第8話

その日の講義は特記すべきこともなく普段通りに終了した。まあ、太宰が教科書を忘れたから俺がほぼ見せてたんだけど。減るものでもないから全然問題ないのだが、そのたびに太宰は申し訳なさそうに感謝してきたのだった。そういう人の良さがいつも人を引き寄せるのかもしれない。イケメンでなんでもできそうなのに、そういう抜けてる点がさらにモテ度を上げるんだろうな。勉強になります。


「ねえ、よかったらご飯奢らせてよ。駅前のマックとかだけど」


太宰は講義が全て終わった後、そんな提案をしてくれた。奢るのは遠慮すると言ったのだが、「友達が二人増えた記念に」と王子様スマイルで言われたら断れるという人を連れてきてほしい。俺は無理でした。

尚也は自分の分は払うけど一緒に行きたいと言い、俺たちは駅前のマックにそのまま直行したのだった。



駅前のマックは、やはり最寄りに大学があるせいか、大学生でごった返していた。二階席に三人座れる席が空いていたので俺が場所取りをすることになった。

「岬はダブルチーズバーガーのポテトセットでいいよな?ケチャップつけとくわ。ドリンクどうする?」

「うん、それでいい。コーラにして」

「わかったー」

「…ほんと二人仲いいんだね」

席に荷物を置きながらいつものように尚也が確認をしてくれる。ファーストフード店に行くとだいたい俺はメニューが一緒だから二人で行くときには尚也が買いに行ってくれるのが常だから、きっと尚也は覚えていてくれたんだろう。あれ、俺って相当ダメな奴?


「岬のことは俺がいちばんわかってるから」

「あーそうだね。はいはい。じゃあ尚也買いにいこ。岬待っててね」

「うん…」


太宰は尚也に面倒をみてもらっているような俺のダメっぷりに呆れたのか、ため息をつきつつ、尚也とともにレジへ向かった。

そういえば、初めて会った時に「危なっかしい奴」と尚也に認定されてるって話したから、俺相当ダメな奴だと太宰に思われてるよな。恥ずかしすぎる。

それも恥ずかしいといえばそうなのだが、さっき何気に尚也が言った「岬のことは俺がいちばんわかってる」って言葉。嬉しすぎて恥ずかしくて俺はどうしたらいいんだろうか。

余計に尚也のことを好きになってしまうし、尚のこと恋愛感情で好きだと言ったら軽蔑されそうで怖い。


そうこうしてるとトレイを持ったイケメン二人がやってきた。

「お待たせ。ポテトとハンバーガーあとで持っていてくれるってさ」

「ありがと。悠ごめんな、ほんとにごちそうになっちゃって」

「全然いいよ。ほんと助かったし」

「そうだよ。岬のやさしさにはもっと感謝しろよな」

「いや、尚也にまで言われるとなんかイラッとする」

「なんだと、心外だな。てか悠って顔と発言がギャップありすぎてやばいわ」

「はあ?それは尚也もでしょ。岬との態度違い過ぎてやばい」

「…」


イケメン二人が言い合いするってすごいな。目立つ二人に店内の女子の視線が集中しているのを彼らは分かっているのだろうか。

そんなときに店員のお姉さんがポテトとハンバーガーを持ってきてくれた。俺が笑顔でお礼を言うとなぜか頬を染めてお礼を言われた。ん?お礼の応酬ってどういうこと。


「尚也も悠も仲いいのは分かったけど、ポテトとか冷めちゃうよ。食べよ」

「「わかった」」


俺に向き直ると二人は声を揃えて言った。どんだけ仲いいんだよ。嫉妬しちゃうんだけど。

コーラの炭酸を喉で感じながらまじまじと二人をみる。

…ほんとに二人ってタイプは違えどイケメンだよな。

すると悠がこらえきれないとばかりに噴き出したのだ。

「…岬、声に出てる」

「うえ!?ご、ごめん」

「ううん、全然。これが尚也がいう、『危なっかしい』ってことなんだろうな」

「悠もわかったか。この天然がまじで危ういんだよ」

俺も振り回されてる、と尚也が話す。え、初耳なんだけど。俺、尚也を振り回してたの。

「な、尚也、ごめん」

横でポテトを食べる尚也に向かって俺は様子を伺いながら謝る。尚也にうざいって思われたらマジで生きてけないから。嫌われたくない。

尚也は食べかけのポテトをぽとりと落として俺を凝視していた。じわじわと頬に赤みがさすのはなぜだろうか。

「…ぶっ!!はははっ!尚也のその顔笑える」

「うっせぇ!てか悠、お前猫かぶってたのかよ。いい性格してるな」

「お互いさまじゃない?あ、岬には俺優しくするからね」

「二人して俺を馬鹿にしてない?よくわかんないんだけど」


最初に話したときよりも太宰の印象が少しずつ変わってきたのは確かだけど、尚也と悠の関係性もより仲良くなっていってるのが感じられて俺はちょっと複雑だった。

その後でも俺に関することなんだろうけど、俺に分からないような、二人の目くばせとか会話をみているだけでどうしようもない気持ちになった。

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