宇宙人侵略ちょっと前

寛くろつぐ

宇宙人侵略ちょっと前

あいつは、空からやってきた。満天の夜空から。

何故かって?

そりゃあ、当たり前じゃないか。

あいつが、宇宙人だからさ。



~宇宙人侵略ちょっと前~



少年は、屋根の上に居た。

絡めた手を枕代わりに、仰向けになって。

少年は、夜空が好きだった。

星があちらこちらに散りばめられている、そんな晴れた夜空が。

すぐにでも、星を掴んで自分のものにできる。そんな気がするから。


しばらくそうしていると、視界に何か動くものが映った。

ふらふらと揺らめきながら動く一つの点。

飛行機や人工衛星にしては動きが不規則すぎる。

やがて、その点は大きくなり、徐々に姿かたちが見て取れるようになってきた。


と、その物体は急にスピードを上げ、少年の所まで一気に近づいてきた。


「やあ。いい天気だね」


麦藁帽子のような形をしたソレの中から、一人の青年が現れた。


「・・・誰ですか?」


少年は不審者でも見るような目つきで聞いた。


「え?わかんない?うそぉ!…あ、そっか。俺の姿がいけないんだ。

 …え?でもさ、これこれ、これ見てよ!」


少年の反応は予想に反したのか、一通り驚き、一通り納得した後に、

屋根の上にある大きな物体を指差した。


「UFOだよユーフォー!ユナイデンティファイドフライングオブジェクト!未確認飛行物体!空飛ぶ円盤ってやつだよ!これでもう分かるでしょ!」


「・・・誰ですか?」


先ほどと寸分違わず繰り返し問う少年。


「・・・・・・。もーいいよ!宇宙人!俺宇宙人なの!UFOときたら宇宙人でしょーが!普通!」


「人間にしか見えないんだけど」


「だーかーら!…あ、うん、えとね・・・コレは変装なのさ。人間にばれないためのね!」


「今ばれましたね」


「えっ?・・・・・・」


ハイテンションに宇宙人と名乗る青年に対し、少年は冷静に返答する。

宇宙人はいささか虚を衝かれたようで、少しの間沈黙が流れた。


「・・・・・・いや、今はいいのよ、今は。何たって俺は今まで、何度かこの星に偵察に来てたからね!その時ばれなかったからいいのさ!」


「何で偵察に来てたんですか?」


「え?・・・・・・君…今思ったケド全然驚いてないよね・・・」


「その変な物質がUFOだということには驚きました」


「変・・・?」


宇宙人らしきその男は目を丸くする。


「君さぁ、今からこの星を侵略しようとしてる宇宙人にそんなこと言っちゃあだめだよ?怒りを買ったらものすごい大変なことになるんだからね?」


「じゃあ早く侵略すればいいじゃないですか」


「・・・・・・」


宇宙人は少し恐がらせたつもりだったのだが、完全に後手に回されていると感じた。


「ちょっと気が滅入ったよ・・・」


「どうぞ、座ってください」


「え?!・・・うん、そうする」


少年の意外な申し出に、宇宙人は驚きながらも従う。


「名前。何ていうんですか?」


自分から喋らなくなった宇宙人に、少年の方から問いかける。


「え?・・・えーとね、ヴァルビデチェフス・カロンチーノ・マサムネ!」


少年から質問されたことに嬉しさを感じ、元気を取り戻す宇宙人。


「マサムネ・・・?」


「うん。俺の星では、3つ目の名前は、その時その時で好きな名前にできるんだ!俺地球のさ、日本が好きでさ、『マサムネ』って名前が一番かっこいいと思うんだよね!」


恍惚として語る宇宙人、マサムネに、少年は返す。


「へー・・・僕は、木下星夜。星の夜って書いて、セイヤって読むんです」


「へー!それもかっこいいね!・・・俺さ、この星が好きだから、自分のものにしたいんだよね。家族や仲間はやめとけって言うんだけど、どうしても欲しいから、一人で来ちゃったんだよね」


マサムネはいきなり侵略の理由を話し出した。


「・・・好きなのに、侵略するんですか?」


「え?」


「好きなら、僕たち人間が生きるこの地球が好きなら、何で自分のものにしようとするんです?誰からも縛られない、何者からも侵略されない、そんな人間がいるから好きなんでしょう?」


「・・・そう、・・・なのかな」


「あなたが侵略しちゃったら、あなたの好きな星じゃなくなります。それでもいいんですか?」


星夜は長々と語る。人間の子供に説教されている、とどこか悔しさを感じながらも、マサムネは黙って聞いていた。


「・・・ははっ。俺、間違ってたよ。好きだから侵略しちゃおうなんて、馬鹿げてるよね。ははは」


「そうですよ。じっくりと見守っていればいいんです。あなたが大好きなこの星の行方を、見守っていればいいんです」


「うん。そうするよ。・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


暫しの静寂が二人を包む。


「・・・俺、そろそろ帰ろうかな」


「そうですか。・・・最後に、一ついいですか?」


「何だい?」


「あなたは・・・誰かに止めてもらいたかったんじゃないんですか?だから、僕のところに来た」


マサムネは一瞬面食らったが、やがて笑顔になると、


「そうかもね。・・・君に会えて、話せて良かったよ」



そうして、マサムネはUFOに乗って、不規則に飛んでいきながら去っていった。


再び、静寂。

星夜は、立ち上がった。


「好きだから、侵略しちゃおう、か。・・・ハハ、ハハハ」


澄んだ笑い声。しかしその声は、


「ハハハハ、ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハ!」


徐々に歪み、不気味なものへと変わっていった。


「本当に馬鹿だなあ!侵略はね、嫌いだからするものなんだよ!分かるかい、マサムネ!ハハハハハハハハハハハハハハ・・・」


独り言。それは既に消えたマサムネの耳に届くことはなく、ただ静かに、満天の星空に響いていた。



地球侵略まで、あと5秒。一人の少年の笑い声は、まるで危険を示す警報のようだった。



そいつは、空からやってきた。どこか別の、遠い星から。

何故かって?

そりゃあ、当たり前じゃないか。

嫌いな星の嫌いな奴らを、消し去るためさ。

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