珪素生物はあなたのごはんじゃない!

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珪素生物はあなたのごはんじゃない!

 『料理の鉄人28』。

 地球の20世紀から21世紀にかけて日本で大流行した料理番組である。近年世界中で流行したジャパンリバイバルの波に乗って、カブキ、エンカ、ブシドー、アニメ、マンガ、ブラックキギョウと共に、ジャパニーズフード……和食も再び脚光を浴び、ローカルながらカルトな人気を誇るこの番組『料理の鉄人28』が、長い時を経て再び放送されることになったのであった。



  ※



 番組の問題の部分ハイライトが、ディスプレイに映し出された。

 料理人の中でも1番人気の『フォアグラ陣ノ進』による調理場面だった。日本で最も人気のあった料理の名前をリングネームにしたというフォアグラ陣ノ進は、長さ3尺5寸、波紋は互の目、腰反り深く、鍔と柄と鞘に絢爛たるエド=ヒゴの拵えを施した長大な包丁を持っていた。


『流石はフォアグラ陣ノ進。あれは古今の日本の男性が好んで使用する日用品の刃物。包丁と呼ばれる調理器具ですね』


 調理台の傍で儀式めいて包丁を振り回す陣ノ進に対して、司会者の音声が被った。


『あれは何をしているのですか、解説のシリコニィさん?』

『あー、あれはカタですね』

『カタとは何ですか?』

『カタとは、即ちルーティーンワークですね。規定の動作を行い、動作にエラーがないかどうかを確認します。陣ノ進選手はルーティンを行うことで、自身の精神と身体がどの様な状態にあるかを確認しているのでしょう』

『神秘的! ブシドーですね!』


 解説者の語尾に打ち消す様に、陣ノ進から「イヤーッ!」という掛け声が上がった。調理台の上に置いてあった、陣ノ進の身の丈程もあるタンパク質の塊ギューニクが、真っ二つに切り裂かれていた。


『お、素晴らしい! ギューニクが真っ二つです!』

『アダーラ辺りのヤツですから、硬いですよ。流石ですね。切り口も綺麗だ』


 陣ノ進は音も高らかに包丁を鞘に収めると、調理台に設えられた椅子に腰を下ろした。調理台の傍に包丁を立てかけ、台上のキーボードに手をかけ、調理用のコンピュータに向かって一心不乱のタイピングを始める。


『おぉーっと、ここで一気に調理開始! 凄い速度ですね!』

『カタで心身の調整は終わっているでしょうから、ベストパフォーマンスでの調理が可能でしょう。それにしても早いですね』

『今回のレギュレーションは、シリウスのC+^2言語で日本の伝統食「カレー」を組み上げることですが、解説のシリコニィさんはどう見ますか?』

『陣ノ進選手は前回、今まで謎とされてきた伝統食「ほしいい」を見事に組み上げた調理人ですからね。今回も期待できるでしょう』


 ここで、タイピングをしている陣ノ進の姿が右下に縮小され、画面には大きく文字のみの画面……陣ノ進がリアルタイムで行っているプログラミングの画面が映し出された。


『あぁーッ! これは凄いですねシリコニィさん! これがルーですか!』

『ええ、カレーのルーですね。辛味と香りの部分を見るだけで、構造が不安定になってしまいそうです』

『カレーを食べるまでは、形を保っていて下さいねシリコニィさん。ここで先に調理に入っていたオダブツトーテムの方に動きがあった様子です』


 カメラが切り替わり、白い調理服を着た墓石がディスプレイの現れた。袖口からは2本の人型の腕が生え、その腕がグネグネと動きながらひたすらキーボードを叩いている。


『オダブツトーテムは、今回手を生やしての参戦ですね。前回までは墓石の様なボディをコンピューターと直結させてましたから、今回は実に情緒があります。日本のブッディズムに通じる物を感じます』

『そうですね。日本にはワビサビという概念があります。ごめんなさいという気持ちのワビ、寂しさや孤独感をあらわすサビ、そこに1つのスパイスとして使われるワサビ、それらを統合してできるワビサビの概念を、オダブツトーテム選手は体現しています』

