MEバスターオフライン

尾坐 涼重

第1話




          その日、現実はゲームになった。






 灰色の廊下をあわただしくストレッチャーが駆け抜けていく。

 乗せられている少年に特に外傷は見当たらないが、心肺停止状態で呼吸機と電極で無理やり生かしている状態だ。

 やがて、一つの部屋にたどり着く。巨大な箱が並ぶその部屋で少年の体に電極がつなぎなおされる。

「ナノマシン活性化! バックアップいけます!」

「よし、バックアップデータ出力開始」

 白衣を着た人物が目の前に浮かんだヴァーチャルパネルをタッチすると少年の体が大きく跳ねた。そして……。

「バイタル安定。メモリー復旧成功です」

 その言葉に少年に付き添っていた少女はふぅと息を吐き安堵したようだった。

「まったく、無駄な心配かけさせないでよね?」

 そう言って少女は少年の紙をやさしくなでるのであった。




◇◆◇




「……っは!」

 少年が目を覚ましたのは白い天井の部屋の白いベッドの上だった。

「おはようマイト。目覚めはどう?」

「べつに、いつも通り。ってかハナ。今日は何日?」

「7月8日」

 少女の答えに、少年は頭を抱える。

「……っ! まじか~。俺、三か月もセーブしてなかった訳?」

「何回も注意したんだけどね。その三か月のうちにあったこと聞きたい?」

「是非に」

「……あんたが私に告白した」

「嘘だな」

「なんでわかるのよ」

「いくら俺でも、そんな重大な記憶のバックアップを取らないとかありえないし」

「わかんないじゃない。今回デスペナもらう直前の出来事だったかもしれない」

「だとしても、本当にそうだったら、お前はそれをここでは言わねぇよ」

「それもそうね」

 ハナはちょっと待っててねというと、部屋を出ていき。一人の幼い男の子を連れてきた。

「その子は?」

「あんたとあたしの子……」

「いや、三か月だし、ってかその流れはもういいから」

「ちょっとぐらい付き合ってくれてもいいじゃない。この子は今回の件であんたがその記憶を犠牲にして助けた遭難者よ」

「そうか、今回は助けられていたのか」

「でも、あんま意味なかったかも」

「? どういうことだ?」

 ハナはもったいぶるかのように押し黙って。十分以上にタメを作ってから口を開く。

「この子ね。ナノマシンを持ってないの。つまりあの怪物たちに襲われるどころか、見ることもないわ」

「はぁああああああああぁっぁぁぁぁぁ!!!」

 西暦2157年。

 通信ネットワーク用ナノマシン「ヘリオス」は100%人類に普及した……と考えられている。

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