妖電脳遊戯製作譚
ミゴ=テケリ
第1話
招待状
謹啓 暦の上では初夏となり、猛暑厳しい今日この頃、皆様にはいつすもながらお変わりなく何よりに存じます。
この度我が愛孫―――が皆様の日頃のご協力の御蔭を持ちまして在原業平様より紫水晶の数珠を下賜されました。これを記念しまして祝賀会を開催したいと思い立ち今回筆をとらせていただきました。
ご参加いただける方は水無月の朔の日の晩、子の刻に阿の所にお越しください。
敬白
鬱蒼と生い茂る樹海に古びた屋敷があった。純和風の寝殿造りであるが人は誰も住んでおらず廃屋のはずであるが六月の新月の晩、今日この時は賑わいを見せていた。
深夜零時、集まっていたのは魑魅魍魎、百鬼夜行と見間違わんという程のおびただしい数の物の怪であった。
屋敷の宴会場では主催者である見越し入道が壇上に立ち挨拶を行っていた。
「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます」
と言い頭を下げる。
「気にせんといて下さい見越しの大将、儂等はどうせ暇ですさかいのう」
と朧車など年長の者を中心として声があがり、また、
「私たちのような若輩者もお呼びいただけるなど、光栄の極みです」
と青行燈や垢舐めといった若い衆からも声があがる。そういった声を聞き見越し入道は集まった客の反応が悪くないことに安堵しつつ横に控えさせておいた一つ目小僧に合図を送った。合図を受け取った一つ目小僧はゆっくりと宴会場より隣の部屋へ移った。そして
「長首姉さん準備できてる?」
と部屋で豆腐小僧の着付けをしてやっているろくろ首に問うた。
「もう少しよ」
とせわしなく手を動かし、首を伸ばして全体のバランスを見ながら返した。
「ろく姐、自分でやるからいいよ」
と豆腐小僧が煩わしそうに言う。
「何言っているの、せっかくの晴れ舞台なんだから綺麗にしておかないと
と言いながら帯を締めた。
「できたか? じゃあ行くぞ、トウ坊」
といって一つ目小僧が豆腐小僧の手を引き連れて行く、
「待ってよ、一つ目兄さん」
一方、壇上では見越し入道が豆腐小僧のために場を整えていた。
「今回孫がこのような栄誉をいただけることは祖父としましても喜ばしいことでございます。」
後ろから一つ目小僧の準備ができたという知らせがあった。
「それでは今回の主役に登場してもらいましょう。わが孫、ご存じ豆腐小僧です」
「た、ただ今ご紹介に預かりました。とと、豆腐小僧と申しますです」
緊張していてたどたどしいが何とか挨拶をする。その様子に会場は微笑ましい空気になった。見越し入道は苦笑しつつも小声で大丈夫お前ならできると勇気付け、緊張をほぐす。そして豆腐小僧が再度口を開いた。
「この度は若輩のこの身に対し有り余る栄誉をいただき感謝の極みにございます」
今度はしっかりとした口調で言った。
「まだまだ未熟極まりない私でございますが今後ともご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
と豆腐小僧が締めると見越し入道が口を開く。
「さて、堅苦しい話はこれまでじゃ。今宵は存分に飲み、騒いで下され」
というが早いか妖怪たちは宴会に突入した。
宴会の席では上は神類、大妖怪から下は付喪神、狐狸の類まで酒を飲み、酒肴を喰らい、歓談し合っていた。
あるところではぬらりひょんが盃を傾けながら言う。
「しかしあの坊が今回のような栄誉に預かることになるとは、世の中わからんものじゃのう」
「そうですね。総大将、そういえば豆腐の坊は何の功績をあげたんで?」
と、しょうけらが相槌を打ちつつ疑問を投げかける。
「なんでも、在原業平が天上界で彼奴の出る狂言を女と共に見に行ったらしくてのう。その演目の御蔭で女とうまくいったらしい、まあ女好きのあの者らしい事よのう」
と言い、しょうけらに酒を注ぐ。
「あ、こいつはどうも。なるほどあの女好きならさもありなんですね。しかし豆腐の坊も運のいいことで」
と言い、ぬらりひょんに返盃する。
「なに、運も実力の内じゃよ」
と笑いながら談笑し、またあるところでは唐傘お化けが
「それにしても豆腐小僧の奴よくやったな、狂言や映画にもなったしまさに俺たち小妖怪の星だな」
と言い、垢舐めが
「そうですね。でもなんか遠くに行っちゃったみたいで寂しい気もしますね」
と答える。
このように宴会場では身分や力の大小はあれどいがみ合うことなく楽しんでいた。
