第2話 RE1:懐かしい教室
覚醒する。
魂が宿る。そんな感じ。
「ん、んぉ・・・」
今まで真っ暗だった世界に光が。うぉ、まぶしっ。
僕は辺りを見回す。まだぼやけてはいるが確かにこれは
世界 だ。
真っ暗で何もない、あの空間ではないのだ。
でも確かにあの世界か?もしかしたら異世界か?最近
流行ってるよね。異世界。僕も行きたい。
ぼやけた視界が晴れないまま、立ち上がり僕は言ってみた。
そして同時に、魂の宿った僕の肉体、腕部を振り上げる。
「ファイア!」
異世界だったら炎の一つぐらい出るかもしれない。
さきほど超常的な体験をしたのだ。なにかおかしなことが
あってもおかしくない・・・・、はずだ。
しかし なに も 起こらない!
当たり前だ。あの声の人は
『人生をやり直すチャンスをあげる』
と言ったのだ。誰も異世界に飛ばそうなんて言ってない。
段々と目が慣れたきたらしい。ぼやけていた視界が鮮明になってくる。
視界の先には、震える人がいた。顔は真っ赤だ。もしかして
怒ってる?
「久野!!!!!!!!貴様!!!!!!!!!!夢の続きは家で
見やがれ!!!!!」
その人は腕を振りかぶって何かをぶん投げた。
すごい速度でその何かは、僕の眉間をぶち抜いた。
HEAD SHOT!!!
「かはっ・・・!」
思わず体がのけぞる。そのまま後方に倒れる。
くおおお、痛い。この一点に集中したダメージ。こいつは・・・。
眉間から転げ落ちた何かを手で拾う。
「チョーク・・・」
チョークだ。ということはだ。
「ここは、学校か!」
くるりと辺りを見回す。
うおおお!懐かしい教室!見慣れた面子!
戻ってきたのだ。戻ったいうのも変な感じだが。ここは教室。
そして、一昨年まで通っていた、僕の母校だ。
「はぁ、久しぶり・・・」
僕はつぶやく。だって見慣れたみんなの顔が、また俺の前に並んで
いるのだ。
なんか言ってるぜこいつ、とか。ついに頭おかしくなったか、とか。
オタクこじらせたか、とか。
うるせえうるせえ、僕は戻ってきたのだ。
ポケットに入っているはずの携帯を取り出す。
うわぁ、いつの機種だよこれ。電源ボタンの位置とか全然違う
じゃないか。
画面に映るホーム画面。その中のアプリに表示される今日の日付。
2012年、8月。
すげえ!ほんとに過去に飛ばされたのか!
すげえなぁ、タイムマシンとか物理的な感じじゃないけどな。
感動も束の間、歩み寄ってきた先生に首根っこを掴まれる。
「ぐぇ!」
苦しい苦しい、ちょっとやめて!死んじゃう!
せっかく戻ってきたのにまた死ぬ!
「貴様は廊下に立ってろ!!!!あと、携帯も没収だ!!!!」
廊下に引きずられていく。
引きずられている時、教室全体を見渡した。
教室の隅に、彼女の姿はあった。
感情をあまり露わにしない彼女であったが、今だけは顔を抑えて
笑っていた。
彼女は、吉神 杏。
そう、僕が忘れられない素敵な笑顔をもった、僕が恋した女の子だ。
綺麗なサラッとしている、ショートカットの黒髪。
整った顔立ち、長いまつ毛。
少しだけ朱に染まった頬。
真っ白で艶やかな健康的な肌。
笑顔だけじゃない、完璧な女の子だ。
今だからこそ、そう見えるのかもしれない。
僕が現役の高校生だったときには、そこまで考えていなかった。
ほんとに、笑顔だけしか見えてなかったんだなぁ。
なんて言うものの、僕は彼女とそこまで話したことはない。
高校二年、三年は別のクラスだったし、なに部に入っているのかすら
知らなかった。調べるとか出来なかったし、話しかけたりも出来なかった
んだよね。オタクは女の子と話すのがとても難解なのだ。
だが今は違う。中身は完全に成長した僕はオタクこじらせたコミュ障野郎
でもなんでもない。彼女と仲良くなって、あの笑顔を僕のものにするのだ。
僕なりのハッピーエンドへと歩き始めるのだ。
「なーに満足そうな顔してんだ。いいって言うまで立ってろ。」
先生は怒りの表情で僕を睨みつけ、教室に戻る。
携帯もバッチリ持って行かれた。
僕は廊下の窓から見える青空を見て、口元を釣り上げた。
再び俺は!-RESTART- 北村卯月 @uzukita
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