三話 ファースト・エンカウント

とある6月入りした初夏


気温も変わり始め暑さに苛まれる中、地元である明星駅付近の公園にある噴水広場に俺はいた。


「あっついなぁ…」

まだ初夏入りだというのに気温は27度、テレビでは春に近い気持ちの良い日差しで半袖でも過ごしやすい一日になるでしょう!とか言ってたけどさ。


「まんま、夏なんだよなぁ」

結局、サリシクイネオンラインでスゥに「とうくん、こないの?」という下りに負け、チョロく承諾をしてしまったわけで、そこからすぐ颯爽と消えた紗癒さんと奈菜さんに反して、スゥと2人して30分位ログアウトボタン探しに格闘して…


ログアウトできたと思ったらキーボードに伏せて寝てたらしくキーボードが涎塗れだったりで手入れして…待ち合わせに備えて、慣れもしないのに所持してる服でお洒落とか…髪のセットとか…


何て言うかね…


「疲れた」


というのも…

「皆ってどこ住み?」

ってかLI〇Nやって…ry

はどうでもいいんだけど、奈菜さんのアクティブなこの一言から始まり。

いやどの道と言えばどの道なんだけどさ…

何でさ…?

皆、俺の最寄り駅から30分以内に住んでるん・・・?

よくネットゲームとかだと、え?マジ?私も〇〇市住みだよ~!とか見るけどさ

流石に、リアル世間狭すぎない?仕様とか言われてもおかしくないぞ。


チラッと時計を見ると、午前9時48分

集合時間は午前10時!!

やったぜ!俺の、人生のタイムリミットまで後12分だ!


「ふへぇ…」

いつもなら、家で早起きしてEFOしてる時間何だけどさ本来のサリシクイネのログアウト出来る時間より早いらしくて無駄に早く起きちゃったんだよ。

まぁ、あの場所での会話中ずっと寝てたっぽいから目覚めすっきり何だけどさ。


しかもオフ会とかした事ないから、怖いけど…内心逢えるのが楽しみだったりして家も早く出て今こうしてるって言う、コミュ障は複雑だよね。

けどネカマとか多いし、来た人が皆ムキムキのおじさまだったらどうしようとかとか…


「ん?」

なにやら視界の先が騒がしい。

何かあったのかな。


「いいじゃん、一緒に行こうよぉ~」

「・・・・・・」

何か3人グループが小柄な白いワンピ―スと帽子を被った女の子を取り囲んでる

今時いるんだねあーいうの。

ってか露骨に女の子嫌がってんじゃん。


「お前らやめろよ」

柄にもなく、咄嗟に体が動いてた。

「あ?」

うん、昨日の哘さんの方が怖いや。


「明らかに嫌がってるだろうが」

「お前には関係ないだろ!引っ込んでろ餓鬼!」

当然なんだけど周りからの視線と、嫌がってた女の子が目を丸くしてる。

まぁこの自信ニキの訳は…ふふふ実は、こんなこともあろうかと…タラララッタラー☆模 造 刀☆×2

いやさ、名前からしてオフ会相手は皆女性なの分かり切ってるんだけどさ、ほら万一おじさま♂だったら怖いから準備してたんだ。

まさか、役に立つと思わなかったけど。


「さぁ、やるならかかって来い!」

どこぞの野球ゲームで表すなら、センス×が付きそうな俺が二刀を構える。

「武器を持ち入るとか、とんだヘタレだな!」

何とでも言えやい!

龍〇如くでも武器使ってるもん!危ない相手に立ち向かうなら必須でしょ!


「おらぁぁぁ!!」

絡んでいた男の一人が俺に殴りかかる。

よし、いつものアルカ・フォシルのパターンを思い出すんだ。

①先ず、左刀で相手の攻撃を流す。

②その次に、右刀でスキル「フェイタルシフト」を使う。

これは左手の刀と右手の刀を瞬時に入れ替えることができるスキルだ。

③そしてそのまま、右手に持ち替えた防御寄りの左刀で相手の胴にカウンターで

スタン攻撃を入れる。

④「そして最後に、右手から左手に持ち替えた攻撃寄りの右刀で峰撃ちを決める」


うむ、我ながらヴィジョンは完璧だ。


「おらぁぁぁ!!」

絡んでいた男の一人が俺に殴りかかる。

「まずは…左刀で受け流す…」

「なっ!?」

弾かれた拳に男は、呆気を取られている。

よし、殴りは受け流せた!これがへっぴり腰スタンス!!

次はフェイタルシフトだ!

ってかさ?今更思ったんだけどさ。

どうやって両手の武器を持ち替えるん?

ジャグリング?