しかし宴会場の一角では荒れている者がいた。虎の胴に猿の顔、尾に蛇を持つ妖怪、鵺(ぬえ)だ。
「クソ、あの運が良いだけのボンボンが、ろくに恐怖も与えたこともないくせに運一つで出世しやがって」
と周囲に聞こえないように注意しつつも一人愚痴をこぼしていた。酒をあおっていると、声をかけられた。
「随分と荒れているようですねぇ。鵺さん」
振り返ってみるとそこにはシャレコウベが浮かんでいた。
「なんだ目競か、平清盛に一睨みで退散させられた軟弱者が何の用だ?」
てっきり見越し入道か豆腐小僧を褒めている大妖怪に聞かれたかと一瞬肝を冷やしたものの、
声をかけてきたのが力の弱い目競と知り、軽く挑発する。しかし目競は意外にも挑発し返してきた
「源頼政に退治された挙句、一時期は人間に使われたのによく言いますねぇ」
「てめえ、どうやら痛い目を見たいらしいな」
このクソドクロが、俺の黒歴史を抉りやがって。掴みかからんばかりの形相で目競を睨みつけた。
「おっと。酒の席で荒事は無粋ってものですよ。騒ぎを起こすと周りがどういいますかねぇ」
確かに大妖怪もいる中で騒ぎを起こすのはまずい、畜生後で絞めてやる。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。それよりも豆腐小僧より功績を得られるかもしれない方法がある、と言ったらどうします?」
「本当かよ。詳しく教えろや」
と俺は疑いの目を向けつつも、あの七光りより上に行けると聞き興味を持った。
「ここでは人の目がありますから酔い覚ましがてら外で話しましょう」
そうして俺たちはこっそりと宴会場を抜け出し、屋敷の裏手に出た。
「それで、あの七光りの上にいける方法ってのは何なんだ?」
「その前に鵺さん、最近の妖怪の在り方についてどう思われます?」勿論そんなものは決まっている。
「『不満』に決まっているだろう」
と答えると目競はなお食いついてきた。
「ほう、それは何故ですか」
「人間の技術が上がってきて闇がなくなり恐怖を与えることが困難になり、昨今では人間に媚びを売る者までいる始末」
「他には何かありますか」
「従来の生ぬるいやり方ではだめだ。時代は新しいやり方を求めている。人間にへつらうようでは妖怪に未来はない、俺のように自分の異界に引きずり込んで恐怖を与えるくらいの事をしなくてはいけないんだ」
「よく言ってくれました」
「時代は新しいやりかたを求めています。しかしあなたのようなやり方は鵺さんや一部の妖怪にしかできません」
「どういうことだ」
俺を含む一部の妖怪にしかできないだと。確かにそれなりに揚力は持っているが俺より強いやつなんてそれこそ五万といる。
「最近、急激に力がましたとかそういう感覚はないんですか。特にこの十年くらいで」
「言われてみればそうだが、それは俺が普通に恐怖を与え続けているからじゃねぇのか」
というと目競はわかってないなこいつ、という目を向けた。
「ちがいますよ。知らないかもしれませんがあなたはゲームに出演しているんですよ。具体的には某東の方に」
はぁ? 何を言っているんだこいつは。げぇむ?
「一部のアニメやゲームに出ている妖怪は人間になんらかの感情を与えるんですよ。食種にもよりますが感情を喰うのは妖怪の常識でしょう」
困惑していると目競が説明してくれた。言われてみれば正論だ。
「豆腐小僧の上回る功績を得られるかもしれない方法はこれを利用したものなんですよ」
「人間どものげぇむとやらに入り込んで感情をせしめようとかいうんじゃねぇだろうな」
「近いですね。正確にはゲームをこっちで作ってその中に人間を引きずり込むという方法です。人間の間で流行している3Dの発展系のバーチャルリアリティ系でね」
ばぁちゃるりありてぃってなんだよ、訳がわからんぞ。
「簡単に言えば精神だけ異界に入り込める機械を作って人間を異界に引きずり込むという事ですね」
「ちょっと待て。いい案だとは思うが肝心要のその機械はどうやって作るんだよ?」
話を進める目競に対して肝心要の機械について説明を求めた。
「それについてはご安心を。チャットで知り合ったグレムリンのHNタテジマさんにすでに製作を依頼しています」
「なるほど用意周到なこった。その話、乗らせてもらう」
目競も結構人間にかぶれているな、と考えながら了承すると背後から声が聞こえた。
妖電脳遊戯製作譚 ミゴ=テケリ @karochi1105
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