水曜日の魔女

終末禁忌金庫

水曜日の魔女


 水曜日の魔女はいつも気だるげだ。アンニュイな表情で頬杖を突いて、窓際の観葉植物の葉っぱをいじくって遊んでいる。寝起きの頭は、昨夜風呂を上がってから乾かさずに床に入ったもんだから、好き勝手に跳ね放題で、かといって魔女はそれを特別機にする様子もなく、退屈そうに、くあとあくびをかいた。


 水曜日の魔女は、ふと気が付いた。水曜日という曜日は、ゴミ出しの日である。慌てて立ち上がって、立ち上がる時、よっこいしょ、なんて思わず言ってしまって、ひとり恥ずかしくなる。部屋の隅に、古くなって使わなくなった錬金釜の中に押し込んだゴミ袋ふたつ手につかんで、急いで駆け出す。


 水曜日の魔女は、ゴミ出しから帰る時に、またひとつ気が付いた。お気に入りのサンダルがもうダメになってしまっていることに。水玉模様と蛙の模様のサンダルは、それこそ潰れた蛙みたいになって主人の足を乗っけている。本当は昨日も一昨日も気が付いていた。気が付いていて、気が付かない振りをしている。


 水曜日の魔女は、さもひと仕事終えたかのように嘆息づいて、サンダルを脱ぐ。脱いだサンダルを見て、これに蛙になる魔法をかけてやろうかしらと考えて、止めた。本当に潰れた蛙になってしまって、ぴょこぴょこ跳ねずにその場で死んでしまうかもしれないから。水曜日の魔女は、臆病なのである。


 水曜日の魔女は、部屋に戻って、ブラインドをずらして外を見た。襟元のよれたスーツに着古したジャケットを着て会社へ急ぐサラリーマンをひとり見付けて、鼻で笑ってやった。彼はあの後事故に遭う。魔女は知っているのだ。なぜなら、何千、何万回と見た光景だから。昨日も一昨日も。


 水曜日の魔女は、角から出てくるトラックを確認してから、目をそらした。瞬間、ブレーキのけたたましい制動音が鳴った。たまらず耳を塞いだ。水曜日の魔女は臆病なのである。あの後トラックは、急発進して、サラリーマンを置き去りにしていく。何度も見た光景だ。昨日も一昨日も。



 水曜日の魔女は、水曜日から出られないでいる。





■あとがきというか蛇足というか


 説明文やキャプションに書こうとも思いましたが、せっかくなので、本文中にあとがきという形で書き足します。

 水曜日の朝は気だるげです。僕だって気だるげです。世間の皆様方におかれましては、「あー、今日も仕事だー、明日も明後日も仕事だー」的な感覚かと思われます。僕の感覚としては、「あー、やっと終わったー。でも、今日も明日も仕事だー」てな感じです。まぁ、さしたる違いはないことかと思います。

 作中に、ちょくちょく矛盾点や疑問点が生じることがあろうかと思いますが、改めて僕から、なにかしら注釈や説明の入る余地はありません。ただ、僕の中では、すうっと一本筋の通った設定の下で書きしたためましたので、ぜひとも、皆様方で勝手に設定なんか考えてみてください。


 ちなみに、土曜日の魔女や日曜日の魔女はありません。なぜなら僕が忙しいからです。魔女は月水木だけです。番外編で、祝日の魔女なんかはあったりします。


 次回は木曜日の魔女で乞うご期待

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水曜日の魔女 終末禁忌金庫 @d_sow

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