第2話 愛の36回払い

「むにゃむにゃ……もう食べられないよ」


なぜ俺のベットに一子が寝ているのか。俺の住む家と一子の住む家は隣同士であり、この部屋の窓を開ければ、すぐに一子の部屋の窓が見えるのだ。

一子はいつも早朝に、寒いと言っては俺のベットへと潜り込んでくる。

一つ言わせて貰えば、俺が連れ込んでいるわけではない。一子が勝手に潜り混むのだ。

やれやれ。

犬柄のパジャマで俺の毛布にしがみついて寝る一子は幸せそうな寝顔で寝ている。

毎朝毎朝、夏以外のほぼ毎日、俺のベットへと入ってくるせいで朝早くに目が覚めてしまう。


「おい、起きろ。一子。そこは俺の寝るとこだ」


「……むにゃ」


「……肉だぞ。ほら、起きたら肉をあげよう」


「にくっ!! どこ!! にくどこ!!」


肉と聞くや否やものすごいスピードで起きる幼馴染。犬見一子、大好物は肉である。

もう食べられない、とか言ってた割に食欲旺盛だな。

拗ねたときとかは肉をやると結構簡単にご機嫌になるからチョロ……いや素直なやつだ。

嫌いなものは野菜。特に玉ねぎがダメらしく、見るだけでも身の毛がよだつらしい。


「肉ならないぞ。ほら、さっさと起きてくれ。まだ5時なんだ。俺はまだ寝たい」


「一緒に寝てもいいんだよ?」


「だから一緒に寝れないから言ってるんだけど。いつも俺のベットには入り込むなって釘を刺しておいたはずなんだけどなぁ?」


そう。今日一度ではない。

だから俺の安眠のために、少し脅しをかけるように言ってやった。

一子はバツ悪そうに目を泳がせる。


「ちちちち、違うよ。これは私の寝相で……」


「どんな寝相だ。部屋どころか住む家を超えてくるわけないだろ」


「えっと…………おやすみなさい!!」


「都合が悪くなったからって寝るな。起きろ起きろ。そして自分の部屋に帰ってくれ」


「やだやだやだ! ここがいいの! 拓也くんの匂いの染み付いた布団じゃないと嫌なの!」


「……じゃあそれやるから帰ってくれない?」


「本当に!? やったやった! 一生の宝物にする! ジップロックに入れて永久保存するね!」


あまりの食いつきに思わず動揺する俺。何なんだ、男子高校生の体臭の染み付いた毛布なんて欲しいのか。

というか流石に冗談だったんだけど……


「ごめん、やっぱりそれないと俺も困るし……」


「えーっ! 生殺しじゃん! 全財産出すから頂戴! 買い取るよ! いくら? ローン効く? 128回払いで買うよ!」


「やめとけ。幼馴染からなけなしのお小遣いを取るほど俺は鬼畜じゃないぞ」


「うぅぅ、お願い! 私の一生のお願い!」


「この前も弁当のおかず分けて欲しさに一生のお願い使ってたな」


「じゃあ1年分のお願い!36回払いで!」


「お願いにローンはないぞ」


「ケチケチ! 毛布くらいいいじゃん!」


「うるさいな。今日も一限目から体育なんだからギリギリまで寝かせてくれ」


「愛は!? 拓也くんの愛はローンで買えないの!?」


結局一子をベッドから無理やり剥がして、追い出して快眠することが出来た。

ずっと拗ねてたけれど、昼飯の弁当にハンバーグをあげたらケロッとご機嫌になっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

犬見さんと猫島さん 山田ひつじ @wahu21

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る