBX125Fを磨いていた。
上空をF15 イーグルが飛んでいる。
ママチャリに跨ったむっちゃん「ゆきを、あれ何?」
ゆきを「ああ、イーグルだよ、F15」
むっちゃん「ふーん、あんなのここにあるったいね」
ゆきを「いや、イーグルがあるのは千歳、小松、百里、と新田原だったと思うよ」
「ここは滑走路が短いけん、イーグルは降りれんとよ」
むっちゃん「じゃ何で飛びよるとや?」
ゆきを「明日航空祭やけんね、 前の日から練習、、っていうかコース確認で飛びよるんよ、 ほら、さっきもブルーインパルス飛びよったろ?」
むっちゃんは話を聞かず 「そうたい、明日は航空祭たいね、、」
「それよかゆきを、単車貸せちゃ!」
ゆきを「ダメって」
むっちゃん「いいやんかやん!ひっかけた女と遊び行くんやけ」
ゆきを「ダメっちゃ!だいたいむっちゃん免許持っとらんやん、 触らんでよ!」 と言い残し、自分の家に戻る。
むっちゃんは鍵を出した。
ゆきをの家 802号室
「ええっとワックス、 ワックス、」
トゥルルー ベランダ側から単車の音。 ゆきを「えっ!?」
むっちゃんはCBXをガメた。
ゆきをは鍵を確認する「まさか直結?」 鍵を掛けてある場所に 「無い、スペア、、」
次の日 コンビニ
リカーショップ マスト
ゆきをはエプロンをしている。 自動ドアが開く「いらっしゃ、、」「たくみくんなんで制服着とーと?」 自衛隊の空曹候補生の制服を着た男。
たくみ「ああ、昼から航空祭の手伝いせなんけん」
「そういやよ、武藤は元気か?」 「最近連絡取れんでくさ」
ゆきを「えー?そうなん?いやー、相変わらず働かんで毎日プラプラしてるよ」
たくみ「やっぱそうか、、」
ゆきを「マジ将来とかどうするっちゃろか?」
たくみ「なんも考えてねぇんだろうな、、あいつバカ過ぎて高校も行ってねぇのに、、」
ゆきを「でもたくみくんむっちゃんと仲良かったもんね」
たくみ「あ、?あー、まーな、、 あいつバカだけど、なんかつるんでてラクだったからな、」
「まあ、、武藤のせいでだいぶ危ねぇ目にはあったけどな、」
ゆきを「うん、あとちょっとで たくみくんも前科もちになるとこやったけんね」 ふたりは笑いながら話す。
たくみ「武藤に会ったら電話するごつ言っといて、呑み行こうぜって」
ゆきを「うん、伝えとく」
しばらくするとむっちゃんがCBXで帰って来た。
ゆきを「ああ!」 CBXは綺麗なままで安心した。
むっちゃんはバツが悪そうに「おーう、単車ありがとな」 ゆきをが単車に回り込もうとすると、さりげなく邪魔をする。
ゆきを「?、、で、女はどうやったと?」
むっちゃん「ちかっパイしてやったぜ!わしゃしゃ!!」
「じゃ、帰るわ〜、、」
むっちゃんの後ろ姿はズル剥けだった。
ゆきを「ああ!?」 急いでCBXの反対側を見たらめちゃくちゃになっていた。 「ちょー!マジであんたなんしよん?!」 むっちゃんを揺さぶる。
むっちゃん「、、ちょっとはオレのこつば心配せんね?」 ゆきを「するかちゃ!」 「ああ、ハヤカワくんに降ろしてもらったのに、、」
次の日
ハヤカワモータース
ハヤカワ「なんだよ、もうコケたんか?」
ゆきを「いや、オレじゃなくてむっちゃんが、、」
ハヤカワ「はー、かわいそうに、あいつ金持ってねぇからな、、」
「こりゃ、塗るよりタンクは買ったが早えぞ」
ゆきを「いくらくらいやか?」
ハヤカワ「、、まあ、早いけどよ、塗ってやっからよ、しばらく置いていけ」
ゆきを「ハヤカワくんありがとう、」
その夜
ポキュ! コンビニの飲むゼリーをごきゅごきゅと飲む、むっちゃん。
ゆきを「だけん(だから)飲むなっちゃ!」
むっちゃん「ゆきを、やっぱ一万貸せ!」
ゆきを「はあ?!やっぱって何ね?帰らんね!」
むっちゃん「明日までに200万いるったい!」
ゆきを「はあー!?無理やろうもん!一万ばどうすっと?それよか単車弁償せんね!」
むっちゃん「、、正門町の吉富さん知っとろーが?」
ゆきを「ああ、あのヨゴレの?あそこ配達は酒しかしねぇってのにチョコボール一個とか注文してくるけん好かんちゃ」 「それがどうしたと?」
むっちゃん「、、あの人今警察にマークされとろうが?」
ゆきを「いや、知らんけど、、」
