番外短編 ―全員集合―

第6.5話 . よく晴れた夏の日に

鬱々とした梅雨も明け、本格的な夏が到来―――そんな末恐ろしい、凶器染みた陽射しとは無縁の、からりと過ごし易い日のこと。

龍渓りゅうたに 大地だいち」、「兎妃とき 綾人あやと」、「相馬そうま いく」、「虎竹こたけ 七瀬ななせ」、「犬居いぬい はる」の、オリジナル・クインテットメンバーをはじめ、

大地の恋人である「花華院はなかいん 咲夜さくや」、綾人の恋人である「桜庭さくらば 葉月はづき」、咲夜の姉である「花華院はなかいん 馨子かおるこ」、綾人の妹である「兎妃とき 雛歌ひなか」を含めた九人のパーティは、翡翠ヶ丘学園のほど近く、翡翠ヶ丘の町並みをパノラマで展望できる空き地へと、ピクニックへやって来た。


「はーい♡ みなさーん♡ はぐれないように、ちゃんとわたしの後ろについて来てね~♡ って、きゃぁ―――ッ♡ なんだかトレインごっこみたい~♡ 童心に還るわ~♡ あ、そうそう! わたしのことは『ふうちゃ~ん♡』って呼んでね♡」


うふふ♡ がはは♡ と、危険な香りをまき散らす―――

そうである! 重要なモブキャラを一匹・・・いや、一オネエ・・・いやいや、一人紹介するのを忘れていた。彼――彼女の名は―――


「はあ~い♡ わたし、『風見 シルフィール♡』。Bar・Silpheed―バー・シルフィード―のオーナーしてま~す♡ ぜひ遊びにきてね♡ サービスするわ~♡」


・・・・・・と、自主的に自己紹介を進んで賜りました彼――彼女は、本名を「風見かざみ 茂雄しげお、43歳・♂」という。歴とした男性である。

筋肉隆々、泣く子もボディービルダーも押し黙る、ガチムチ自慢のおネエさんだ。

今日は彼――彼女を含め、総勢十名のパーティ編成で、仲良し懇親会という名目の許、この珍道中ピクニックが催されたのである。

もちろん、こんなありがた迷――破天荒なアイディアを弾き出したのは、他でもない、マスターである。


「んだと―――ッ?!! 今なんつったッ! もっぺん言ってみろッ!! あ゛!?」


失言でした。ママですね。ママ。Bar・Silpheedのオーナーである、風ちゃんこと風見の鶴の一声から、今般の素晴らしい、ピクニック日和と相成りました。

そもそも今回のアイディアの発端は、綾人と桜庭が風見の店へと顔を出したことにより、持ち上がり盛り上がってしまったことなのだ。

では、その「発端」とは?―――内容は至ってシンプルで、風見がかねてより姉御肌全開で危惧きぐしていた、綾人の交友関係を桜庭に訊ね聞いたことにはじまる。

自身のことを多くは語らない綾人を、常日頃より慮っていた風見は、ここぞとばかりに兄貴あねき風を吹かせ、仲の良い友人や学園での生活などを聞き出した。

そこで桜庭の口から上がったのが、桜庭と綾人、それに風見を抜かした七名、上記の愉快な仲間たちである。

自身のパーソナルスペースは、皆無に等しい綾人ではあるが、ことに友人と知人、知り合いと他人に対する壁と距離の取り方は、すこぶるシビアでもあるのだ。

雛歌は兄妹なのでカテゴライズには属さないが、綾人にとって「友人」というカテゴリーに属している者は、上記の者たちだけである。その他クラスの級友たちは、気の知れた他人、良くて知り合いという認識である。

今回、綾人のカテゴリー枠に新たに加わった、恋人という枠組み。その晴れやかで名誉ある座に君臨するのは、今生こんじょうでただひとり、桜庭 葉月ご当人である。

彼は、嬉々としてそのことを、風見に報告した。それはもう、勝ち誇ったように堂々と。綾人はその隣で、風見に対し得意げに話す、愛しい恋人を見守りながら、時折り恋人の可愛い科白に「うん、そうだよ♡ 僕のモノだよ♡ 大好き葉月♡」などと、相槌を打つのであった。

それを聞いた風見は、大層感激し、大号泣の雨あられであった。

その溢れんばかりの、己の気持ちを表現するために、風見は不朽の名作である「風と共に去りぬ」の「ヴィヴィ〇ン・リー」になりきっていたそう・・・・・・なのだが、残念なことに誰がどう贔屓目ひいきめに見ても、リング上で翻筋斗打もんどりうつ「マイク・〇ルナルド」であった。現実とは、かくも厳しい。


