第3話 頭痛
彼岸。
東京へ向かうことを命じられルーイルは、一度自宅に戻った。
ルーイルの家は『大園』の近くに建っている寝殿造りの家だ。ただ一人で暮らしているせいかそんなに広くない家でも妙に広く感じて寂しくなる。だれもいないと判っているからなおさら。
でもなぜか時々誰かがいるような気がするときがある。ただの気のせいだろうか。
気のせいだろうがその気のせいがあるからさらに寂しく感じる。
「成績が優秀でも死神としての心構えは最低だな」
東京に向けての準備をしながらルーイルはそんなことをつぶやいた。
他の死神はそんな寂しいなんて感じない。どうして自分は他の死神と違うだろう。みんなと同じように死に、死神としての素質があったため死神になった。そこは変わらないのに。なにが違うのだろうか。
「もしかして・・」
ルーイルは、一瞬出しそうななった言葉を慌てて飲み込んだ。もしさっき出しそうになった言葉を死神長や閻魔大王にでも聞かれたらとんでもないことになる。死神の資格を剥奪され、その魂は永遠地獄に落とさせる。
ルーイルが出しそうになった言葉は自分の生前の記憶ことだ。死神の掟に反することだから聞かれたらまずい。
「あの二人は地獄耳だらなぁ」
ルーイルはそうつぶやいて一度だけあったことがある死神長の顔を思い出した。
自分が死神になるとき生前の記憶を消すためにあったことがあった。その人とはそれきりだが常に死神たちを監視している。此岸に行った死神をも監視していると聞く。
「あっ・・急いで用意しないと」
少し思案するのに時間を費やすぎたようだ
茶色い革でできたベルトポーチに黒い棒と折りたたまれた墨で虫籠の絵が描かれた紙を数枚入れた。ベルトポーチの中に入れた黒い棒は死神が使う死神の鎌―デスサイズだ。死期が近づいたときに死神が人間の魂を人間の身体から取り出すときにデスサイズを使う。
デスサイズは基本その名の通り鎌だが、使う死神の意志で刀になったり、剣になったり
様々な武器になる。また武器だけではなく、鎌の力で同僚の傷や巻き込んでしまった人間の記憶を消したりすることもできる。ようは死神になった者自身には力はなくて力があるのはデスサイズのほうにあるということだ。
デスサイズがなくなればただの彼岸にいる魂ということになる。
ルーイルは一度入れたデスサイズを取り出して見つめる。
この鎌がなくなれば、自分はただの魂になる。もともと死神でなくてもそうだが、なんだが空虚な気持ちになる。この鎌がなければ役立たずだと言われているようで。
どうして私は余計なことを考えるのかな。デスサイズはみんなが持っていて同じなのに・・・
「はぁー・・・」
そこまでルーイルは、思って深い深いため息をついた。
いくら考えても答えが出ない。というか出るわけがない。記憶が蘇れば話は別だ。可能性はかぎりなく低いし、皆無に等しい。
ルーイルは、またため息をついて、デスサイズをベルトポーチにしまい、立ち上がった
そろそろ行かなくてはいけない。家から出て、鍵をかける。この動作をするとどうも自分が情けなく思う。此岸の人間たちがやるように家に出るときに鍵を掛けなないと強盗とか盗みに入られるということはここ彼岸ではまったくない。あるわけがない。そんなことをしても何の意味もない。
「死んでいるからね。盗みに入ってもなんもないしな」
鍵穴に挿しっぱなしの鍵を抜いてベルトポーチに小さい方のポケットにしまった。
そのときだった。突如
「・・・!」
頭に強烈な痛みが走った。
死神の恋の仕方 翡葉 さく @hiyou_sakura03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。死神の恋の仕方の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます