第5話 勇者ユータロー誕生

 気がつくと俺は、仰向けに倒れていた。


 髪や服に付いた砂埃を払いながら上体を起こすと、周りの風景に我が目を疑った。

 さっきまで自分が立っていたはずの高台は影も形もなくなっており、一面に荒れ野原が広がっている。


「どこだ、ここ……!?」

 俺が戸惑いを隠しきれずにいると、

「目が覚めたようね」

 と、背中から声がした。掛屋の声だ。

 慌てて振り返るが、姿が見当たらない。


「どこ見てるのよ。上よ、上」

 確かにその声は、前というより上から聞こえてきている。

 言われるがまま、そちらへ視線を向けると――……。


 掛屋はそこにいた。

 ……が、厳密に言うと、俺の記憶の中にある彼女とはちょっと……いや、かなり違っていた。


 見慣れた制服姿ではなくチュチュを身に纏っており、セロファンで作ったような羽をパタパタさせながら浮遊している。

 それだけであれば俺もまだ、

「なんだ、コスプレが趣味だったのか。それにしても宙に浮く演出とは、なかなか凝ってるな」

 という感想で終わったかもしれない。


 だが、明らかに違うのだ。サイズが。

 例えるならそう、着せ替え人形ぐらいの大きさに、彼女はなっていた。


「か……掛屋……?」

 念のため確認してみると、

「リンでいいわ。私もユータローって呼んでいい?」

 と、その人物(?)は答えた。どうやら同一人物ではあるようだ。


「それは構わないけど……これは一体どういうことなんだよ……?」

 ツッコミどころが多すぎて、何から聞いていいやらサッパリだ。


「どういうことって……あなたの望み通り連れて来てあげたんじゃない。RPGの世界に」

 掛屋……じゃなかったリンは事も無げに言う。

「RPGの世界!?」

「そう。あなたの周りに星の数ほどある、剣と魔法でモンスターと戦うロールプレイングゲーム。それらのイメージを統合・具現化したところがここよ」

 いつもの俺なら一笑に付して終わるだろうが、状況が状況だけに真に受けてしまっている自分がいる。


「わたしはこの世界を治める神に仕えるフェアリー……妖精ね。わたしに与えられた役目は、あなたの世界に行き、勇者になれる見込みがありそうな人を連れてきて、魔王を倒してもらうこと」

「それってつまり……」

「勘違いしないで。あなたにその可能性を感じたわけじゃないわ」

 食い気味に否定された。ですよねー。


「本当は土生君をスカウトするつもりだったんだけど、さっきも言ったように彼はあまり向いていないことがわかったの。それで途方に暮れていたところに……」

「俺が現れた、と」

 なるほど。少しだけ合点がいったぞ。


「そういうこと。人がどうしようか悩んでる時に、あなたったらあまりにもトンチンカンなことを言うものだから、ついイラッとしちゃって。この世界の現実を見せてあげようと思って、連れて来たのよ」

「この世界の現実?」

「勇者となって魔王を倒し、世界を救うまでには、どんな苦労が隠されているのか……あなたにはそれを、身をもって知ってもらうわ」

 何それ恐い!


「というわけで早速、魔王を倒す旅に出ましょうか」

 リンがどこかへ向かおうとするので、俺は慌てて引き止める。


「いやいやいや『というわけで』じゃねーよ! 俺なんかにできるワケねーだろ、魔王を倒すなんて! 無理! 無理だって! 早く元の世界へ帰してくれ!」

 俺の叫びに対し、リンはいたずらっぽい笑みを返すと、衝撃の事実を明かした。

「あなたってホント何もわかってないのね。元の世界に戻りたかったら、魔王を倒すしかないわよ」


 ……これはとんでもないことになったぞ……。

「……で、俺はとりあえずどうすればいいんだ?」

 俺がようやく腹をくくると、リンは言った。


「決まってるでしょ。冒険の始まりは王様への謁見からよ」

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