コレステロール系彼女

夏鎖芽羽

コレステロール系彼女

 突然ですけど、僕に彼女ができました。

 馴れ初めはこんな感じ


「こんにちは! 私コレステロール! あなたが今日のお昼に食べたからあげに含まれてたの!」


「えっ? は?」


 テレパシー的なもので彼女は僕に話しかけてきた。


「突然なんだけど……あなたの食べっぷりに惚れちゃったの! きゃ! 言っちゃった! 恥ずかしい」


 一人で頬を赤く染めながらしゃべる彼女――もとい、コレステロール。いや、彼女はコレステロールだから実体も何もないんだけど。


「だから私とつきあって!」


「えっ、あ、はぁ」


「やったー! ありがと! これからよろしくねケイ!」


 僕の戸惑いのがどうやらイエスと認識されたらしいです。コレステロールの解釈ってすごいね。というか、コレステロールに知能とかあるのかな……


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 そもそも、コレステロールってなに?

 数分前に晴れて僕の彼女? というか<彼女的なコレステロール>になった彼女……あぁ、面倒だ。


「君、名前は?」


 呼び名問題を解決するために彼女に訊いてみる。


「私はコレステロールだよ?」


「いや、だから名前。君はコレステロールかもしれないけど、名前はあるでしょ? 僕は人間だけど恵って名前があるわけだし」


「うーん……コレステロール自体が名前だからわかんない」


 確かに人類史上コレステロールに名前があるなんて聞いたこともないし、コレステロールはコレステロールが名前なんだろう。うん、なんてややこしいんだ。


「でも、コレステロールじゃ呼びづらいよ」


「それじゃ名古屋巻きとでも呼んでちょうだい」


 たぶんコレステロールの「ロール」部分から名古屋巻きを連想したんだろうけど、全然略称になってないしよくわからない成分のあだ名が髪型になるなんていやだ。あっ、ちなみに名古屋巻きはキャバ嬢がやってるやつね。


「……彼女の呼び名が名古屋巻きはさすがにいやだな」


 そもそもコレステロールなんてよくわからないものが彼女なのもいやだけど。


「うーん……それじゃ生春巻きかな?」


 ロール系から離れないね、君。


「しょうがないから僕が決めるよ……それじゃ、君の名前はレスティだ」


 コレステロールの「レステ」からとってみた。うん、案外悪くないし呼びやすい。


「えー、外人みたい。私アジア系なのに」


 コレステロールの世界にも人種が存在するようです。


「とにかく君の名前はレスティで決定。これからレスティって呼ぶからね」


「はーい」


 元気よく返事をするレスティ。案外素直で可愛いかもしれない。まぁ、実体がないから実際はとんでもない不細工化もしれないけど。というか、実体がないのなら美人も不細工もないのか。


「それで、君は一体なんなんだ?」


「私は恵の彼女だよ! きゃ、恥ずかし!」


 うん、まったくもってその通りなんだろう。でも、僕は君の交際の申し込みにイエスとは言ってないんだよね。君の頭の中で勝手にオッケーにしただけなんだよね。頭ないけど。ただ一つわかることはいま君が (〃▽〃)ポッ という表情をしていることだ。まぁ、顔がないから表情なんてもの自体が存在しないんだろうけど。


「……まず一つ、コレステロールってなに?」


 話が進まないので最も気になっていたことを質問してみた。


「わからん」


 いや、わかってよ。自分のことでしょ?


「だって、恵だって人間ってなに? って言われてどんなものかこたえられるの? ゴリラと何が違うの?」


 ……たしかに即答はできないね。ゴリラと人間の区別なんて些細なものだし。コレステロールとトレハロースの違いなんてパンピーには些細なものだし。いや、そんなに些細なものでもないか。


「そうだね。それじゃ質問を変えるよ。レスティは僕の体のどこにいるの?」


「私は血液のなかにいるよ!」


 血液の中ですか……どこにいるの? って聞いて、血液の中! って言われる経験は今後一生ないだろうな……いや、レスティと付き合う以上これからもあるのかな?


「そっか。それじゃ続けて質問。レスティと僕は恋人同士らしいけど、その……で、デートとかどうするの?」


「あー、恵ったら照れてる~かーわーいーいー」


 うーざーいー。すみませんね、交際経験ゼロなもので。そもそも人間との交際経験がコレステロールの交際に生かせるかどうかも知らないけど。


「私たち血液でつながっているんだよ?」


 うん、そこはかとなく怖いね。あれだね、ヤンデレだね。


「だから、何もしなくても手をつないでいることになるし、ちゅーしてることになるんだよ?」


 たしかにね、血液は手にも足にも唇にも流れてるしね。そうなっちゃうよね……うん、色々想像しちゃうよね。むしろ創造? 新たなジャンルの。


「あっ、エッチなこと考えた」


 考えてません。僕は純真無垢です。……ほんとだよ?


「それじゃ、最後に一ついいかな?」


「なーに?」








「僕、女の子なんだけど」









 僕の恵は「ケイ」ではなく「メグミ」と読みます。一人称が僕ですけど女の子です。一応。


「百合だね!」


「百合ですね」


でも、私はノーマルなので男の子がいいです。なので、早く消化されるか(コレステロールって消化されるの?)体から出ていってください。


<了>

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