第3話


オレの名前はナント ナク。

もうこれは一話目で説明してあるから必要ないって?


いやいや、仮にそうだとしても人の名前なんて一発で憶えるの難しくない?


一人や二人ならまだしも、それはあれだろう?

外見相まってのことだ。


テレビで有名な何十人体制のアイドルとか

大体憶えられる名前は服装や口調、顔に少し特徴がある人物に限るだろう?


ええ?違うの?

まあそうか。それは君がもしかすると

記憶力がずば抜けていいか

その初対面の人に一目惚れしたんだな。

オレはそんなことないけどね、


いや断じてないから。

ほんとにないからね?

嘘じゃねえしッッッ

ほんとにないから?やめてくれない?

いやなに?今、風呂に入ってますけど

別に祖父の家から帰ってきて自分の部屋の布団をめくってみたら自分と同い年くらい女の子が寝ていて気が動転したから取り敢えず風呂に入ってとかそういう理由じゃないからね?

べつにタイプだったとかそういう訳じゃないからね?


勘違いしないでよね?


あ…勘違いしないでよね?とかツンデレのキッツイ目つきと性格を併せ持った女の子に頬を赤らめながら言われたい…




ゴホン。まあそれはさておき。

状況を整理する。


じいちゃんの家には正月に三日間滞在していた。

大晦日に爺ちゃんの家に行って一月三日の今日、帰宅した訳だが、大晦日の時点では

布団の中に女はいなかった。


いや、当たり前だ。

せめて居たとしても、最悪存在していてあり得るのは害虫くらいだ。

人間が布団にいるなんてホラーだよ。

いやそもそも幽霊の可能性だってあり得る。

見間違いかもしれない…そんなことを思って、それを懸念して今こうして顔を洗うプラス眠気覚まし効果を狙って風呂に入っているのだ。


つまり、話を戻すと

じいちゃんの家に行ってる最中に侵入したか

たまたまテレポートしてオレの布団の中にあらわれた。

と考えるのが妥当。


しかしながらこのフルーツトマトスイカ味は美味いなあ。

トマト嫌いなオレでもこれなら食べれる。

むしろこれしか食べれなかった。

トマトが好物に変わったのもこの

フルーツトマトスイカ味のおかげだ。

むしゃむしゃと食べているが

一応 、言っておく。


風呂はトマト食べる場所ではありません。

ほらご覧の通り湯船が真っ赤です。


いや違いました。

頭を打って少し流血したのと

女の子が家にいることが不思議で初体験だったのでよくある風呂場ラッキースケベ展開なんて想像してたら鼻血が出ただけです。


はい。



ガチャリ。


話を整理しようとか言って全く整理出来ないが

そもそも『状況を整理しよう』なんて言ってほんとに状況整理出来るのは状況整理できるキャラがやることでオレのやるべきことでもやれることでもなかったんだと再認識をせざるを得ない。

だってそんなことする前に

もう事件が大きな口を開いてこちらにかぶりつこうとしているのだから…


風呂場のドアが開いた音がした。

トマトを持つ手が固まる。

湯船から出てる首筋がひんやりとする

洗面所の冷気が浴場に侵入したという理由もあるが、それだけではない、

母親も弟もとっくに就寝している。


だとすれば勝手にドアが開いたことになる。

経年劣化というやつか。

いやそれは考えずらい。

絶対ないとは言えないが考え辛い。

なぜなら、それを理由にするより罷り通る理由が存在してしまっているから。


つまりドアををあける

ドアをこの状況下で開けられる人物をオレは知っているし、想定出来てしまうし、もうすでに断言出来るからである。


多分きっと心のどこかで恐怖していたのだろう。


侵入していたのはあっちなのに

こちらに罪を着せられる気がしたのだろう。

だから起こさなかったし知らないふりをした。

見てないふりをした。

母にも言わなかった。


きっと布団の中いたのが老婆だったら一目散にその場から逃げて母親に報告して警察に通報していたのかも知らない。それか

すぐさま起こしたかもしれない。


そうしてない。

今現在、そうするべきなのにそう出来ていないのには理由があったのだ。


ただ、怖かった。

こんな自分に、学校でも一回だけ告白されたことがあるくらいの自分に、

それも罰ゲームで嘘告白されたことしかないだけの自分にそもそも女の子が寄ってくることなんてない自分の布団に今起こっているこの事件に恐怖をしていただけだった。


そしてもう一つ。

その女が自分に不似合いなくらい

絶世の美顔だった。

おそらくそんなところだろう。



湯船から湧き立つ煙が邪魔をする


全貌は見えない。

ただ、桃色の頭髪が煙から垣間見える

唾を飲んだ。

しかし

その唾すらまともに喉を通らない。

気は動転していた。

もうこれ以上ないくらい心拍数は上がっていた。

これが恐怖か緊張か昂揚か

すらも判別はつかない。


また姿は見えない。ただ

影は見える。



それでも

一度見たら忘れられない

異次元のカワイイが体現されたものが

ヌッと現れたのだから

もう見えたと言って過言ではない。





というか過言であってくれ。



目の前にはさっきまで

オレの布団で寝ていた筈の

女の子が立っていた。

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サバ缶から始まる異世界転生! トナリ @Tonari

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