ダグラス・アダムス風カップ焼きそばの作り方

鶴見トイ

カップ焼きそばの作り方

 これは銀河じゅうでよく知られた話だが、マクシメガロン大学のジョール・ビービーンクスが唱えた説によると、カップ焼きそばの作り方には五つの重要な要素が存在する。


一、いつ。これはカップ焼きそばにいつ湯が注がれたかということを意味する。これは必ずカップ焼きそばを食べる前でなければならない。カップ焼きそばを食べてから湯を注ぐこともできなくはないが、そういう行いは銀河のたいていの地域で『バルザーグウィ』(時間の順序をわきまえないやつの意味)として侮辱されることになる。


二、どこで。どこでカップ焼きそばを作ろうとしたのかを忘れてはいけない。とあるヒッチハイカーがヒッチハイクとヒッチハイクの合間、小腹を満たすためにベクルックス星でカップ焼きそばに湯を注ぎ三分間まとうとしたが、カップ焼きそばの製造地点とベクルックス星の公転周期の差をうっかりと忘れていたため、三分が経ったころには容器の中では新たな知的生命体が発生していた。そして容器の中では、限られた資源であるかやくを巡ってその後何世紀にも渡る熾烈で凄惨で酸鼻きわまる大戦争が繰り広げられることになったのだが、ヒッチハイカーがあわてて次の宇宙船に乗り込むときに容器ごとゴミ箱へ捨てられたためにすべては灰燼に帰してしまった。


三、誰が。誰がカップ焼きそばを作るのかは必ず明らかにしておかなければならない。銀河大法廷の判例によれば、カップ焼きそばを作った人間にはそのカップ焼きそばに対する味見権が発生する。この判例が出来て以降、レグルス星では味見権に対してオプションを設定した金融商品が流行したが、ある新人トレーダーがこの味見権というものの金融価値に疑問を抱いて詳しく調査した結果、これを組み込んだ商品すべてが十分の一の価値に暴落してしまった。証券会社は大量の人員をリストラし、彼らは乏しくなった財布の中身で購入できるカップ焼きそばばかりをすすることとなった。これは『カップ焼きそば・ショック』と呼ばれており、現在でもレグルス星の金融街では今でもカップ焼きそばの持ち込みが禁止となっている区域が多い。


四、何を。何をカップ焼きそばとして作ろうとしているのかを理解している必要がある。カップ焼きそばは少なくとも麺とかやく、それにソースという要素を持ち、耐熱の容器に入れられ、湯を注いで作るインスタントの食品である。しかしこの定義に当てはまる食品は銀河じゅうで少なくとも五万二千七百三十一は存在するため、異なる星の間ではカップ焼きそばに対する解釈違いがしょっちゅう発生している。ミルファク星の生命体はこの問題の最終的な解決のため、彼らの星のマザーコンピューターに正しいカップ焼きそばの定義を行わせようとしたが、この処理があまりに重かったためシステムが巻き込まれて次々ダウンしていき、ミルファク星の文明レベルは原始時代にまで戻ってしまった。今ではミルファク星の住人たちはカップ焼きそばの存在など知らず木の実を採取して平和に暮らしている。


五、なぜ。なぜカップ焼きそばを作るのか。この点については詳細な記述を差し控える必要がある。なぜならば、この疑問を追求しようとすると、結局あの二桁の数字に突き当たることになるからだ。

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