第6話
昼休憩の間も太宰とずっと話をしていた。外見からの印象ではやや近寄りがたい、コミュ障の俺では絶対話しかけないタイプな太宰だが、話してみると存外話しやすいと気づく。つい数時間前に初めて会ったのに、いつしかかなり前からの友人のように接していた。きっと彼の人当たりの良さがそうさせてるんだなぁと思う。ちょうどいい人との距離感を測ることができるんだ、きっと。羨ましいと思う。この性格でこの外見で、それでいて少し抜けていて…って完璧じゃねえかよ。
「ほんと、岬と話してるとすごい楽だ〜」
「え?まじで?」
まじで綺麗な顔してるよな、と思いつつ話をしていたため、太宰の発言に少し反応が遅れてしまった。楽か、そう言われると素直に嬉しい。
「まじだって〜岬ってさ、癒し系とか言われない?」
「ん〜〜言われないけど…あ、そういやいつもつるんでる奴には危なかっしい、とか言われるな」
かなり不本意だけど。尚也はいつも俺に対して危なかっしいだの、帰り道は気をつけろだの、やたらと過保護なのだ。
「危なかっしい…って、騙されやすい、とか?」
「ま〜そういうこと、なんかな?でもなんかさー、飲み会の帰りとかは送るだの、バイト帰りとか一人で帰ると危ないだの…なーんか、よくわかんないこと言われるけど…まあ、そいつにしか言われたことないな、そういえば」
尚也にというか…仲良くしてる奴なんてこの大学では尚也くらいしかいない…おれってまじで友達いねぇな…
考えながらそう太宰に話すと、なんとも言えない顔をされた。そりゃそうか…大の男がそんなこと言われてるーなんて会って間もないのにカミングアウトされたら引くよな、うん…
「あー、ごめんな?反応困るよな」
「え?!いやいや、そういう意味で黙ってたんじゃなくて!えーっと、その、岬の彼女さんって、なんか男っぽいんだね」
「…ん?」
ちょっと待て。太宰の発言の意図が全く分からないんだが。どういう流れで俺の彼女?てか彼女なんかいないけど。
「あ、ごめん!男っぽいだなんて、気を悪くしたよね、ごめん!ただすごい大事にされてるんだなーって」
「ちょ、っと待って、悠。話が見えない。彼女って?」
「え?違うの…?」
「違うよ!俺には彼女はいないし…てかいるように見えないだろ。言ったのは俺の友達で、男だよ…まあ、その、恥ずかしい話、その男にやたら危なかっしいって言われてる訳」
よっぽど俺って信用ないのかな〜と言いなんとも言えない空気を払拭するように笑う。うーん、俺は色んなものを暴露した気がする。まあ別に相手が太宰だから馬鹿にされるとかはなさそうだけど…
軽く流すつもりだったのだが…太宰は端正な顔をさらに歪ませ、怪訝な顔をしていた。
「…岬は普通にモテると思うけど…今日だって初対面の俺にすごい優しいし、話もしやすいし、雰囲気が柔らかくて可愛いから絶対すぐ彼女できそうだけど…」
「か、可愛いとか…イケメンはみんな視力おかしいのか?悠、ちょっと眼科行けよ。でも悠に彼女できそうって言われて自信ついた…できる気配今の所ゼロだけど」
「…みんな、って…まさかその男友達、岬のこと可愛いって言うの?」
「…不本意だけど…よく言われるな…あいつ、俺を馬鹿にしてんだよ、絶対」
けど、好きな人だから、そうやって俺に向ける言葉が冗談でも嬉しいから、これはきっと病気なんだろう。まあ俺の気持ちは誰にも言うつもりないからそっと心にしまっておこう。
「…うーん、やっぱ、岬は彼女できないかも…」
「えー?!なんで?!」
悠の発言に全俺が泣きそうになった。なんで?!なんでそんな悲しい宣告をするんだ、友よ。太宰は苦笑いをしながら残酷なことを告げるのである。
「なんかその友達にセコムされてる間は彼女なんかできなさそうだなーって。なんとなくね」
「…なんだって…尚也のせいなのかよ…」
絶望か…まあでも…彼女なんて作る気はないからな…尚也のこと、好きだし…と考えて、太宰にも指摘されたことで案外尚也に大切な友達として認定されているということに改めて気づいて顔がにやけた。
「う〜ん…でも確かに、今は彼女というより、友達といる方が楽しいのかも。今悠とこうして話せてて超楽しいし」
「……岬……なんか、その友達の言うこと、分かる気がする…岬、危なっかしいよ。その笑顔も、やばいもん」
急に太宰は真顔でそんなことを言いやがった。なんだって?こいつまで尚也と同じなのかよ。イケメンは考えることがわからん。
「悠…お前まで…」
ため息をついたその時。背後から見知った人物の声が聞こえた。
「なーーに、してんの、岬」
「ひゃう!!わ、脇腹やめろって!」
急に背後からやってきた男に脇腹をつつかれ、なんとも情けない声がでた。目の前にいる太宰も驚いた顔をしている。
俺のその反応をみて、尚也はさぞイジって愉しくてたまらない、という顔をしているのかと思いきや…超不機嫌な尚也様がそこにはいた。なにこれ。何があったんだよ。昼飯の時間だから腹減って機嫌悪いのか?…まあ、たぶん違うけど。
「そっかそっか、脇腹弱いんだもんな〜忘れてたわ」
こ、こわ…!何これこの機嫌の悪さのレベルは記憶にあるだけでも片手で数えるくらいしかない。直近は俺が大学入りたての時に部活の勧誘飲み会でやたら飲まされてベロベロになったときかなあ…めっちゃ酔い潰れてからはそんなに記憶がないんだけど…あとで周りからきいたら、俺が醜態を晒してたみたいで…その時確かにいろんな人に絡んでたから…詳しくは聞いてないけど、その場に居合わせた人間が尚也が般若のごとく怖かった、とだけきいた。たぶんその時が超機嫌悪い時だったんだ。その時と比べて今がどうかはわからないが…とりあえず触らぬ尚也様には祟りなし、だろう。
「尚也、えっと、その、昼飯、た、食べた?」
な、何を言ってるんだ俺はー!動揺してるの丸分かりだ。今の今まで尚也の話をしていたことに加え、尚也の機嫌が悪いことでとりあえず口をついてでた内容がそれって。
「食べたよ。てかさ、隣にいるの、だれ?」
「え?!あ、ああ」
まっすぐとした視線が俺を突き刺して、真剣な瞳の尚也に、こんなときなんだけどどきりとしてしまう俺はやっぱりアホだ。
「こんにちは、岬のお友達になりました、一年法学部の太宰悠といいます」
「………岬、か……俺は一年笹川尚也です」
にこりと挨拶をした太宰に対し、尚也といえば、いつもの爽やか王子様スマイルはどこに忘れ去ったのか…にこりとも笑わずにそういい放ったのだった。
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