外角低めの女の子
λμ
6番山内(左)
僕たち
ただ、みんなに優しいから、僕ら野球部は、みんな彼女を狙ってた。だから当然、デートに誘う。だけど、彼女は僕らの得意なところに言葉を向けて、それに乗るとかわされる。既に5人が彼女にチャレンジして、みんな凡打を重ねてきてる。
そんな彼女の武器は、外角低めのコントロール。例えば外角のストレート。
「私そういうの、嫌いじゃないなぁ」
僕たちはこういう言葉に弱いから、つい打ちにいってしまう。
「じゃあ、一緒に買いに行こうよ」
「あ〜、いいかも! あ、でも買うほどじゃないかなぁ?」
見事な凡打。もうだめだ。きっとセカンド正面に転がった。次の言葉が出てこない。
これがいつもの彼女だ。大抵勝負をしかけられるのは部活終わりで、家の遠い彼女は長く残っていられない。少ないチャンスをモノにしなくちゃいけない。
今日も誰かが、彼女と勝負をするはずだ。
「
プレイ。
今日の対戦相手は6番山内(左)。右投右打。彼は自分の得意分野の話になると、途端に強くなる。体格が大きいくせに内角打ちは絶品で、当たりさえすれば長打は確実。でもケースバッティングが苦手で、周りに話を合わせるのが下手なんだ。
「山内くん、今日すごい調子良さそうだったね!」
いきなりの外角。でもこれは探り針だ。
「や……い、いつもと変わんねぇよ」
「えー、そんなことないよぉ」
見逃してボール。でも微妙に打ちにいきかけてた。きっと打ちにいったら空振りで、リズムを崩されてた。彼女はそれに気付いただろうか。
「あ、そうだ、山内くん、音楽詳しいんだよね?」
内角やや高め。山内くんのゾーンだ。
「お……や、まぁちょっとね」
「ほんとに? 良かったぁ」
見逃してストライク。初っ端、外角に反応しかけたところでの内角。打ちにはいけなかったみたいだ。カウントは1-1。山内くんにとっては次が勝負になる。
「あれ教えてほしいんだ、最近車のCMで流れてたやつで、ロック? っぽいの。ほら、あの2台並んで走ってるやつ。たしか、○×って会社の」
内角高めだ。山内くんは、よく僕らにCMの曲を教えてくれる。いけるかもしれない。
「あー……あれは、△□ってバンドなんだ。俺もってるよ」
「ほんとに!? やった! あれちょっといいよね!」
いった。前に飛んだ。飛距離もありそう。
「部室にいけば、あるよ。あれカナダのバンドでさ、結構好きで……」
「あ、洋楽なんだぁ……じゃあイイカナ」
切れた。ファールだ。カウント1-2。
彼女の雰囲気、多分まとめに入ってる。時計をちらっと覗いたし、確実だ。次の一球は確実に外角低め。ただし、入れるか出すかは分からない。下手したら、落としてくる。
「カラオケとかにいいかなぁって思ったんだけどねぇ」
きた。外角低めだ。山内くんは聞くの専門で、カラオケは断固として行かないのだ。でもコースはキツイけど、打ちごろの遅い球でもある。山内くんも、きっとこの流れは読んでたはずだ。
「俺、似た感じの邦楽も知ってるしさ。今度の休み、一緒に行こうよ」
「いいかも!」
振りにいった。たとえ苦手なコースでも、狙いが当たれば飛ばせるのが彼の強みだ。
「じゃあ今度の休み、
なんてこった。曲げてきた。佐藤くんとユウちゃんって。ダメだ。ユウちゃんが誰かはしらないけれど、佐藤くんは山内くんがカラオケに行かなくなった原因だ。
「佐藤? あー、いや、やっぱあれ。俺、明日もってくるよ……」
「え、そうなの? でもそんなの悪いし、名前だけ教えて。ね?」
強引に引っ張ろうとした結果だ。ボールはショートが悠々キャッチ。ファーストへ。
ゲーム。
彼女は、山内くんと佐藤くんの関係を知ってて、言ったのだろうか。知っていたなら彼女は、山内くんに外角低めを振らせたってことになる。知らなかったとしたら、彼女はどこを狙って投げたのだろうか。
……やめとこう。結果球は外角低めのスライダーってところかな。それ以上は結果論だ。
「おい、何ニヤニヤしてんだよ」
山内くんに怒られた。
「あ、
これは……
「ねぇねぇ桐谷くん。さっき練習中にね? ……」
彼女の武器は、外角低めのコントロール。
外角低めの女の子 λμ @ramdomyu
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