「やっだ~ その人もうお亡くなりになってるじゃない~ 故人に例えないでほしいわ~ ほんと失礼しちゃ~う! ―――ッて、何だと―――ッ!!!」


ともあれ、風見は諸手を振って、綾人の交友と初恋人の存在意義を祝い慶ぶ。どうやら綾人は、風見に学園ボッチ生徒の容疑をかけられていたらしい。嫌疑の濡れ衣が晴れて、なによりである。

興奮冷めやらぬ風見。そこで風ちゃんは考えた。こうなれば、寄せて集めて、綾人の『脱・ボッチ、仲良し祝賀懇親会』を開こうと!

幸いにして、風見は炎の鉄人である。中華料理だけでなく、多国籍料理もどんと来い! の、数々のレパートリーを兼ね備えている。行楽弁当など朝飯前であった。

斯くして、当日のピクニックランチは風見が責任を持って担当し、日取りその他、強制参加者のスケジュール管理などの雑務は、桜庭が一手に引き受けるということで、ふたりは合意の許、話はまとまった。

その間、綾人は―――風見と楽しそうに会話を弾ませる、恋人の愛らしい面貌を慈しむように見やり、感嘆のため息をついていたのであった。脱・ボッチなどと、謂れのないレッテルを張られていたことなど、彼の耳には入ってはいなかったのだ。

そんなこんなで日は流れ、今日は楽しいピクニック当日―――


                ♡ ♡ ♡


「おーい! そっち持ってくれよ―――ッ! おい! 聞いてんのか!? 大地!!」

「ん? あ、りぃ~ りぃ~ んな吠えんなって」

「!? …ッッばっきゃろ―――ッ! 俺は犬じゃねえ――――――ッ!!」

シャバに帰ったと実感する、この、見慣れたいつもの光景。

ボーンデザインがこれまたシュールな、レジャーシートを広げる春。

そよぐ風に煽られ、なびくシートを近くに立つ大地に押さえてもらおうと、声を掛けるも此れをすげなく無視される。大地は、恋人である咲夜とイチャつくのに忙しいのだ。野郎ガイヤの声など、届くはずもなかった。

春は地団駄を踏みつつ、独り身の寂しさを怒りに転化し、ムカつく大地に吠えたてる。

「だから悪かったって。これ広げんだろ? だったら、さっさと終わらせよーぜ」

てめーが言うな!―――春は、ぬけ抜けとほざく大地を睥睨へいげいし、喉奥でグルルルと唸る。

「あはははッ♪ 春くんて面白い仔ね♪ 大地くんのお友達って、みんな面白いひとばかりで、ほんと楽しい! 招待してもらって嬉しいわ♡」

カラカラと笑い声をあげるのは、つややかな黒髪を揺らし、あでやかな美貌を惜しみなく笑いに崩す、花華院 馨子である。

「そうっすか? 面白いってか、ウルせーだけな気もすっけどな? でも馨子さんが楽しんでくれて、俺もうれしーっす♡」

極上の麗しさを湛える、笑顔の眩しい馨子に脂下がる大地。

この一瞬は忘れないぞ! 殺! 馨子ビッチ!―――これは歴とした浮気だ! と、大地に飛びつき、邪気を放つ咲夜。オーラ的な何かが漂っている。

「ちょっと―――ッ! 大地ったら、なに鼻の下伸ばしてんの!! 僕というものがありながら! ひどい!! …ってか、おい! こら! てめーッ!! 馨子このクソビッチ!!! 俺の大地に手出してんじゃねえよッ!」

大地に抱き着きながら、可愛い子ぶりっ子ヤキモチを妬きつつ、馨子に対し本性で対峙し喧嘩を売るという、高度なテクニックを披露する咲夜。

それに対し、馨子は―――

「あ゛あ゛!? 誰に向かって口聞いてんの!? 咲夜のくせに生意気な!! お姉様に楯突いて、あとで後悔しても知らないわよ!!」

あんた秘蔵コレクションのBL本を、大地くんにチクるわよ? 隠してんでしょ?―――馨子は、ともに「腐」という、カオスな趣味を共有する者だけが飛ばし合える、BL傍受電波を駆使して咲夜に語りかけた。咲夜の顔色が変わる。

