第6話

強い精神安定剤のせいで、1日の大半を寝て過ごすようになった母に代わり、家の事は、わたしがやるのが当たり前になっていた。

あの時の母は完全に薬に依存していた、調子が悪くなった時に服用するようにと、処方された安定剤を毎日のように飲む母に、わたしは何も言えなかった・・・

起きている時も、薬が効いていて、呂律が回らず意識の朦朧としている、あの頃の母がいちばん恐いと思っていた記憶がある。

ある日、母はお昼ご飯を食べたあと、薬を飲んで寝てしまった。

夕飯の時間になり、起こそうと何度か揺すったけど、起きる気配がなかったから、そのままにしてわたしたちだけで夕飯を済ませた。

起きたら、何か作ればいいか、そんな軽い感じだった。

けど、その日の夜、たぶん22時くらいだったと思う

突然激しい物音がした。何かがぶつかる音。ガッシャーンやドンドンと何かをたたく音。

2階の部屋に居たわたしは、急いで1階へ降りた

居間の光景に身震いがしたのを憶えている

棚は倒れ、襖は破れ、床一面に物が散乱していた

何?これは、いったいどうしたの???

動揺し、あたりを見渡したわたしは床に座りこむ母を見つけた。

「おかあさんっ!!!!」

そう呼ぶわたしに

「あんたたちは、私を殺す気なんだね!!!飯も食わさないなんてどうゆうつもりだよ!!!!」

母は叫びながら、手に持っていたほうきで殴りかかってきた。

「あんたたちだけ、そうゆうことして!!!私に黙って飯なんて食べるんじゃない!!!!」

そんなことを叫びながら母は、何度も何度もほうきをわたしに振り下ろした。

何が起きたのかわからなかった。

抵抗し、丸まるわたしの背中に何度も痛みが走る

恐怖で言葉は出ない、ただひたすら痛みが終わるのを待つしかないと思った。

階段の隙間から弟たちがこちらを見ている。

母に見つかってはいけない 見つかれば同じことをされる

叩かれながらわたしは見つからないでと願った。 

でも、微かな階段の軋む音に母は、弟たちの気配に気づいてしまった。

「そんな所で見てないで!降りてきなさい!!」

震える弟たちは、言われるまま下に降りてくると同じように

ほうきで何度も叩かれた。何度も、何度も、

誰かが誰かを庇うことなんてできない、初めての恐怖に声も出せず・・・

震え、小さな声で、やめてと言うのが精一杯だった。

直接的な暴力がはじまった日だった・・・

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剥がれてゆく家族 甘柚 桐子 @manini2625

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