第4話

父から電話があった翌日、母が望を抱えて帰ってきた。

布団にそっと寝かされた望は、真っ白でまるで人形のみたいで

なんだか不思議な気持ちになったのを憶えている。

「望に声をかけてあげて・・・」

母は弱々しくそう言うと、兄弟全員を望の傍によせた。

弟たちは、まだ理解できずいるのか

「望はいつおきるの?」「なんで寝てるの?」

「望の鼻になんでティッシュ詰めてるの?」

と俯く両親にまとわりついていた。

「望は空に行くんだよ、お星さまになるんだよ」

母の、震える声が印象的だった。

わたしは、何を言うべきなのかわからず、望の手を握るのが精一杯だった。

姉の真奈も同じなようで、静かに望の頭を撫でていた。

冷たくなった望のからだに涙が止まらなかった。

こんなに、人間は簡単に死んでしまうのかと、望との色んなことを思い出し

どんどん涙はあふれ、鼻の奥が痛くなるほどたくさん泣いた。

わたしと姉の涙につられるように、弟たちも泣き始めしばらく、家族全員でわんわんと泣いた。

望が帰ってきた日、母は望の傍を離れず

翌日になるまでずっと、泣きながら望を撫でていた。

そんな、母の後ろ姿は今でも憶えている。


それからは、お通夜にお葬式と慌ただしく、悲しむ暇もないぐらい忙しかった。

あっという間に、お通夜もお葬式も終わり望は小さな骨になって家に戻ってきた。

その小さな、入れ物を抱き母は、また泣いた。

それが、母の泣いている最後の姿だったように思う。

大家族の母は、悲しむ間もないほどすぐ日常に戻らなければならない

今までの看病疲れに望の死が重なり、憔悴しきっていた母、

それでも、子供たちの世話に家事と、いつも通りの生活は容赦なくやってくる。

望がいなくなってからしばらくして、母の様子が少しずつ変わっていった、

些細なことでもイライラするようになった母は、以前より怒りっぽくて

「お母さんばっかり頼らないで!!」

「あんたたちは、本当に気が利かないね!」

そんなことを言いながら怒る場面が増えたような気がする。

その時は、訳が分からず全員が困惑し戸惑っていた。

わたしはいつもより怒りっぽいなぐらいにしか思っていなかった。

あの時、憔悴しきって弱っている母に気づいてもっと優しく接してれば、

何かが変わっていたのだろうか・・・・

しばらくすると今まではなかった父との喧嘩が毎日のように繰り返され、いつの間にか母と父は全く話をしなくなっていた。

今思えば、あの頃が始まりだったのかもしれない…

少しずつ剥がれていく、前兆だったのかもしれない・・・





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