知らない顔
夕食を済ませたあと、わたしたちはゲームをしていた。正確には、彼女がゲームをしていて、わたしがそれを横で見ているという構図。わたしのゲームの腕は、ゲームボーイ時代の平面からまったく進歩していないから、端から参加するつもりはない。彼女は小さな手でPS4のコントローラーを握り、まるで自分の手の延長かのように巧みに操る。
「これ、敵は殺さないの?」
隻眼隻腕の英雄が、麻酔銃を持って敵地に潜入している。
「殺すと死体が見つかって面倒なの。あとポイントも下がるし」
そうか。殺さないほうがスコアがいいんだ。人道的なんだね。見当はずれの考えが浮かんで、消えた。
わたしはテレビから視線を外して、彼女の横顔を盗み見る。ふわふわの茶髪に埋もれるように、大きな目がきらきらと輝いている。すごく、真剣。見慣れないその顔。もしかしたら、バイト中もこんなに真剣な顔をしているのだろうか。そう考えると心がざわざわした。わたしはまだ、彼女の全部を知らないのか。
「かーっ、Aかー。S狙いだったのになー」
ミッションが終わって、映し出されたリザルトに不満をこぼす彼女。さっきまでの射殺すような真剣な眼差しは、もうない。いつものほわんとした顔がそこにあった。その変化に、わたしはまだついて行けていない。わたしの知らない彼女は、もう奥に引っ込んでしまった。待って。そんな焦燥に似た気持ちが、私の体を動かした。
「ゆず」
半分は無意識だった、とあらかじめ言い訳をしておく。
気がつけば彼女の小さな体は、わたしの腕にすっぽりと収まっていた。ふわふわの髪に顔をうずめる。同じシャンプーを使っているはずなのに、なんでこの子はこんなにいい匂いなんだろう。羨ましい。でも、愛おしい。
「あーちゃん、あまえんぼ」
いたずらっ子のように、それでいて慈しむように、彼女が言う。
恥も外聞もない、とはちょっと違うけれど、わたしはもうそんなのどうでも良かった。
すき。今日のラブ:ライクは、きっと言うまでもないだろう。
彼女の小さな唇に、顔が引き寄せられていく。
わたしと彼女の一日 amada @aozaki
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