人形使い
源 三津樹
人形使い
ふと、見上げると視界に入る。
別に意図したわけではないのだから、嫌ならば「外す」事で対処出来るのだからすれば良いとは思う。
もっとも、それでは対処出来ない物事や場合と言うのもあるので、その限りではないのだけれど。
「やっちまえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「させるかよ!」
一日の疲れを全身に背負った状態で、こんな事にかち合う事が最近は特に増えてきた様な気がした。
これもこれも、他人事なら不満を口にしたかも知れない。ただ、この問題は本当に他人事と言うには言い切れない環境の中にあるので心中は複雑だ。多かれ少なかれ、そして遅かれ早かれこの状況になるのだと判っていたのならば、結局はこうなったのだろうから一刻も遅くこの時が来てくれればよかったのに。
などと、思わないわけでもないけれど思ったからと言ってどうにかなるものでもない。
なると言うのであれば、幾らでも思っただろうとは思うけれど。
思う思うばかり言っていたので、なんだか思う事がゲシュタルト崩壊してきた気もしないでもない。
簡単に言えば、それまでは普通に見えていたものがバラバラに見えてきた様な感じとでも言えば良いのか…昨今の使い道としては聞こえ方や言い方や文字とか、まあ応用が色々と効くわけではあるのだが。
「
道のど真ん中と言うわけではないが、重い足取りで進む人々の間を遮るような、それでいて縫うように対峙する二人の若者…否、片方は若者と言うには少しばかりトウが立っている様な気がしないでもないが。人には見かけと中身が一致しない事など普通にある事だ。気にするまでもない。
特に、二人の男性の間を縫うように分け入る人達にとっては「関わりあいたくもない」と言う程度には彼らを不愉快だと思っている人達がいるのは見ての通りだ。しかしながら、この手の輩を放置しておくのは立場的にもいささか具合が良いとは言えない…だろう。立場的にも。
結果、生じた現象は期待以上ではあった。
予測通り、とはいかなかったのだけれど。
「……帰ろう」
ぼそりと呟くと、足早く過ぎ去る人と野次馬的善意風好奇心の塊の人達と、純粋な好奇心の塊と三つのグループに分かれた。すでに携帯電話と言うものが復旧して始まりを覚えている人達も少なくなった昨今、通りすがりに一枚ぱしゃりと写されて全世界的羞恥プレイの憂き目にあう事も珍しくはない……まあ、それでも身近な所で起きるかと問われればそうとも言い切れないのが現実なのだが。
それでも、少なくとも過ぎ去る人達のグループの波に乗れたのは幸いと言うべきだろう。
何しろ、これから家に帰って休む支度をしなければならない忙しい身の上だ。これ以上の面倒事など心の底から御免こうむると言うのが本音だ。
「やったでしょ?」
古めかしいというか、味があると言うかは人それぞれだろう。
木造建築二階建てとは言え、昨今ではこれだけの土地があれば早々にマンションにでも建て替えてもおかしくはないと言われる事もあるが住宅地のど真ん中。しかも、ご近所は旧態以前からの空き家もちらほらと目立ち始めている地域だ。こんな所でマンションを建てた所で、そう言う意味では中途半端な客層しか望めない上に駅からも距離があるので、立地条件が良いかと問われれば「否」と答えるのは自分だけではないだろうと思う。
それでも、物心ついた時にはこの家にいた記憶があるのだから恐らく生まれもこの家なのだろうと思う程度に愛着はあるのだ……仮に、大きさの割に人がほとんど住んでいないのであっても。
仮にではない、事実だ。
「やったって……何?」
朝から大学……学生なのだから学び舎で学んでくるのは何らおかしくはないだろう、勉学に励んでからアルバイト……己の食い扶持くらいは稼いだところで文句を言われる筋合いもないだろう。何しろ、両親などと言うものはすでにこの世にいないのだから。
つい、先程まで勉強と仕事で疲れた体を引きずって。やっとこさっとこ帰ってきた所で、挨拶以前に家主に向かって犯罪者を告白させるがごとく軽いナンパ野郎かと言いたくなるほどの軽さで言って来た相手は……店子である。親戚である。居候である。
「連れないなあ……あ、夕飯どうする?」
「食べる……疲れてるんだ」
「判ってるよ、でもあんまり眉間に皺を寄せると戻らなくなるよ?」
まだ若いんだからさ……などと
正直、ただでさえ童顔なのにへらへらした顔をしていたら余計に軽く若くなめられるのではないかと言う気もしないでもないが、事実血のつながった親戚である以上は見てくれの割に歳が行ってると言う事実は己にも当てはまるのだと思って更に
別に、若いのは若いので事実なのだからどうでも良いと言う言い方もアレだが構わないとして。だからと言って、同じようにへらへらと笑っていたいかと言われると落ち着かないと言うかなんと言うか。
「同じ
「……幾らなんでも、同じって言われるのはどうかと思う」
夜も遅いから麺類にしたんだ、と言われながら出されたのはキノコたっぷり和風スープパスタ(海苔増量)である。キノコから出ただけではない出汁と海苔の風味でわずかに頬が緩む気はするが、だからと言ってだらける気にはどうしてもなれなかった。
「こんな事は、これから幾らでも起きるよ?」
「疲れて早く帰りたいのに、邪魔するのが悪い」
これから発売される、一つのゲームがある。
発売とは言っても、まだ少し時間がかかる。
何故なら、それはソフト単体ならば無料ダウンロードをする事が可能だ。すでに試用ダウンロードをして遊んでいる者も存在する。先ほどの、彼らの様に。
ソフトと、かなり性能を求められるコンピューター。ウェアラブルと呼ばれる有線または無線で使用する事の出来るオプションの付属品……それらは、
彼らは動作で、音声で、これまでキーボードと画面の中で起きていた多くの奇跡を楽しみに変えて遊ぶ。正確には、遊んで貰わなければ困る。
誰が? それは誰かだ。
今はまだ少ないとは言え、VRとも呼ばれる
仮想であるヴァーチャルだったものが、世界と溶け合うフュージョンする……それは、現実と虚構の境界線さえも溶け合ってゆくかも知れない危険なものだと言う声がないわけでもない。すでに仮想現実だった頃からそうだったのだ、今さらと言えば今更だろう。
それでも、まだ手段がないわけではない。機器だ。
「情けない……
「いきなり割り込むほど神経太くないし」
ゲームソフトの
使用者は街中の、自室の、学校の、会社の、公的機関の、まあどこかにいる「キャラ」と対峙する事でゲームをスタートさせる事が出来る。出会った「キャラ」とどんな関係になるかは不明だが、そのキャラとの関係を深める事で「キャラ」や「自分」へのアイテムだったり能力だったりを延ばすことが出来る。
そうして初めて、
そう、思わずうっかり通りすがりに魔法で「ぶっ潰す」と言う手段に出たくなった程度には。
ネットニュースで、駅の入り口で若者二人が何かに押しつぶされたかの様に突然ぶっ倒れたと言うのは話題になっており、思わずため息をつきたくなる。
ただし、自前ではない。
このキノコたっぷり和風スープパスタを製作した様に半分以上を独力で作り上げた人物が目の前で年齢詐称を訴えたくなる人物だ。その試用者として身内として使っていた。
……もっとも、この話は当然の事ながらそれだけでは済まないのだが。
とりあえず、食べ終わったらお風呂に入って寝よう。と思った一人がいて。
とりあえず、食べ終わったら詳しい話を聞かないと。と思った一人がいて。
何はともあれ、今日も平和に一日は終わる様で……あ……る?
終わる
人形使い 源 三津樹 @Inquest13
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