第五話 確かな想い

 雪彦さんのお願いは、秋人さんに全てを話し、春太郎さんを医者に見せることだった。あのままの状態で春太郎さんに打ち明けるには本当の意味で壊れてしまうかもしれないからだ。

 あの朝全てを打ち明けた雪彦さんは半年たった今でも私たちの前へ姿を現さない。

「久しぶり。」

「あら、秋人さん、春太郎さんの様子はいかがですか?」

「あのこともちゃんと受け入れたみたいで大分落ち着いてる。まだまだ心の治療が必要だけどな。」

「よかった。そういえば今日はどうしてここにいらっしゃたんですか?」

「あんたに渡したいものがあって。雪彦の部屋から出てきたんだ。」

秋人さんは一通の手紙を私に差し出した。その差出人は姉で、宛名は私へのものだった。

「わざわざ届けて下さってありがとうございます。」

「椿さん、昔の母さんにどこか似てて温かい人だったよ。」

淡い桜色の封筒に包まれた姉の想いを目に焼き付け、同封されていた栞を秋人に差し出した。

「これ、秋人さんが持っていて下さい。」

「押し花の栞?大事なものだろう。」

「だからこそ秋人さんに持っていて欲しいんです。」

秋人は「分かった。」と不思議そうに受け取った。

「そういえばあんたには色々酷いことしたな。あの後、色々バタバタしてて改めて謝る暇がなかったから。」

「いいえ、それは秋人さんが私を想って下さっての行為ですから気になさらないで下さい。それにあの後も私の様子を心配して何度も会いに来て下さったし。」

「そ、それは会いたかったからで、自分のためでも…」風が木々をさらさらと揺らした音で言葉がよく聞き取れなかった。「そうだ、明日姉さんの墓参りに一緒に行きませんか?」

「ああ、花買ってくる。」

「お願いします。あ、帰りに春太郎さんの所に寄っても大丈夫でしょうか?」

「ああ、きっと春兄も喜ぶぞ。」


百合子へ

母さんの体調はどうですか?

百合子の誕生日を一緒に祝うことができないので、押し花を送りたいと思います。この花はモッコウバラと言い、花言葉は「幼い頃の幸せな時間」です。百合子にはもう三年近くも会っていませんが、百合子や父さんや母さんと過ごした日々を思い出して仕事を頑張っています。実はもう一つ花言葉があります。それは初恋です。百合子も好きな人ができる頃かな?その時はこのモッコウバラを渡してみて下さい。それではお母さんによろしく伝えて下さい。

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かくれんぼ 宮田おかゆ @008_oky

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