第56話 エピローグ

最初のメル友が出来てから数年が経過した。

幼稚園だった息子の俊太も、もう小学生になっている。

数回のやりとりで去られてしまった人などを含めたら100人くらいと関われたであろう。

ただ今は何も残っていない。


この数年間は何だったのであろうか。

失ってきただけの年月のように思える。

結局メル友は本当の友達と違い、都会の雑踏をすり抜けていく通行人のような存在なのかもしれない。

相手はもちろん、自分にとっても何も役にたたない、ただすれ違っていくだけの人。そんな空しい気持ちだけが残った。

 

同級生の友達とかであっても疎遠になって会わなくなることは大いにあることだ。

ただその場合は昔一緒に遊んだ友達という記憶や歴史は残る。

メル友の場合はほとんどが想い出に残らない存在になってしまう。仮に数年後に連絡をとることができたとしても「そんな人いたかも」と思われていれば良い方であろう。


それでも祐一の中では、薄くではあるがいろいろな経験ができた。

彼がメールをやらなかったら未来が違っていただろう人も大勢いた。ただその変わった未来が良いものであったかは誰も分からない。


不倫相談相手となった雪子は、不倫をする日を先延ばししただけで防ぐことはできなかった。

メール内で恋人となったカエデも、夫の浮気の悩みを解消できないまま終わってしまった。

麻衣子はどうなのであろう。メル友によって危険を背負わされ、メル友によって助けられて、結局チャラといったところであろうか。


他にもたくさんの人と関わって、祐一自身の未来もそれによって変わったのかもしれない。

もしメル友と話すことがなければ、心の底から満たされたものではなかった結婚生活を続けていたかもしれない。


今日も数年前と変わらず同じ電車に乗って職場に向かっている。

河川敷の野球場では相変わらず少年達が野球をやっている。選手は世代交代しているかもしれないが、車窓から見える光景は変化がない。


突然ポケットに入れていた携帯電話が振動した。

誰だろう。

元妻の可能性もなくはないが、この時間にメールが来たことはないので違うはずだ。

片手でポケットから携帯電話を取りだし画面を見た。

今までメールをした人のアドレスは全て消さずに残してある。


画面の宛先にはナナとあった。

自殺願望があった女性だ。

話していく中で、いろいろ行動的になって、彼氏ができて生きていると楽しいこともあると気付いてもらえた。

数年ぶりにきたメールに少し緊張した。


『お久しぶりです。元気でしたか? ユウさんには報告しておこうと思ってメールしました。がっくんのこと覚えているでしょうか? 彼氏として数年付き合ってきましたが、彼との婚姻届を提出しました。そしてなんと、赤ちゃんも出産予定です。こんな私が子育て大丈夫なのかちょっと不安もあるんですけどね。それでね、赤ちゃんの名前を、悠にしようと思っています。「ゆう」と読むんですよ。もちろん由来はユウさんからです。夫には内緒ですけどね。だって赤ちゃんがこの世に生まれてこられたのもユウさんのおかげだから。これくらいの内緒だったら許されるかなと思っています。とりあえず結婚の報告でした。また何かあったらメールします。じゃあ、またね』


そもそもメル友とは少し後ろめたいものという感じが根底にある。

メル友を見つけることを勧められるかどうか何年やっていても良く分からない。

見つける必要がない人生を送れるのが一番良いのであろう。

でも一つだけ言えることがある。

メル友ができたからこそ訪れる良いことも世の中にはあるようだ。


                                   終 

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