第3話
それから何度もの入院退院を繰り返しながら、
彩矢は中学生になり望は2歳を迎えようとしていた。
夏休みが始まったばかりの頃。
半年前に手術をしたことで、あの頃は安定していて、週に1回の通院はあったものの、家にいること方が多くなっていた。
その頃、姉の真奈は受験生で部屋にこもっている時間が多く、弟たちの世話や母の手伝いはますますわたしの仕事になった。
あの頃は、そりゃぁ、たまには友達と遊んだりもしたかったけど別に苦ではなかった。
父は、この大家族の生活を支える為に毎日仕事が大変そうだし、少しでも
母の負担を減らすことができればという気持ちの方が大きかった。
その頃の母の口癖は
「彩矢が家の事を手伝ってくれるから助かるわ」
「無理をさせてごめんね」
わたしはその言葉がなにより嬉しかったのを憶えている。
望以外の弟たちも、なにか自分たちに出来ないかと母の手伝いを率先してやりたがり、望の面倒もよく見ていた。
時々、母のカミナリが落ちることもあったが、それは私たちに非がある時でそれ以外は、いつも通りの母。
末っ子の弟が心臓に重い病を抱えていること以外は、どこにでもいる大家族で。望がいることで私たち家族は1つにまとまっていたと思う。
あの頃は、なんの問題もない、幸せな生活を送っていたはず・・・
それからしばらくは、大きな発作もなく普通に過ごしていた。
ちょうど、望が2歳を迎える1週間前の夕方、
「真奈!!彩矢!!救急車呼んで!!早く!!」
と母の叫ぶ声が家中に響いた。
「お母さん!どうしたの!?」
急いで、母のいる部屋に行くと青白い顔でぐったりしている望の姿にびっくりし息をのんだ。
救急車を呼んでる姉の横で放心状態のわたしに
「彩矢!お母さん病院に行く準備をするから、望に酸素マスクあてて」
と発作に慣れている母は、動揺することもなく入院準備を始めた。
わたしは、望を抱きかかえマスクを小さな顔にあてた。
10分しないうちに救急車が到着し、母と望は病院に向かった。
「びっくりしたね、またしばらくは入院かな?」
あの時わたしは、そう呟いた姉の手が少し震えていたような気がした。
わたしも
「また、母なし生活のスタートだね。今度はいつ退院かなぁ」
なんていいながら、心臓のうるささに足が小刻みに震えていた。
それから、1週間がたった真夜中1時過ぎに電話の音に目が覚めたわたしは、こんな夜中に誰だろうなんて思いながらも
弟たちを起こさないように布団から出て受話器をとった。
「彩矢か・・・あのな、望が、死んだ」
父の声だった。聞き取れないほどの小さな声で父は望がこの世を去っていったことを知らせた。
「明日の午前中には、お母さんと一緒に望をつれて帰るから、部屋片づけて、望の布団敷いといてな」
「弟たちにも、ちゃんと説明してな、わかったか?」
わたしは、何が起きたのかわからないまま小さく
「わかった」
と呟き電話を切った。
「電話、だれからだったの?」
置いた受話器を握りしまたまま、固まっていたわたしに声をかけたのは、
起きてきた姉だった。
「お父さんからだった、望が死んじゃったんだって」
「それで?」
「明日、帰るから部屋片付けて、望の布団出しといてって」
「そう、弟たちには明日の朝言おう。」
おかしいくらい冷静な会話。わたしは悲しい気持ちがまだ追いついていないそんな感じの不思議な感覚でいた。
姉は静かにそう言うと部屋を片づけ始めた。
わたしは、あの時の姉の今にも泣きそうな真っ赤な目をした表情を鮮明に憶えている。それを見て自分も泣いてしまったことも
それから、2人は何も言葉を発しないまま黙々と部屋を掃除した。
もしかしたら、何か会話をしたかもしれないけど、思い出せない。
ただ、黙々と片づけをした記憶と泣いてしまった記憶しかなかった。
気づいたら、朝になっていた。
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