「ふッ・・・・・・仕方ねえ。今日はこんぐれーで許してやんよ・・・」

「おっ! 今日はやけに素直じゃねーか? どうしたんだ?」

「! ん、もうッ! なんでもないよ! ってか、大地ー!! 話を逸らしてもダメだかんね! 大地の浮気者ッ!!」

話を逸らしたのは、むしろ咲夜では?―――周りの者は、心のなかで一致団結してつっ込んだ。

   『ん…ガァ~ン~~~!! 「仔」って言われた…

                  俺…「仔」って言われちまったよ…』

なにげに言い間違えた、馨子の科白にショックを受ける春。向こうに大きく幹を伸ばす大木の許、独り体育座りしながら小さくなる。指で地面にのノ字を書くと、涙を誘うこと請け合いである。

「まったく、騒々しいやつらだな。綾人、いつもおまえの仲間トモダチは、こんな賑やかなのか?」

「ん~ いつも賑やかだよ~ ごめんね? 五月蠅うるさいのばっかで。無視しちゃっていいよ? それより、僕と向こうでLOVE ♡ LOVEしよ?♡」

静寂と静穏をこよなく愛する桜庭は、このお遊戯会と化したテンションに辟易とし、綾人に問いかける。

それに対し、綾人は飄々としたテンションで「いつものことだから」と、数少ない心の友を『五月蠅い』と中傷罵倒でき下ろす。だが既に、綾人の意識は友をシャットダウンし、最愛なるハニーの桜庭へと向いている。彼の手を引き、茂みへと誘う、手慣れた手口は正にドンファンである。

「やだ、綾くんッ! どこに行くの!? 私を置いてくなんて、あんまりだわ」

睦まじく乳くり合う、綾人・葉月ご両人を、付かず離れず微妙な距離を保ちつつ、妬心を宿した瞳で見守っていた雛歌。だが綾人に置いてかれそうになり、焦り嘆き悲愴に暮れる。アンダンテ・ウォークで、綾人の後を追おうとしたが、

「止めときなさい。今は綾たちを追わない方が、雛ちゃんのためよ?」

雛歌の歩みをなし、風見が暗に「イカガワシイコトしてるから」と含みをもたせ、そっと諭す。逞しい腕を雛歌の背に回し、彼女を馨子のもとへエスコートする。

「馨子ちゃ~ん♡ 雛ちゃんと一緒に、ランチボックス広げるの手伝ってぇ~♡ うふふ~♡ あ~ やっぱり女同士ってイイわね~♡ ガールズトークで盛り上がりましょ~♡」

キャッキャ♡ うふふ♡ と、ひとり凄まじい闘気――ピンクのオーラを発し、科を作る風見は絶好調であった。

(((((((え? 女同士!? ……ガールズトーク!??)))))))

茂みに消えた綾人と桜庭を除く、この場に居合わせた者たちは、風見の科白に凍りつく。綾人たちとは違い、みな其々に、まだまだ目前の海坊主に免疫が出来ていないのだ。可哀想だが、無理もない。

それにしても、なにげに己を『ガール』という、ティーンエイジャーの括りにカテゴライズするとは・・・・・・この海坊――風見、地味に卑怯である。高らかに唱えてやりたい! ――テメーはのオッサンじゃねーか―――ッ!!――

だがしかし、負のバリアから、いち早く抜け出した強者つわもの、わんぱく少年の郁が、

「きゃはははッ♪ 風ちゃん、それウケるぅ~♪」

ケタケタと転げまわって、風見の科白を笑い飛ばした。

・・・・・・郁は、怖いもの知らずにも、風見相手に指を指して捧腹絶倒する。

哀れなり、郁。これから郁を地獄のお辺土へといざなうのは、今目のまえで打ち震えている、三途の渡し守だということに早く気付くのだ!


「くぉーらぁ―――ッ! こんのクソガキャ―――ッ! 待ちやがれ―――ッ!」

「きゃははははは―――ッ♡」


パーン―――ッ!