『それはブッディズムと関係あるのですか?』

『日本人の精神性は、1面的ではありません。多面的な構造をしています。ワビサビとブッダは同じではありませんが、切り離せない要素です』

『なるほどなるほど。さて、それでは調理されているカレーを見てましょう』


 腕の生えた墓石が画面の右下に追いやられ、画面中央では高速で文字がスクロールし始めた。


『ん~、解説のシリコニィさん。このプログラムは妙なコードが入っているようですが……?』

『わかりませんか!? あれは前後に自己圧縮と自己解凍のコードが挿入されているのですよ!』

『圧縮と解凍……あ、まさか』

『そうです。日本の中流階級で食された庶民の伝統食、レトルト・カレーです』

『なるほど! そう見ると全体の簡素なコードが、逆に趣深く感じて来ました!』

『それがワビ、サビ、ワサビですよ。私も知識欲と興奮で構造が発熱して来ました』

『石頭のシリコニィさんが、ここまで興奮するなんて……』

『そりゃあ、石ですので』



  ※



 問題の部分ハイライトの再生を終え、ディスプレイは沈黙した。

 太陽系の第5惑星である木星。その衛星であるカリストで開かれたNPO法人シリコンライツセンターによる公開抗議会の会場は、深い沈黙に包まれた。


「ご覧いただきましたのは、『料理の鉄人28』の第24回目の放送です」


 すり鉢状になった円形型の会場の中央、巨大な立体ホロディスプレイの直下、演説壇の壇上で八満寺直角は静かに声を上げた。


「ご存知とは思いますが、我々シリコンライツセンターは、正しい文化を受け継ぎ、紡ぎ、新たなる友人である珪素生物の文化と権利を正常な形に保つべく活動しております。歴史的観点からも、炭素生物である我々人類は、新たな友人である珪素生物と健全な関係を作る必要があり……」


 云々かんぬんと、長い演説が10分程続いた。


「そこでご覧になっていただいたこの番組。これが問題です」


 言葉を切った八満寺に対して、会場から控えめな音量の疑問が飛んだ。


「あの~、どの辺りが問題だったのでしょうか?」

「発言の前に所属と氏名を名乗って、私に発言の許可を取ってから質問してください!」


 八満寺の激烈な反応に、会場は一瞬静まり返った。


「す、すみません。民生恒星間通信第8局の取材班、太陽系支部所属の綱渡つなわたりと申します。簡単な質問だけよろしいですか?」

「後ほど質疑応答の時間は設けますが、今回は特別に回答いたします。どうぞ」

「その、問題の部分というのは、どこでしょうか?」

「わからないのです!?」


 八満寺の激烈な反応に、会場は再び沈黙した。


「嘆かわしい。これは、我々人類の権利意識が薄れてきていることの証左ですよ。続きの映像を見ていただきましょう。これで皆さんも問題の本質が理解できる筈です」


 立体ホロディスプレイが起動し、再び『料理の鉄人28 』の映像が流れはじめた。



  ※



『各料理人のコンパイルと盛り付けも終了いたしました! 料理も出揃いました所で、まずは各料理の紹介に入りたいと思います。終わり次第試食タイムです。では行ってみましょう!』


 5名の料理人が作った料理がスタジオ中央の台の上に1列に並べられ、それぞれにスポットライトが当てられた。


『まずは、珪素生物の中でも日本通で有名なオダブツトーテム選手の作品! サラリマン・レトルト・カレー! 日本の中流階級サラリマンの食したという伝統的カレーを再現しております!』


 台の左端に置いてあったのは、白い陶器の皿に置かれた透明なキューブメモリーだった。人差し指の大の大きさで、複合珪素でできた四角い立方体の中に、3次元的な回路が焼きつけられている。


『お次は、地球の衛星月の出身! コードマスターにしてマスタープログラマー! シカクイオトウフ選手のヴァモント・ガラガラヘビ・カレー! 現在アメリカのヴァモント州の全土で大量発生しているガラガラヘビの毒をヒントに、かつて日本で有名だったというヴァモント・カレーを再現した一品です!』


 白い皿の横に置かれていたのは、赤と青と白に塗り分けられた皿と、上に乗ったキューブメモリーだった。


『次は、はるばるアンドロメダから来た太陽系文化研究家、アマノガワお米選手! 歴史の闇に葬られたという謎の音声資料「日本印度化計画」に着目し、インドの香辛料をふんだんに取り込んだカレーを組み上げました! サプライズド・インドエレファント・カレー! やや邪道ですが異色のカレーが楽しめそうです』


