きらぼしのこ

りつか

きらぼしのこ

 流れ星に三回お願いごとをしたら叶うって、一体誰が言い出したんだろう?




「三回もムリだよ! いつ流れるかもわかんないし、出てもあっという間に消えちゃうんだもん。リューもそう思うでしょ?」


 ウィルが頬を膨らませる。その途端に流れ星がひとつ、ふたりの頭の上を流れていった。ああと肩を落とす少年を前に、青年リューはにやと笑った。


「俺いいこと思いついたんだよ。流れ星が消える前にさ、捕まえちゃえばいいんだ。そしたらお願いし放題だよウィル」

「ええ!? 流れ星って、つかまえられるの?」

「これを使ってね」


 青年はおもむろに右手を掲げてみせた。その手には長い棒が握られている。棒の先についているのは大きな袋状の網だ。つまりこれは、


「……星は、虫じゃないんだよ」

「やだなぁ、虫取り網じゃないよ。なんと、星取り網なんだ!」

「ほしとりあみ!?」

「そう。星が流れた瞬間に一振りするとあら不思議、星のかけらを取ることができる魔法の道具なんだよ」


 リューはニコニコと、その星取り網とやらを振り回してみせる。

 とても胡散臭いな、と思ったけれどウィルはそれを言わないでおくことにした。だって、リューがあんまり嬉しそうだったから。


 そのとき、流れ星がまたひとつ。


「リュー!」

「任せて!」


 流れ星の軌跡に沿って、流れる方向とは反対の方へ。まさに飛んでくる虫を捕まえるような仕草で、リューは星取り網を颯爽と振った。

 地面に振り下ろした網の中をウィルがおそるおそる確かめる。けれど結果は少年の思った通りだ。当てが外れた青年は首を捻った。


「あれぇ、おかしいな」

「タイミングがあわなかったのかな?」


 その後も何度か試してみた。でもとうとう星は捕まらなかった。




 次の日、リューは違うものを持ってきた。四角い大きな塊から太い管のようなものが伸びている。その管の先についているのは漏斗、のようなもの。


「これは、星吸いこみ機と言ってね、」

「……ぼくには大きな掃除機に見えるよ、リュー」

「まあまあ。こうして吸い口を空に向けて、と」


 眉を顰めたウィルが見守る中、リューは「見ていてよ」と自信満々に両手を伸ばした。


 やがて天に一筋の光が流れた。

 瞬時にリューが手元のスイッチを押す。星吸いこみ機とやらが勢いよく唸り出す。何が起こるのか、今度こそ星を捕まえられるのか、ウィルはわくわくと胸を弾ませた。が、機械音は急激に小さくなり、止まってしまった。


「……星、つかまえた?」

「あー……電池切れ、かな」

「これ、電池なの?」


 呆気に取られる少年に青年はハハハッと笑みを返す。いわゆる〝笑ってごまかす〟をされていると気づいたウィルはむうっと頬を膨らませた。

 そういえばアンも「リューは当てにならないよ」って渋い顔をしてたっけ。彼女はウィルにとっては叔母だがリューとは〝両想い〟なんだそうだ。そのアンが言うんだからきっと真実なんだろう。

 リューは星吸いこみ機をさっさと放り出し、天に向かって握り拳を掲げていた。


「こうなったら奥の手しかないな。ロケットを飛ばして星を捕まえにいこう!」

「どこにロケットがあるのさ!」

「きみの父上にお願いして……」

「持ってないよ! もう、リューってば夢みたいなことばっかり」

「あはは夢か。ほんとだね。ごめんごめん」


 片手を顔の前に上げて、リューは一応謝罪の形を取った。けれどニコニコ笑っているせいでちっとも謝られている気がしない。いつものことと言えばいつものことだけど。




 ウィルは大きな溜息をついた。その場に座りこみ、膝に顔を埋めて丸くなる。すぐにリューもやってきて隣に腰を下ろした。


「……元々、流れ星にお願いごとを三回するのが難しいから、星を捕まえようって話だったよね」

「……」

「ウィルの願いごとって、なに?」


 少年は答えない。青年は黙って待っていた。

 夜風が吹き、ふたりの頭の上を流れ星がひとつふたつと流れていった。そうしてようやく「あのね」と小さな声がした。


「……またみんなで街に遊びに行きたいなって思ったの。おいしいケーキ屋さんがあるんだって」

「ケーキ屋さん?」

「うん。でも、アンはあまいものあんまりすきじゃないからね……。ダメって言われそうな気がして、だから流れ星におねがいしたかったの……」


 少年の告白を聞いて、リューはうーんと息をついた。それから彼の肩をぽんぽんとなでる。


「……そういうのは、願いごととは言わないな」


 しみじみと呟く青年の声にカッとして、ウィルが顔を上げる。リューはそんな少年の顔を覗きこむと、にやと笑った。


「願わなくたって叶えることができるからね。どうすればアンを連れていけるか、一緒に考えようか」


 一拍置いて、ウィルのむくれ顔がゆるゆる和らいでいく。それでも眼差しに強く滲んでいるのは「本当に叶うの?」という不信の色だ。


「そうだなぁ、例えばこういうのは?」


 リューはウィルの耳に顔を近づけ、とっておきの案をささやいた。

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きらぼしのこ りつか @ritka

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