第5話

望が居なくなって、1年ぐらい経った頃だったと思う。

ある日、父が仕事に行ってくると出かけたきり帰ってこなくなった。

「お母さん、お父さんはもう帰ってこないの?」

「捜しに行かなくていいの?」

突然のこと過ぎて動揺して母に次々と質問をしてしまうわたしたち兄弟に

母は何も答えず、何もなかったように振る舞っていた。

もしかしたら、父が居なくなることが母にはわかっていたのかもしれない

何も言わず、普通を装う母を見てわたしはそう思っていた。

それからの母は、少しづつ壊れ始めていった・・・

弟が自分の服を片付けなかったとか、誰かの帰りが遅かったとか、始まりはたぶん、そんな些細なことだったんだと思う。

母は、何かにつけて怒り、私たち兄弟を罵倒するようになった。

最初は、怒鳴りつけるだけだった怒りが、徐々に暴力に変わっていた。

それでも、理解できない小学生の弟たちには着ている服を剥ぎ取り裸のまま外に引きずり出して家の中に入ってこれないよう内側から鍵をしめた。それは、寒い日でも暑い日も関係なく続いた。

「開けてよ」「ごめんなさい」

を繰り返し泣き叫ぶ弟たちの声は母に届いていたのだろうか

わたしは裸にされ追い出される弟たちを助けてあげられなかった。

自分も何かされるんじゃないかと怖くて何も出来ずにいた

「なんであんたたちは全私に押し付けるの!!」

「私はあんたたちの家政婦じゃないのよ!!」

そう言って母はわたしと姉を罵倒するのが日課になった。

「お母さんは疲れてるだけだと思うから、少し我慢すれば大丈夫だから」

わたしと姉はそう言って弟たちを励まし勇気づけた、なんの根拠もなかったけど、

そう言うしか・・・そう言葉をかけるしか出来なかった。

でも、そんな姉が中学を卒業してしばらくして、就職の為家を出ていった。

「同じ市内なんだから、もし何かあったらすぐ連絡しなさい。」

わたしが弟と母を支えなきゃいけないんだ 自然とそう思った。

姉には迷惑をかけちゃいけない、そんな気がしていた

しばらくして、

「お母さん、病院にいってみようと思うの」

母は診療内科に通院するようになった。

わたしは、これで弟たちやわたしに対する態度が変わるんだと安心した。

通院と薬のおかげで、母は思った通り調子が良くなっていた。

弟たちへの攻撃も、回数が少なくなっていたように思う

その頃の母は、薬を飲まないと寝れなくなり、少しでも薬が効かなくなると

病院で強めの薬に変えてもらっていたようで

知らない間に、効き目の強い精神安定剤が手放せなくなっていた。

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