 赤青の皿の隣に、黄色の皿とキューブメモリがあった。


『その次が、今回の大本命と目されるフォアグラ陣ノ輔選手! 作ったカレーはツヨイ・オカーサン・カレー! 日本に存在したというオカーサンという万能種族についての研究を元に、日本ブシドーの精神を以って完成させた一品です! その姿だけでも和の精神に溢れています……味も楽しみです』


 黄色の皿の隣には、敷かれた笹の葉の上にキューブメモリが置いてあった。


『最後が今回のダークホース! 珪素生物の中でもC+^2言語でのプログラミングに長じていると評判のコケムシタイシ選手! 今回は食感に関する記述を捨て、味覚と嗅覚に関する記述のみで組み上げたという、ライスカレー・コードを作り上げました! 一点突破! ワビサビの境地です!』


 簡素な鉄板の上にキューブメモリが転がっている。


『それでは、今回の試食は私、司会の日本葦御晴にほんあしおっぱれと、解説のシリコニィさんで担当させていただきます。では早速行ってみましょう!』


 スタッフによって、5つのキューブメモリが、会場の一段高い位置へと運ばれた。

 そこにいるのが司会の日本葦にほんあしと、その隣の席に置いてある人間の頭程もある岩石……複合珪素で出来た半透明の珪素生物、解説のシリコニィだった。


『シリコニィさん、先に召し上がりますか?』

『いえいえ、まずは炭素生物の日本葦さんの食レポの方がわかりやすいでしょう』


 シリコニィの前には卓上スピーカーが置いてあり、スピーカーから伸びた配線はシリコニィの背面にある幾つかの端子ジャックの1つに繋がっている。珪素生物と炭素生物がコミュニケーションを行うために設計された電脳端子群だ。

 珪素生物で解説のシリコニィの音声は、電脳端子を通じてこのスピーカーから出ているのだった。


『では、お先に失礼させていただきますね! まずはサラリマン・レトルト・カレーからいただきまーす!』


 陽気な声と共に、日本葦はキューブメモリを首の後ろにパチリとはめ込んだ。

 日本葦の首筋にもシリコニィと同じく幾つか端子ジャック挿入口スロットが増設されており、キューブメモリは立方体用の挿入口スロットにしっかりと収まっていた。


『お、お、おぁ、あ、ああ、あぁーー……』


 一瞬白目を向いて痙攣した日本葦であったが、


『これは素朴! 仕事疲れでヘトヘトになった所に染みる、単純な味! 空腹と疲労感が最高のスパイスとなって胃袋に充足感をもたらします!』


 何事もなかったように復活して、大きな身振り手振りを交えてレポートを始めた。何かを持つような仕草をして、空中で何かをグイグイとあおり、ゴッゴッと喉を鳴らして飲み下すジェスチャーも交える。


『プハーッ! これは、カンビール! 聞いたことがあります! サラリマンは精神的肉体的疲労に対して欺瞞効果を持つカンビールを大量に摂取し、瀕死の状態を誤魔化してブラックキギョーに勤めていたそうです! これこそが、その瀕死状態をも欺瞞する奇跡の飲料カンビール! くぁー染みるぅー! ここまで再現しているとは……』


 身もだえする日本葦に、シリコニィが声を発した。


『日本葦さん、そんなにすごいなら独り占めせずに、早く私にも食べさせて下さいよ』

『あぁ、すみんませんすみません。これは是非、珪素生物のシリコニィさんにも食べていただきたいて食レポしていただかねばですね』


 日本葦は首筋からメモリーキューブを取り出すと、手元に用意してあった綺麗な布でキューブを拭い、シリコニィの背面の挿入口スロットにキューブを挿入した。


『おぉ、おぉ、これはこれは……』


 日本葦はおもむろに手元のコップを手に持つと、シリコニィに上に中身の水をゆっくりと垂らし始めた。


『設定された微弱な身体出力に対して、簡素な食材データが適合しています! これが疲労と空腹感! 食という物に炭素生物が傾ける情熱の一端を垣間見ている実感があります! しかし、こんな追い詰められた信号を出力し続けられたら、私なら割れたくなりますね!』