「いや、そもそも同じ刀だし!」

そうだよ、両方同じ模造刀なんだからまんま一緒じゃん。

「何を、ごちゃごちゃ言ってやがる!」

受け流された左手とは別で右手から今度はストレートが飛んでくる。


「このまま、スタン攻撃だ」

このストレートを掻い潜って腹部にスタン攻撃を…

と思ったけどさ、カウンターって言ってもただの体当たり(スタン攻撃)なんだよね…だって模造刀危ないじゃん?あざにでもしたら後で怖い人たちいっぱい来そうじゃん?

けど、やらないよりはましだ!思いきりスタン攻撃(笑)をしかける。


瞬間。


うん、結論から先に言うと突っ込んでる最中に真正面から右頬にストレート喰らいました。


「うぐっ…!?!?」

何か、意識がね遠のいていくんじゃーあれだよね心がピョンピョンするんじゃーと同じ感じ。

わぁ、見て、お花畑の向こうにスゥが見えるよ。

これが走馬灯か、俺…走馬灯でもネトゲキャラ見てるのか~頭お花畑~


「この人、痴漢ですー!」

スゥの声で痴漢って叫び声が聞こえる。

違うよスゥ、確かにやましい気持ちは2割くらいあるけど。

俺は、痴漢じゃないんだよ。

そんな事を思いながら、薄れた意識が徐々に回復していくのを感じた。


「とうくん…とうくん…」

俺の胴体を揺する感覚と…

あぁ~耳元で癒しボイスが聞こえるんじゃぁぁぁ。

とかそういうのじゃなくて。

頬の痛みと共に意識が徐々にはっきりしてくると、視界に先ほどの絡まれていた少女がいた。


「よかった」

「ん…えっと…?」

周りを見てみると、先程の3人グループが警察に取り調べされてる。


「もう、大丈夫」

少女から、安堵の笑顔が向けられる。

やばい、天使がおる。


「えっとさ、さっき俺の名前…」

「とうくん…だよね?」

キョトンとした顔で少女が問いかける。


「あ、はいそうです?」

「??」

不思議そうな顔で、少女は立ち上がると。

「これで、わかる?」


人差し指を立てて俺に掌を突き出す。

「こほん、りぴーとあふたーみー ま し ろ」


(`-ω-)…


(´-ω-`)…?


(´゚д゚`)・・・・・!?!?


「え、えええええ、ましろ…って事は君がスゥ?」

「うんうん」


いや、サリシクイネで本名出た時に女の子なのは分かっては居たけどさ…EFOはキャラメイクが凄い細かく出来るからというか…スゥの生き写しと言うか…

あぁもうだめだ驚き過ぎて言葉にならない…ゲームだったら絶対に…混乱と狂気と沈黙デバフ付いてるわ。


「へぇ、君がとうくんかー」

「!?」

そんなやり取りを他所に。

突如、背後から聞こえた声に振り返ると、中腰でにこっと笑顔を浮かべる女性と少し不服そうな顔をした女性がいた。


「こんにちわ、とうくん」

ってか何か不服そうにしている方の女性に何処かで見覚えがあるんだけど…

誰だっけ…


「えっと、どちら様ですか?」

「あれ、分からない?一緒に暗号解いた仲なのに…お姉さんは悲しいよ」


(^ω^)…


(´゚д゚`)ふぇぇ!?!?


「えっと、奈菜さん…ですか?」

「そうです、私が奈菜さんですよー」

口調がゲーム内と全然違う!

ネカマなんかより、ある意味詐欺だよ!!


「じゃぁ…隣の人は…」

「紗癒さん?…」

「…チッ そうよ」

舌打ちしましたよこの人!初対面何ですけど!

「なんか待ち合わせの時間に来てみたら面白い事になってたからさ

、無言で見ちゃった」

てへーと奈菜さんがニコニコしながら言う。

うん、野郎だったら怒るところだけど可愛いから許す。

「けど、それにしたって見事なやられっぷりだったわね、模造刀を2本も使ってた癖に」

「め、面目ない」

「けど、何にせよ無事に皆会えたから良かったよね」

ねぇねぇ、この右頬見て見て。

無事とは一体何だったのだろうか。

「とうくん」

「ん…?」

「よしよし」

スゥは優しく頬を擦ってくれた。

「うぅ…」

泣ける、初対面の女の子に宥められて色んな意味で泣ける。


「何にせよとりあえず、立ち話も何だし近くの喫茶店でも行きましょうか」

「そうね」

「はい…」

「はーい」

笑顔を浮かべる奈菜さんに連れられ、俺たちは最寄りの喫茶店に入った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る