何で二人も同じものに?
学園での手続きを終え、衛達は学園で部活を行っている生徒達の間を縫って学園を出た。気づけば時間は12時を指すところだった。そろそろお腹が空いてきた頃あいである。
「これからどうすんだよ?」
「そうですね。それではそのまま商業都市に行きましょうか」
「制服ですし、学生割りが効くのでその方がいいですね」
「そういえばここに来る前に制服の学生が商業都市にいるのを見たな」
「それは学生割りが効くからなんですよ」
「なるほどな」
本州でも学割というものが存在していたが、それはアトランティスも変わらないようだ。制服を着ていないと学生割りが効かないのは不便だが、学生が多いこの島では普通なのだろう。そういえば学生証なるものがなかったのを思い出す。そう考えればその光景に違和感はないのだろう。
「それでは行きましょうか」
「そうですね」
「だな」
衛達は学園から離れて商業都市に向かう。流石に昼間とあって学生達で商業都市は溢れかえっていた。どこもかしこも制服を着ている学生が多く、衛はその光景に少し戸惑った。
「アトランティスって学生が大半なのか?」
「そうですね。中には大人の方もいますが、島のほとんどが学生なんですよ」
「大人って言っても先生だったり、研究者だったりがほとんどなんだけどね」
「ふーん」
しばらくするとファーストフード店が連なっている商業都市の入口が見えてきた。ラインナップは本州にもある有名な店もあれば、聞いたことのないおそらくアトランティスにしかない店が並んでいる。
「昼だから行列のできてる店が多いな」
「ここはユリアナにお任せしましょう。それでいいですか?」
「は、はい!会長のためなら!」
「……俺のためじゃないんだな」
「あなたは会長から頼まれたので仕方なく案内してるだけだから。会長に感謝しなさいよ?」
「カティアナ中心の世界かよ。お前の中では……」
「お前ゆうな!ユリアナって呼べ!」
頬を膨らませて反抗してくる。それだけを見れば本当に同い年かと疑ってしまうほどである。しかし、カティアナとユリアナを見ていると、実は姉妹なのではないかと思うほどに仲の良さが伝わってくる。まあ、仲が良いというより、ユリアナがカティアナに慕っているように見えるのだが。
ユリアナの案内で入っていったのは、人があまりいないこじんまりとした喫茶店のような雰囲気のある店である。中に入ってみると、やはり喫茶店を連想させる内装をしており、カウンター席とテーブル席が3つあるだけである。今は昼であるにも関わらず人は入っていない。カウンター席の前で立っている大柄な男の人が一人いるだけである。
「おっちゃん。今日も来たよ」
「おお。ユリアナちゃんじゃないか。いつも悪いねぇ」
「困ってる時はお互い様だよ。カウンター席座って大丈夫?」
「ああ、どこでも座れ。どうせ今日もこれ以上人は来ないだろうからな」
「どうも」
ユリアナは大柄な男に普通に話しかけている。内容から察するに彼女はこの店の常連なのだろうけど、会話の内容にはちょくちょく気になる言葉が飛び交っていた。衛はカティアナに近づいて訊いてみる。
「あの二人は一体どういう関係なんだ?」
「ユリアナは時々このお店で働いているみたいですよ。彼女がいるときのお店はいつもの倍以上の売り上げになるようですよ」
「ああ。それには納得できる気がするな」
口を開けば結構生意気な少女なのだが、見た目はとても可愛いし、胸も大きいので人気がありそうだ。生徒副会長の地位もこの店で働いているというギャップになっていていいのかもしれない。
「二人共、ここに座ってください」
「今日は連れがいるのか。ユリアナちゃんの連れだったら大歓迎だよ!」
「それでは遠慮なく」
「お、おう」
衛とカティエナはユリアナの案内でカウンター席に座る。カティエナを中心に左に衛、右にユリアナが座る。相変わらずユリアナはカティエナの腕に絡みついている。案内しておいて説明する気があるのだろうか。
「おすすめとかあるのか?」
「そうね。パスタとかおすすめよ。ここはイタリアン料理を出してる店だから」
「そうなのか」
言われてメニュー表を眺める。イタリアンというよりパスタ専門店と言ってもいいほどにパスタの種類が多い。そのためか、メニューには一番人気と書かれていたり、店長のおすすめといったものも書かれている。と、衛が眺めていると店長以外にもおすすめと書かれているパスタ料理がひとつだけあった。
その料理は写真も載っており、その写真にはエビや貝といった海鮮ものがパスタと混ざっている。見た目も綺麗に乗せられており、とても美味しそうに見える。誰のおすすめかはわからないが、衛はその料理に決めた。
「二人は決まったのか?」
「私は既に決まってるわよ。会長は決まりましたか?」
「私も決まりましたよ。注文しましょうか」
「そうですね。おっちゃん。注文いい?」
「はいよ」
「エビとアサリの海鮮パスタをひとつ」
「私も同じのを注文します」
「俺も同じのを頼む」
「え……?」
ユリアナはカティエナと衛の顔を交互に見る。まさか三人が三人とも同じものを頼むとは思わなかったのだろう。
「何で二人も同じものに?」
「私はこのおすすめがユリアナのおすすめだってことは知っていましたから」
「俺は単に美味そうだったからなんだが」
「そ、そうですか。それじゃあ、それを三つお願いできる?」
「あいよ!ちょっと待ってな!」
そう言い残して大柄の店主は奥の厨房へ消えていった。衛達は特に話すようなこともなく静かに料理が来るのを待つ。何か話そうとするが、カティエナは衛の顔を見て笑顔を向けるだけであり、ユリアナは顔を下に向けたままでこちらを見ようともしていない。顔も赤いように見えるのは気のせいだろうか。と、その沈黙を破ったのは厨房から現れた店主だった。
「あいよ!エビとアサリの海鮮パスタ、お待ちどう様!」
「ありがとうございます。それでは食べましょうか」
「そ、そうですね」
カティエナに進められて衛達はパスタを食べ始めた。確かにパスタは美味しかった。しかし、少しだけ質素な味に感じてしまったのは何故なのだろう。答えは出ないままだった
アトランティスの四季祭 七草御粥 @namuracresent-realimpact
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