 熱演するシリコニィの上に湯気が上がり始めた。日本葦が垂らした水が、発熱したシリコニィの熱によって気化して水蒸気になっているのだ。会場からクスクスと押し殺した笑い声が上がった。


『私も珪素生物ですから、発熱した所を急に冷やされたら……って言ってるそばから何をしとるんですか!』

『シリコニィさんが熱かろうと思いまして水を』

『割れてしまいます! 炭素生物的表現をすれば、冷や水を浴びせられた気分ですよ!』

『いや、炭素も珪素も、実際冷や水浴びせられてるじゃないですか』

『やった本人が言うことか!』


 勢いよくリアクションする日本葦と、勢いある発言をするシリコニィの音声とは裏腹に、ピクリとも動かず湯気だけ上げるシリコニィの姿を見て、観客は大いに笑い声を上げた。


『日本葦さん、笑われてますよ』

『我々が笑われてるんですよ』

『そう言われてしまうと、手も足も出ない』

『岩だけに?』

『その通り』


 日本葦とシリコニィも笑い声を上げた。



  ※



「ご覧の通りです!」


 再生されていた『料理の鉄人28』の音声を遮るようにして、八満寺の声が抗議会会場に響き渡った。


「このシリコンライツセンターの抗議会に出席いただいた皆様は、もうお分かりになったことでしょう。先ほど私に質問された、綱渡さん? 綱渡さんいらっしゃいますか?」


 名指しで呼び出された綱渡が、会場の中ほどで立ち上がった。


「はぁ……先ほど質問させていただいた綱渡でございますが……」

「綱渡さんも、これで問題点がわかったでしょう? 言ってみてください」


 面食らった顔をしていた綱渡だが、しぶしぶと言った体で口を開いた。


「日本文化の歪曲でしょうか。世間で広まっているステレオタイプな日本像を面白おかしく伝えてはいますが、正しい認識であるとは思えません。炭素生物と珪素生物両者の正しい文化交流という点で問題がある、ということでしょうか」


 綱渡の発言の後、数秒間、会場には『料理の鉄人28』の番組音声だけが流れた。

 会場中央では、八満寺直角が金属製の四角いボディを震わせて、2本の細いマニュピレーターを苛立たしげに振り回している。八満寺直角は脳だけを金属の箱に収めた、完全なるサイボーグである。四角い箱に6本の脚、2本のマニュピレーターを装備した姿は、蜘蛛などと揶揄されることもあった。


「日本の、文化など、どうでもいいのです!」


 八満寺は四角いボディに収められたスピーカーから、最大音量で音声を発した。音圧で最前席に座っていた人々の髪が舞い上がり、カツラが2つほど宙を舞った。


「あんな下らないもの、歪曲しようが失伝しようが知ったことじゃありません! シリコンライツ! 珪素生物の権利こそ、今1番重要な事柄なのです!」


 その音圧の余り、最前席の人々後ろに転がり落ち、中ほどの人は耳を塞いでうずくまり、後方は前方の音と後ろから反射した音に攪乱されて目を回して倒れ込んだ。


「石頭! 珪素生物に対する差別発言に他なりません! 手も足も出ない? 差別発言です! 発熱する珪素生物に水をかけるなんて、虐待です! 暴行です! そもそも味覚の存在しない珪素生物を料理番組に呼び、あまつさえレポートを行わせるなど、侮辱行為に他ならない! 差別だ! 傲慢だ! 暴行だ!」


 サイボーグの持つ強力なスピーカーを最大で出力され続けた会場は、珪素も炭素もない程に全員がひっくり返ってしまっていた。椅子から落ちて腰を打ち立ち上がれない者、目を回して嘔吐する者、音圧で耳が聞こえなくなりうろたえる者、動揺の余り走り出す者、全裸になって走り出す者、かつらを探して這いつくばる者、会場中が大混乱であった。


「何より、キューブメモリは複合珪素でできている! 複合珪素は珪素生物を構成する重要かつ貴重な物質だ! それをグルメの記憶媒体に使うなんて断じて許せない! 珪素生物はあなたたちのごはんじゃない!」


