第4話

 目の前の骸骨は今や笑ってはいなかった。

「お兄様」

 背後から声がするのでぼくは振り向く。部屋の入口に立っていたのは君だった。あの日の美しい姿のままの君だった。


「エリカ」


 ぼくは君の名前を呼ぶ。君は微笑む。久しぶりに見たその笑顔が泣きそうなくらい嬉しかった。

 ぼくは床に膝をついて彼女を拝むように見つめた。



「愛してる、エリカ」


「じゃあどうして」


「どうして私を殺したの」


 エリカと骸骨が同時に叫んだ。その瞬間エリカの姿がどんどん腐っていく。腐って姿をとどめなくなる。腐って腐って、ずぶずぶになって、最後に彼女は塵になった。悲しくなってぼくは骸骨を抱きしめた。行く筋か残った髪を撫でながら、ぼくは彼女の名前を呼んだ。


「君がどこかへ行ってしまうのが怖かったんだ。


ずっとそばに居たかった。それだけだったんだ」


 リボンが、手に触れたリボンがしなやかで優しかった。


「私も同じよ、お兄様」


 骸骨がまた笑った気がした。


「ずっと側にいたいから。だから。」




 私はあなたを、逃さないわ。


 おにごっこをしましょう、きっと楽しいから。ほら、昔みたいに。


 私が鬼の時、お兄様はいつも、さいごにはわざと捕まってくれていたよのね、


 わかっていたけど、嬉しかった。それと同じくらい、寂しかった。


 だってお兄様を捕まえたら、おにごっこは終わってしまうでしょう。


 おにごっこが終わるのはとてもさみしい。


 だから、ほら、お兄様また逃げて。


 私はあなたがどこにいたってつかまえられるのよ。


 永遠に、永遠に、私はあなたを、逃さないから。


 だってこんなにも。


「私はあなたを、愛しているのだもの」


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月のない夜に 阿瀬みち @azemichi

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