その場にいる者の脳裏で、スターターピストルの音が鳴る。

風見と郁は、砂嵐を巻き上げながら、小僧とゴリラの鬼ごっこを開始する。

「・・・・・・さあ、雛歌ちゃん。お弁当、広げましょうか」

「え、ええ・・・・・・そうですね」

遠くを駆ける、小僧とゴリラを視界から追いやり、雛歌とランチの準備に取り掛かる馨子。先程まで悲しみに暮れていた雛歌は、生まれて初めて感じる、戦慄の刺激の強さに憂いを凌駕され、馨子の声以外のモノは頭から追い出そうと試みる。


『(風ちゃ~ん、こ~ちら~ッ! きゃははは―――ッ♡)』

『(くぉら! 待てクソォ―――ッ!!)』


遠くで風見を揶揄からかう、郁の声がする。四十路の底力で猛走する風見は、郁の科白に憤慨しているようだ。

「え、えええーと… 虎竹 七瀬くんだっけ? 七瀬くんて呼んでいいかしら?」

「あー、はい」

「ふふ♪ よろしくッ! 七瀬くん。私のことは馨子と呼んでね?」

見た目清純なお嬢さまは、その実とってもざっくばらん。からりと笑う美貌は、しかし親しみ易い笑顔でもあったのだ。だが・・・・・・

「了解です。馨子…さん」

「あはッ! そこで、テレないでよ―――ッ」

男心を撃沈させる、その笑顔の破壊力はハンパない。じわじわと頬を赤らめる七瀬。だが、その気持ちはよく分かる。

「すみません。女性とは免疫がないもので。俺には、女性を呼捨てるのは敷居が高いみたいです」

「うッ、ふふふふッ♪ やっぱり君たちって面白いね―――ッ♡ なんだか七瀬くんて武士みたい―――ッ!」

「(ブシ…………)」

どこかで聞いたセリフだな? おい―――七瀬は、心でポソリと呟き、馨子の科白に傷ついた。本日、馨子が男をへこませたのは、これで二度目である。ある意味、無敵。

「雛歌ちゃん♡ 雛歌ちゃんも自己紹介しよ? それで、仲良しこよしだよ~♪」

「あ、はい、 ・・・え、でも・・・・・・」

「ん? どうしたの?」

躊躇いながら、雛歌がツンツンと指を指す。馨子が指の先に視線を向けると―――

「あれ? 七瀬くん?? どうしたの???」

「いえ、なんてことないです。 ・・・お気になさらず」

ここでも体育座りで、小さくなった男が独り。

「あ、そう? じゃあ、はい! 雛歌ちゃん♡」

「え!? あの・・・・・・兎妃 雛歌です・・・よろしくお願いします」

「…よろしく。雛歌ちゃん。俺は七瀬って呼んでくれ」

「あ! はいッ!! よろしくです、七瀬さん」

喉奥から、やっとのことで押し出したような、痛ましい七瀬の挨拶。哀れである。

対する雛歌は、いち早く空気を読んで、へこむ七瀬に気を使う。天使である。

最後に最強馨子は、

「これでみんなお友達ねッ♪ じゃあ、よろしく! ってことで♡」

雛歌と七瀬の手を取り、まとめてブンブンと握手をする。獣王であった。


                ♡ ♡ ♡


「あ~ 疲れたね~♡ でも良かったでしょ?♡」

「ああ。もちろんだ。だが俺も頑張ったぞ! おまえも良かったろ?」

「うん~♡ もう最高だよ~♡」

ははは♡ うふふ♡ と、ここに来て、やっとのことで茂みから無事帰還した、天然お花畑な蜜月カップル。

ふたりは絡みつきながら、宴のもとへと足を進める。デュオ活動により、体力消耗で空腹を訴えていると見た。

よく見ると、向こうの木の許で丸くなっている、なにやら哀愁漂う春を発見する。邪魔くさいので、一瞬無視しようかとも思ったが、今は葉月補給が十分に満たされている。従って、綾人はちょっとした仏心を、春に掛けてやることにした。

「なにやってんの? ひとりでそんなとこ座って。暇じゃないの?」

「・・・・・・ってかさ~~~ッ もっと他にかける言葉あんじゃね~~~ッ?」

この寂しそうな状況見ろよ? 可哀想だろ? 俺が!―――春は、殊の外冷たい綾人の科白にイジけ、口を尖らす。春の周囲には、哀愁に暮れながら書いていたとおぼしき、のノ字で埋め尽くされていた。

「ぶふッ! くふふッ… ―――ッなるほど、そういうこと~ ほんと、春は面白いだね~ さあ、行くよ! ついといで」

―――春の人としての尊厳に、綾人は会心の一撃を炸裂させる。ご愁傷様。


『(おし~りペンペンッ! キャハハハッ♡)』

『(おら…待てや! こん…ちくしょ~!)』



やっとのことで、メンバーが全員揃った。

春が持参した、超特大のボーンデザインが映えるレジャーシート。その上を、各自仲良く腰を下ろす。しかし、いったい・・・・・・春はこんなシビレるシート、どこで買ったのだろう?

