我が家のクリームシチュー。

※虫ネタです。

 苦手な方は逃げてーーー!






 我が家は築80年越えだったのと(現在は建て直した)

 田舎だったこともあり、家の仲で虫を頻繁に見かけた。


 中学生の頃、お風呂のふたを開けたら、湯船の半分以上が真っ黒だったことがあった。


 それは、すべてアリだったのだ。

 しかもみな水死していた。


 当時の我が家のお風呂はタイル張り、しかも祖父(農夫)の手作りのお風呂なので隙間だらけだった。

 だからよく、虫が隙間からこんにちは、してきたのだが。


 アリの集団自殺(いや事故か)は初めて見た。

 たぶん、タイルの隙間から出てきてそのまま進んで、湯船に落ちたのだろうと推測

 よく分からないけど、とりあえずその日はお風呂に入れなかった。

  

 それ以外にも、お風呂の天井に蜘蛛が巣を張っていることもよくあった。


 やけにデカい蜘蛛で怖いんだけど、こちらが何もしなければ、あっちも何もしてこないので、普通にお風呂に入ったこともあったなあ。


 さて。

 そんな虫と切っても切れない縁がある私の家。


 冬になると、晩ご飯のメニューに多くなるのは、クリームシチューである。

 クリームシチューといえば、ほうれん草。


 ほうれん草は、我が家で育てたものを使う。


 そして、我が家のクリームシチューにはもう一つ特徴がある。


 小さな小さな黒い点があること。


 クリームシチューだから、分かる。


 あちこちにその小さな黒があることが。


 よーく見れば足まである!


 私は恐る恐る母に尋ねる。


「この黒い点、もしかして虫?」


 母はあっけらかんとして答えた。


「ほうれん草にちょっと虫がつくんだよ」


 ちょっと、って量じゃねえ!


 母はさらに言う。


「虫がつくくらいに家のほうれん草は、栄養があるの」


 物は言いようである。


 我が家のクリームシチューには、いつも虫がいる。

 それが当たり前になってしまった。


 だから、シチューにほうれん草を使っていない時はホッとしたものだ。


 しかし、もっと厄介なこともある。

 それは、ホワイトシチューではなく

 

 ビーフシチューの時だ!


 母はビーフシチューをクリームシチューのノリで作る人なので

 ビーフシチューにも高確率で家でつくったほうれん草が入っている。


 ビーフシチューで黒い虫を探すのは、至難の業だ。

 なので、あきらめて食べるしかない。

 世の中、そんなものである。


 私が20歳を過ぎてからも、相変わらず我が家のクリームシチューは


 ほうれん草と愉快な仲間が入っていた。


 黒ゴマよりも少しだけ小さいそれは、白い中ですごく目立つ。

  

 しかし、私がそれくらいの年齢になり「これ虫だよね?」と母に言っても「気のせい」とはぐらかすようになった。


 そして、私が愉快な仲間をじっと観察し「足があるよ」と報告すると母は怒ってこう言う。


「変なこと言わないでよ! そんなこと言うのはアンタだけだよ」


 突然キレられる。


 だから、我が家のクリームシチューには色々な意味で思い出がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脱力家族 花 千世子 @hanachoco

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