犬見さんと猫島さん

山田ひつじ

第1話 どっちが好き?

「犬と猫どっちが好き?」


よくある会話のテーマの一つに挙げられるこの質問に対して、俺は何て答えるべきなのか。

俺は未だに持ちうる答えを持たない。


「もちろん、犬だよね?」


そうやってこちらに身体を乗り出さんばかりに迫ってくるのは幼馴染の犬見一子いぬみかずこ。ふわふわくせ毛のショートヘアと元気が特徴の幼馴染だ。

名前の通りに犬っぽいやつで、俺を飼い主か何かと思うくらいに懐いてくる。

高校に入った今でも、腐れ縁というやつなのか、席が必ず隣だ。


「いいえ、犬見さん。もちよん猫が好みに決まってますわ。まぁ、あくまで動物の話……ですけど」


俺の左隣に座る女子の紹介もしておこう。彼女の名前は猫島美衣子ねこしまみいこという。1週間ほど前にうちのクラスに転校してきてから、席が隣ということで大分仲良くなれた女の子だ。どうやら一子とはあまり相性はよろしくないようだ。

一子とは対照的に黒髪ロングであり清楚系な雰囲気を纏っている。スレンダーでスタイルもよく、どこかミステリアスな感じもする。



「犬は飼い主に尽くすし、人懐っこくてとっても誠実だもんね!」


「猫は気まぐれで自分勝手で、媚びることはしません。けれど気品と上品さがありますもの。それだけで十分ですわ」


俺を挟んでビリビリと睨み合いを始める2人。一体、何なんだ……


「もちろん拓也くんは犬派でしょ? ね?」


「いいえ。拓也さんは猫派だと私は信じています」


俺は板挟みにされ、どちらも肯定や否定もすることができなかった。犬には犬の良さがあるし、猫には猫の良さがある。

犬は飼い主に従順なところがあるし、猫はたまにみせる甘えた感じがたまらなくいい。

俺はマジョリティ同士の二者択一は苦手だ。

カレーとラーメンのどちらか選ぶことが難しいように、犬と猫もまた然り。

こういう場合、何故両方を選んではいけないのだろうか。


「拓也くんは将来飼うなら犬がいいよね?」


「えと、何で将来?」


「細かいことは気にしないの。犬飼ったらきっと楽しい毎日だよ?」


犬はご主人の帰りをきちんと待つんだろうなぁ。帰ってきたら甘えて尻尾を振ってくるところなんて最高に可愛いに違いない。


「あら、猫もいいですわよ。散歩に連れていかなくてもいいですし。手間がかかりませんもの。それに可愛さだけなら犬には負けてませんわ」


圧倒的な猫の可愛さも捨てがたい。基本的にクールだけれど、ふとしたときに見せる仕草や表情なんかは破壊力抜群だ。

犬がデレデレなら、猫はクーデレといったところか。


あぁ、やっぱり迷うなぁ。


一子はニコニコとした笑顔で、猫島さんはちょっと高圧的な表情で俺を見ている。

それはまるで犬と猫のような。

人間で言うから、可愛い系か美人系か。


「「どっちを飼うの!?」」


どっちも飼ったらいけませんかね……。

きっとその答えは納得してもらえないんだろうなぁ。

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