むっちゃんは親指と人差し指で小さな輪っかを作り「これくらいの塊を預かったったい」
ゆきを「なんの塊ね?」
むっちゃんは小声で 「、、覚醒剤たい」
ゆきを「はあー?そればどうしたと?」
むっちゃん「ほら、中央病院の隣にでかい屋敷があろうが?」
ゆきを「うん、?」
むっちゃん「そこの錦鯉ばガメに行ったったい、、」
ゆきを「なんしよん?!ガメてどうするとね?」
むっちゃん「いや、高く売れるち聞いたけん、TVで」
ゆきを「はい!出ましたむっちゃんのTV情報!」 「だいたいコネクションもないのにどこに売るつもりやったとね」
むっちゃん「、、やかましい! でからくさ!鯉ば掴みよったら、、 ポケットの中で溶けてから、、」
ゆきを「はあ?!クスリが?? 」
むっちゃんは頷き、 「なんか鯉が何匹か浮いてきよってくさ、、」
「だけん!末端価格の200! どうしてもいるったい!」
ゆきを「無理無理無理!どうやって!」
ふたりはパチンコ屋の前に立っていた。
ゆきを「いや、、どげん爆発しても200万とか出らんちゃ!」
むっちゃんは真顔で 「タネ銭たい」
しばらくしてむっちゃんが出てきた。
20万持っている。
ニヤリ、、
ゆきを「むっちゃんすげぇ!! 一万返して!あと単車の、、」
むっちゃんはプイとポケットに収めて、 「宮本武蔵って知っとーや?」
ゆきを「うん?」
むっちゃん「あれで佐々木小次郎がサヤを投げ捨てたときに「コジロー敗れたりー!」っていうのがあるったい」
「何でかわかるや?勝ってサヤに納めるつもりがないってこったい」
「お前に今一万返したら勝つつもりがないってこったい!」
「勝負行く前に負けること考えるかちゃ!バカヤロー」
ゆきを「それ猪木のセリフやんね!」
むっちゃん「明日ぁ、、行くぞ、、」
ゆきを「?、、まっまさか!」
むっちゃん「ああ!オレたちの町にはボートがあろうもん!!」
競艇場 職員の予想屋「おー、むっちゃん!」 むっちゃんは予想屋に100円渡し、予想の書かれた紙を見る。 「4-6ー1が穴か、、」
第一レースが始まった。
ゆきを「あー!あー!」
「惜しい!4-6-2!これも配当でけぇ!!」
ピラッ!むっちゃんが誇らしげに舟券を見せた。 買っていた。
ゆきを「わー!むっちゃん!今日は男の一点買いじゃないったい!?」
むっちゃん「今日は負けられんけんね、、」
第五レース ゆきを「今いくら増えた?」
むっちゃん「、、36万だ」
ゆきを「行けるかいな?」
むっちゃん「まずまずだ、確実に増やすぞ、、」
第六レース ゆきを「は、、89万」
むっちゃんは無言だ。
最終レース
むっちゃん「、、勝ったぞ」
ゆきを「え!?」
むっちゃん「タネ銭は完璧だ」 「一点買い行くぞ、、」
ゆきを「ダメって分散せんと危ないって!」
むっちゃん「バカか!もう分散して3連は終わりたい!」
「次のレースは佐々木と西島のワンツーガッチガチ!2ー3の2連複で絶対来る!!」
「こういうのが金持っとるやつの賭け方たい、、」
ゆきを「えー、百万も突っ込んだらオッズ下がらんと?」
むっちゃん「下がっても200切ることは無か!!」
第七レース終了
死にそうな顔のむっちゃん。 電光掲示板には 二連複2ー4
ゆきを「、、、」
ゆきをの独白
「その後 むっちゃんは逃げた。」
「むっちゃんは宮崎のパチンコ屋に就職して 職場で出会ったヤンキー女と結婚した」
「そして吉富さんはクスリでボジけて(ラリって)発砲事件を起こし逮捕されて塊の件はうやむやになった」
「その後むっちゃんに子どもが出来た。女の子だ。」
「むっちゃんははじめて大切なものが出来たと泣いたらしい」
「3歳の夏 その子が海水浴で溺れた。」
「それを助けようとしてむっちゃんは死んだ。 子どもは助かった」
「オレはまだこの町にいる」 ゆきをは空を見上げた。
イーグルが飛んでいる。
ゆきをの子ども「おとーさんどーしたと?」
ゆきを「ああ、おとーさんの友達のことを思い出しとった」
ゆきをの子ども「おともだちー?」
ゆきを「ああ、遠〜いとこに行っちゃって会えんけど」
ゆきをの子ども「会えるといいねー」
ー むっちゃん 了
むっちゃん ぞうむし @zomusi
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