第7話

一緒に昼飯を食べることを提案したのは俺だ。そもそも、どうせ一緒に講義を受けることになるのだから、一緒に食べることになるのはごく自然な流れではある。

だが…


「へぇ〜、たまたま席が隣でね〜」

「そうそう!たまたま!たまたまなんだよ〜」


この尚也の機嫌の悪さはなんだ。普段ならこんなことはないのに。普段と違うことといえば、ここに悠がいることしかない。尚也は意外に人見知りだったりするのだろうか。


「そう、たまたまなんだよ。でも岬が隣でほんとよかった。初対面なのに岬ってほんと優しいね」

「いやいや、そんなことないって。悠は俺を買いかぶりすぎ…だ」


話しながら横に座る尚也を見ると、目が完全に座っていた。こわすぎだって!悠はそんな尚也をみても平然とラーメンをすすっている。やはり天然なのか、こいつは。


「なに、もう下の名前で呼びあう仲ってわけか?」

「結構話が合ってね。岬ってほんと癒し系だもんね」

「まあ、話は合うよな、うん…」

「ふーーーーん…」


頼むからこの気まずさがなぜ続いてるのか説明してほしい。なに?なんでこんな機嫌悪いんだよこいつ。なんだか俺までイライラしてきた。


「なあ、尚也…なにがあったんだよ?さっきからおかしいぞ、お前」

「…なんでもねえ…」


そんな時、タイミング悪く俺の携帯が鳴った。画面を見ると、バイト先の店長からの電話。この2人を俺抜きで残していいものなのか…?俺はすぐに通話に移れず、その場で考え込んだ。いや、2人っきりにしたらまずいだろ。今はニコニコしてる悠がイラついてる尚也になにか言われるかもしれない。尚也のことはもちろん信頼しているが、今の尚也はなにかおかしいのだ。

そうこうしていると、尚也は俺の携帯を覗き込み、「早く電話でろよ、いいから」と向こうに行って電話に出ることを促した。悠も頷いてくれたので、「悪い」と断りを入れて食堂から抜け出し、電話に出た。










「で、お前はなんの目的で岬に近づいたんだよ」

「随分だね、笹川くん。たまたまって言ってただろ」

「ほんとかよ…」


2人っきりになると、やっぱり。こう話を切り出してきた。こんなにもあからさまに俺に対して嫉妬して、牽制しているのに岬はてんで気づいていない。ある意味この笹川尚也という男が不憫だなと、太宰悠は思った。


「そんなに吠えなくても、岬は僕にとってただのお友達だよ」

「…ほんとか」

「うん。ほんとに」

「…そうか。悪かったな…あいつ誰にでも優しいから、そういう風に勘違いするやつが多くて」

「あ〜わかるよ…あ!いや、そういう意味で僕はもちろんみてないよ?安心して」

「…てか、太宰はなんで俺の話の意図がすぐわかるんだ」

「ん〜さっきの君の視線とか、行動?みてたら誰でもわかる。たぶん岬以外は…」

「はあ〜〜…まじか…てかやっぱあいつほんと鈍いんだな」


彼は太宰に指摘されてもなんら否定せず、笑ってそういった。先ほどの太宰に対する敵意が消え去って、人好きのする笑顔がみれた。


「岬がああだと笹川くん、苦労してるでしょ」

「…まあ、俺はあいつに伝える気はないから…あいつなら優しいから無理して普通を装うだろうし、俺のこと気遣って応えようとするかもしれないし…困らせてまで言うつもりはない。てか、尚也でいいよ、俺のことは。さっきはごめんな」

「そっか…笹川くん…いや、尚也は優しいね。俺のことも悠でいいよ。気にしないで」


太宰はニコニコと尚也に笑いかけると、尚也も笑ってありがとう、と告げた。

「ねえ、岬とのこと、俺応援するよ」

「そりゃあありがたいな。まあ俺はほんと今のままでも満足はしてるから」

そういって笑う尚也の顔は嘘をついているように思えた。そう、なんとなく太宰は思った。




すっかり打ち解けていた2人を岬がかなり不審がるのは、そのすぐあとのことだった。

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