第1話 出会いは鮮烈に

 時は入学式の数日後に遡る。


 入学式後の数日は大体各教科の説明や教科書の販売等で1日が過ぎていく。この間に極力友達を作ろうとするのが普通の高校生だ。俺もその例に漏れず、後ろの席のクラスメイトとの話しに花を咲かせていた。


「へー、亘はアニメ好きかよ。最近おすすめってあんのか?俺も割と見てるけどー、なっかなかいいやつに出会えないんだよー。」

「いいやつってなんだよ啓介。俺が見てるジャンルはさっき話しただろ?大抵ロボット物だよ。まぁ、ファンタジーももちろん見るけど。」


 割と語尾を伸ばしがちな彼の名前は“牛原 啓介”と言う。のんびりしてそうなイメージではあるが、かなりアニメについて話を振ってくる。お互いに近い話題を持っている物同士であると直感したのだろう。しかし、彼の茶髪の癖っ毛と甘いマスクから構成されるモテオーラは圧倒的リア充力の証明をしている。さぞかし、中学ではモテたに違いない。現に彼とはすでに名前で呼び合っている。恐ろしいコミュニケーション能力だ。


「まぁ、熱くなれるなら色々あるかもなぁ。最近は深夜帯のアニメの方が出来がいいし。」

「あぁなるほどなー。今度見てみるぜ!・・・っと、話は変わるけどいいか?」

「ん?なんだよ、別にいいけど。」

「はは、わりいな。亘はもう部活決めてんのかなー?なんて思ったからさぁー。」

「あぁ、まだ決めてないな。これから部活紹介あるだろうし、それからでいいやって思ってた。」

「だよなー。亘ってガタイいいから意外と運動部とかやるのかと思ったけど、そうだよなぁやっぱ見てきめるよなー。」


 当たり前といえばそうだが、何事においても見てみないことには俺の考え方の1つだ。全部憶測で語ってしまうのは、目隠しで地雷原に突き進むようなものだ。そんな危険な真似はするべきではない。


「じゃあさ!一緒に見に行こうぜー!この後HR終わったら、見学可能らしいし!」

「いいな、一緒に回れるやつがいると心強いよ。」


 だろー、っと笑いながら啓介は答える。

その後、さらに数人を誘い合わせて部活見学に繰り出していくことになった。



ーーーーーーーーーーーー



 数刻後、日も暮れ始めた。

 見学から体験に切り替え始めた新入生も多く見かける。

 幾つかの部活を見て回ったが俺の琴線に触れる物はなかった。

他の皆は幾つか決めたようでそのまま体験を始めている。残ったのは啓介だけだ。


「いいんだぞ啓介。俺に付き合わなくても。」

「あははー、いいのいいのー。俺もまだ見つかってないだけだしー。」

「何言ってんだよ、サッカー部とかから誘い来てたじゃん。」

「あー、あれね。まあ、それはそれだよ。」


 俺は訝しげに眉を無意識にひそめた。

 歯切れの悪い回答に違和感を感じたからだ。彼のモテオーラが一瞬陰ったからかもしれない。リア充の鏡のような彼がこんな歯切れが悪い応答をするだろうか。


「まあまあ、色々あんだよ。あと亘をほっとけないしねー。」

「なんだよ、ほっとけないって。」

「目つきがわるーい亘君が一人だと心配ってわけだよー。」

「この三白眼は生まれつきだ!!」


 確かに不良相手に睨んだだけで喧嘩を売られ、凄んだだけで退散させる程の目つきの悪さは自覚してる。流石にあのときはちょっと凹んだ物だ。


「あぁ!もう!回るぞ!目つきのことはいいっこ無しな!!」

「あははー、なんか亘をいじる方向性がわかってきたぜー。」

「わからんでいい!!」


 彼にツッコミを入れ終わった瞬間であったか。

 重低音が耳を撫ぜた。


 ゴリゴリとすり鉢で胡麻をする音に近い音ではあるが、心の臓に響くような重さという特徴がある。時折、ゴールだのスタックだのと言う謎の言語が飛び交う。しかし、俺はこの音を知っていた。何度も何度も繰り返してTVやニュースで見続けた憧れの存在が出す音だ。そう、モーター音。


「わりい、あそこ行ってきていいか?」

「いいんでなーい?俺も気になるしー。」


 足を運んだ先にあったのは、TVで見たことはあっても、実際には見たことのない光景だった。


 心臓に響くような重低音を響かせながら、鉄の箱が猪のように疾駆する。走り抜けていく先には黒い球。少し視野を広げると卓球台程の大きさの台がサッカーコートらしき物になっていた。

 すぐに頭によぎった単語。それはロボコン。

 憧れの存在が今目の前で行われているのだ。


 思わず唾を飲む。

 鉄の箱、いやロボットは目にも止まらぬ速さでボールに追いつくと甲高い音を立ててボールを弾き飛ばした。それらしい動きを見せていなかったのにも関わらずにだ。よく見れば、先ほどまでボールが接していた面には棒状の突起物があった。それで勢い良く弾き飛ばしたのだろう。その結論に至る前にはすでに青いゴールにボールが突き刺さっていた。


「ゴール!!黄色側1点です!!」


 コートの外にいた主審らしき人物が声を上げ、ボールを取り上げる。すると、それぞれのロボットは主人の元に戻っていく。

 今気がついたが、2対2で行われておりそれぞれのゴールが青と黄色に塗られていた。そんな見ればわかることに気がつくのが遅れるほど、見惚れていたようだ。そんな俺の肩を啓介が叩く。


「見つかったみたいだなー。部活。」


 その時の俺の顔は一体どんな顔だったのだろう。

 少なくとも、口は引きつってたと思う。

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