 八満寺の大音声の間を縫う様にして、人間の声……綱渡のヤジが飛んだ。


「サイボーグのお前に何がわかる! 関係ないだろ!」

「言ったな貴様! 侮辱極まれりだ! タンパク質の塊ギューニク風情がもう許せん! 今この会場にいる炭素生物に珪素生物というものをわからせてやる! スタッフ総出で我々の活動記録と行動方針を記録したキューブメモリーを首に押し込んでやれ!」


 会場の各所の扉が開き、蜘蛛型のサイボーグが続々と現れた。ひっくり返った人に取り付いては、首の後ろにある挿入口スロットにキューブメモリーを押し込んでいく。


「あ、あ、あぁーッ!」

「お、おぉ、おぉ、お……」


 挿入口スロットにキューブメモリを押し込まれた人々は、次々と白目を剥いて痙攣し始めた。珪素生物を構成する複合珪素は大容量の記憶媒体ではあるものの、その容量は人間の脳に対して大きすぎ、流し込まれるデータ量が大きい程人体に負荷がかかるのであった。

 そして、情報の内容によっては精神的な瑕疵になる場合や、脳に損傷が発生して廃人になってしまう場合さえある。


「差別された珪素生物の権利の重さがそれだ! 思い知れ炭素生物!」

「てめぇだって炭素生物のサイボーグだろうが! キューブメモリーだって使いたい放題使ってるじゃねぇかてめぇこの野郎!」


 鞘を払った包丁で蜘蛛型サイボーグを切り飛ばし、大きく声を上げたのは綱渡だった。日本の男性は伝統として包丁を常に携帯している。日用品なので当然である。彼の包丁は2尺6寸で刃紋は直刃、拵えは簡素な時代拵えで、数打ちの安物であったが、襲い来る蜘蛛サイボーグを切り払うには十分であった。


「そうだそうだ!」

「日本文化をないがしろにして何が権利だ!」

「ごはんを盾に無理言いやがって、目にもの見せてやるぞ!」


 会場に居た包丁持ちの男性が揃って鞘を払い、蜘蛛型サイボーグを切り倒していく。会場では、未だに停止していない『料理の鉄人28』の映像が流れ、蜘蛛型サイボーグが人を襲い、人々は逃げまどい、包丁を持った男たちがサイボーグを切り捨て組み合って暴れまわった。


「この下等な二足歩行の炭素生物め! 暴行傷害罪だ! 迫害主義者!」

「正当防衛だスットコドッコイ! そっちこそサイボーグの暴走だ! 脳が狂ったんだ!」

「ただのタンパク質の塊ギューニクのくせして生意気な! 差別主義者! 猿野郎!」

「あ、てめぇこそ差別用語を使ってるじゃないかこの蜘蛛野郎!」

「お、おぉ、おおお、おぉ……」

『シリコニィさんも頑固ですね。意志が固い』

『石だけにですか?』

「負傷したヤツがいるぞ! 誰か医師を呼んでくれ!」

『石だけにですか?』

「わはははは、珪素生物以外は皆殺しにしてしまえ!」

「なにが珪素だ、炭素をくらえ!」

「炭素だって食うな! ごはんじゃないぞ!」

「ごはんは炭水化物だ!」

「あっ、ああ、あぁ、あーッ! あーッ!」

『思わず解析していまいますね。これが本当の懐石料理。なんつって』

「わはははは」

「あーッ!」

『こりゃあ焼石に水ですな』

「ああッ!」

『捨て石です』

「ッ!」


  ※



 3時間後にカリストの治安維持部隊が到着し、出席者の退避、怪我人の保護、破損したサイボーグの保護と確保、八満寺の逮捕、包丁を抜いた者への事情聴取、かつらの捜索等が行われた。

 前半まで2桁の視聴者しかいなかった抗議会の恒星間ローカル放送は、後半から視聴者の数を増加させ、カリスト治安維持部隊の突入時点で10万を超える数となっていた。

 シリコンライツセンター、その権利意識を問う公開抗議会は、人々に1つの事柄を胸に刻み付けて茶番の代名詞となった。

 1つは「珪素はそもそもごはんじゃない」ということ。

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