流れ星

スパイシー

流れ星

 僕は今、流れ星が良く見える丘の上にいる。柔らかい草の上に座って、夜空に煌く星々を眺めていた。

 僕は流れ星が好きだ。綺麗だし、見ていて飽きないし、僕の願い事という形の愚痴を聞いてくれる。三回も言うのは面倒だけれど、言い終わると何か心がすっきりする。

 それに、流れ星は本当に願いを叶えてくれることがある。今まで何度も何度も僕は願い事をしてきたけれど、何回か叶った願いがあったのだ。


 あれは確か、大学生のときのことだ。僕には好きな人がいたのだけれど、どうもその人は僕のことをなんとも思っていないようだった。

 でも、思いは伝えたい。例え撃沈することがわかっていたとしても、僕が好きだったという事実を相手に受け取って欲しかった。だけど、心の中ではどうせなら付き合えると良いなと思っていたのだ。


 だから、流れ星に願った。『相手は僕のこと好きじゃないらしいけど、付き合ってくれないかなぁ』って。律儀にはっきりと三回言った。そして、次の日に告白したんだ。

 そしたら、なんと付き合ってくれることになったのだ。僕は泣くほどうれしかった。同時に流れ星にとても感謝した。


 それから、僕が就職してからも付き合っているうちに、結婚したいという欲望が生まれてきた。付き合っているときの彼女は、いつもそっけない態度だった。僕のことを単なる遊び相手としか考えていない感じ。

 それでも、僕が彼女のことを好きって思いは変わらない。


 だから、また流れ星にお願いをした。「素っ気ない彼女は、僕といても楽しくなさそうだし、僕もあまり楽しくないけれど、結婚したい」と。一度も噛まずにシャキっと言い切った。

 そして、次の日にプロポーズをした。彼女は泣きも笑いもしなかった上に、死んだ魚のような目をしていたけれど、「いいよ」とただ一言だけ言ってくれた。うれしすぎて泣いた。同時に流れ星を崇め、称えた。


 と、今までにこんな風に願いを叶えてくれた事があったわけだ。だから、僕は流れ星が好きになった。もしかしたら、僕が恋しているのは彼女にではなくて、流れ星になのかもしれない。



 ……そう思っていた時期もありました。はい。



 僕の目の前を燃えるように輝く流れ星が一筋、キラリと綺麗な流線型を描く。そして――


 ――ズドォオオオオオオン!!


 町に落ちた。

 大きな煙と熱波が跳ね上がり、家だったものが残骸になって吹きとび、着弾点には小さなクレーターが出来ていた。それを見て、僕は一言。


「あぁ、あれ。僕の家だぁ……」


 それからも、次々と町に星が落下し、町は瞬く間に阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。

 どうして、こうなってしまったのかはわかっていた。昨日言ってしまった願い事のせいだろう。

 昨日は妻である彼女と喧嘩して、『もうこんな世界要らない! 滅んじまえぇええ!!』と、流れ星が流れる一秒の間にまとめて三回唱えた。正直、早すぎて自分なんていっているのかはわからなかったけれど、こうして叶っているって事は言えていたのだと思う。


 気付くと、町は跡形もなく消え去っていた。でも、落ちてくる星はまだまだある。それを見て、僕は冷静にこう言った。


「世界、滅んだなぁ……」

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流れ星 スパイシー @Spicy

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