Day of days(記念すべき日)
『あなたのことを教えてください』
そう、Dearは言った。Doomは承諾し、空を飛んだ。
二人は墓地に立っていた。Doomは片手にブーケを、もう片方の手でDearを連れて、その丘を訪れた。小さくない信号変換器を五つも増設したためにインターフェースは走れなくなった。DoomはDearの手を引いて歩いた。
「……俺の先生は」
Doomは空を仰いだ。高い空は青く、澄んでいた。地上を吹く風が青々とした草の匂いを運んでくる。
「墓地にいる。そう聞いた。それから、もうずいぶんになる」
風が吹き、Doomは帽子を押さえた。丘の上からは墓地が一望できる。そのどれも『先生』のものではない。
「先生がどこに眠っているのか俺は知らない。名前を知らない俺には、墓標を見つけることができなかった」
黄色のスプレーマムを携えて、DoomはDearへ話し続けた。Dearの白い髪が風に舞った。
「愛していたんですか」
「どうしてそうなる。先生だと言ったはずだ」
「あまり関係ないでしょう。それに、なぜってその花、スプレーマムでしょう?」
「……墓参りといえば菊だろ。なにか、おかしいか」
二人はきょとんとして顔を見合わせた。そこへ、後ろから声がかかった。
「……だからって一重咲きの洋菊を持ってくるやつがあるか」
「……先生!」
金の髪、黒のベスト、チャームのついたリボンタイと不機嫌そうな顔。記憶と寸分たがわぬDropsがそこにいた。
「久方ぶりだな。息災だったか」
「先生、死んだはずでは」
先生は駆け寄ったDoomの額を叩いた。
「目の前にいる人間に対して『死んだはずでは』とはとんだ挨拶だな。墓守は生きた人間の仕事だ。まあ、さして面白くはないが」
「ああ、ええ……その、要ります?」
Doomははっとして帽子を取り、持っていた花束を差し出した。
「貰っておこう」
受け取った花束を担ぎ上げて、DropsはふっとDearを見た。
「インターフェースか。私が若いころはこの手のものは自作するのが普通だった。そうだな、知りたいというなら教えるが、どうだ。見たところかなり無理な改装を施しているようだが……」
「どうしますか、Doom?」
Dearが尋ねた。
「……そ、そうですね、お願いします」
「可愛いな」
Daerの方を一瞥し、ぼそりとDropsは呟いた。Doomは我に返り、Dropsの発した言葉に戸惑った。
「は……今、なんて?」
「独り言だ。気にするな」
Dropsは何でもないことのように首を振った。二人についてくるよう促し、屋敷へ案内した。
客間らしきところへ通された二人の元へ、Dropsはティーセットと茶請けの小さな菓子を盆に載せて戻ってきた。手焼きのクッキーと小さな金平糖。パステルカラーの星をつまみ、Dropsは言った。
「花束に土産を仕込むのはあまり感心しないな。まあ、折角来たんだから茶でも飲んでいけ。今どんな船に乗ってるんだ。危険なことはしてないだろうな」
とぽとぽと茶を注ぎながらDropsは矢継ぎ早に尋ねた。
「え、ええと……」
DoomはDearを横目に、しどろもどろになって弁明した。Dearはそんな彼を見て、くすくすと笑った。
デリシャス・メテオ 佳原雪 @setsu_yosihara
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