「あ~ 疲れたわ―――ッ! やっぱり、もう若い子には着いてけないわ~ 郁のおかげで、一汗かいちゃったじゃない!!」

やだわ~ 汗臭~いッ! あ~ ビール浴びた~いッ!―――風見は、キンキンに冷えた生ビールを、頭から浴びながら飲み干す想像をする。最悪な絵面であった。

「風ちゃ~んッ♡ よくガンバッたねぇ~♪」

イイ子、イイ子、オリコウさん―――郁は、性懲りもなく、また風見を野次る。だが精根尽きた風見は、応戦する気力もない。

「もう―――ッ! 好きにしてちょうだい!」

風見は、郁に揉みくちゃにされようと、もう気にしないことにした。それから、みんなに向かって、

「ほら、あんたたち! 遠慮なくはじめちゃって! 『脱・ボッチの綾人懇親会』開始よ~!」

パンパンと手を叩き、ここに宴の開始を宣言する。

「・・・・・・ちょっと、なに? その聞き捨てならない会のネーミング。誰が付けたの? てか、センス悪すぎだよね」

飄々とポーカーフェイスを装いながらも、密かに肩が戦慄いているのを、七瀬は目敏く見ていた。ここに来て、やはり七瀬は重箱の端を箸で突きながら、ニヤリとする。

「あら! なに言ってんのよ! この集まりは、あんたの交友の意外な深さを祝うために開いたんだから、もっと喜びなさい~」

「集まるが失礼すぎて、まったく喜べないよね」

でっかいお世話であった。

「まあ、そう言うな。風ちゃんは、おまえのためを思ってしてくれてるんだ。素直に受け取っとけ」

「そうよそうよ~ わたしの心意気を受け取っときなさ~い」

「そうだぞ、綾人~ 俺なんて、隅っこでイジけてても、誰ひとり気づいても貰えなかったんだぞ~ おまえは恵まれてるよ~ こんな集会開いて貰えてさ~」

(((((((((集会って……)))))))))

春が発した単語のひとつに、みな一様が食いついた。其々の脳裏に、チームの旗を掲げ、バイクで凱旋する、犬居連合の集会風景が展開される。

「・・・・・・まあ、ある意味、涙が出そうな集会ではあるよね」

ぷふッ…くふッ…

春の顔を窺い見ながら、綾人が余計なひと言を口にする。みなの肩が揺れている。笑いを堪えるのに必死だというのに・・・・・・

馨子が、隣に腰を下ろしてイジける、春の背を擦ってやりながら、綾人に慈愛の笑みを向ける。

「それだけ綾くんは、みんなから愛されてるってことよ! ね? 雛ちゃん♡」

「ええ♡ 私、こんな楽しそうな綾くん見るの、はじめて♪ いいお友達を持ったね♡ 綾くん♡」

うふふふふ~♡ 私たちもお友達だよね~♡―――ともに並んで座る、馨子と雛歌は、手を繋ぎ合って女同士の固い結束を見せる。

いつの間にか仲良くなっていた、馨子と雛歌を見やり、綾人は「雛もいい友達が出来てよかったね♡」と、お兄ちゃんな顔してそんなことを考える。


「ぼくおなかすいた~ 風ちゃん、もう食べていい~?」

「いいわよ~ 遠慮せず食べちゃって! さあ、みんなも!」


郁の腹の虫が、宴の幕開けを告げるゴングとなった。

風見が、各自に箸と取り皿、酒やソフトドリングが注がれたグラスを分配し、綾人の『脱・ボッチ懇親会』の音頭をとる。

「え~ それでは~♡ 綾人の脱・ボッチと、愉快な仲間たちとの益々の友情が深まることを願いまして♡ かんぱーい――――ッ!!」


「・・・・・・やっぱり、その会のネーミングは許せないよね。懇親会っていうより、残念会みたい」

ぽそりと呟き、遠くを見つめてため息をつく。

その隣で、桜庭が綾人のグラスに己のグラスを当て、耳もとで囁いた。

『これからも、よろしくな♡』

綾人は、愛しい者の顔を見つめ、にっこりと笑って大きくかぶりを振るのであった。


                ―おわり―


ここまで、お読みいただきまして、まことに ありがとうございます♡

次のお話も、ローテンポながら書かせていただきます。また見に来てくださいね♡

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ボーイ s' ”クインテット” Diary あおい 千隼 @thihaya

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