再び俺は!-RESTART-

北村卯月

第1話 プロローグ-チャンスの女神様-

目を覚ます。

窓の外は明るい。


「はぁ。」

僕は息をつく。今日も今日とて仕事である。

時間は・・・。僕は頭の辺りに置いていた携帯を手に取る。

パッと画面が照る。起きてすぐの目には優しくない光を放つ。

そこには・・・


「七時半かぁ。」

ぼうっとしている。今日も寝不足だ。


七時半か・・・。七時半!!!???


「遅刻じゃないか!!!」

マズイマズイまずい!完全に遅刻じゃないか!

僕は布団から飛び起きる。


「目覚ましかけてなかったっけ?!くっそ、まじかよ」

洗面所に駆ける。

蛇口をひねり水を出す。手で椀をつくり乱暴に顔を洗う。

残業続きの毎日なんだ、いつかこんな日がくるとは思っていた。

僕はいわゆるブラック企業というやつに就職してしまったらしい。


毎日毎日残業残業残業残業残業。


頭が痛くなる。毎日4時間以上の残業。

休日?なにそれおいしいの・・・。


四畳半の部屋に戻り、かけてあるスーツに手をかける。


「今日、休もうかな。」

僕は遅刻したら休む。そんな学生時代を送ってきた。その癖は今

だに抜けていないのだろう。そんな考えが頭をよぎった。


しかし、そんなわけにはいかない。

社会人とはそういうものだ。

親の元から自立し、様々な責任を負う。

会社に行く、社会に貢献する。それも責任だ。

これは放棄することだってできる。でも、世間はそう簡単にそれを

許しはしないだろう。

まぁ、許すも許さないも自分の判断ではあるが。

僕だってニートしたい。あと5年ぐらい、朝起きたらご飯がでてきて、

昼間は適当に遊んで、夜になったらまたご飯が出てきて、風呂に

入って寝る。そんなイージーで苦のない生活を送りたい。

くだらないことを考えつつも、体は急ぐ。

スーツは着た、ネクタイは絞めた!ハンカチよし!


玄関に置いてある、家の鍵、車の鍵をポケットに突っ込む。

「いってきまぁーす!」


一人暮らしの寂しい部屋に別れを告げ玄関を飛び出した。


===


信号だ。遅刻の最大の敵だ。


「くそ・・・・」

ハンドルを指で叩く。それと同時に、眠気が襲う。

昨日何時に寝たっけな。仕事の終わりが十時過ぎ、帰り着いたのが

十一時過ぎ。風呂に入って・・・。そこから記憶が無い。


「ふぁ・・。」

欠伸が出る。あーもう帰りてえ。#全日本もう帰りたい教会


信号を通過し、会社までの長い坂に差し掛かる。

ここ、グネグネしてて危ないんだよな。

特に今は取れてない疲れ、眠気様々な要素が重なり合っている。


僕の車は軽自動車。坂を登るのにはちとパワーが足りないらしい。

僕は強くアクセルを踏む。


曲がりくねった山道を進む。

キツイカーブだ、一つ目を曲がる。

このあと、キツイカーブが三つ存在する。

二つ目のカーブを曲がる。三つ目。


四つ目に差し掛かったとき、僕を突然の眠気が襲う。

同じような道や事柄、それらが続くと人間には飽きがくる。それが

今きてしまった。


曲がりきれない!左車線から対向車線へ。それを越え・・・


僕の車はガードレールをぶち抜いた。


急いではいたものの、ガードレールってこんなに脆いのかよ!

宙を舞う。僕の住む町が一望できる。

最高の景色だ。

光り輝く太陽に照らされる町。その向こうに見える海、山。

綺麗な町だな


地球には重力ってものが存在する。

つまり、車ごと宙にいる僕は、重力加速度をもって落下する。


「うあああああああああああああああああああああああ!!!!」

落下した先の岩肌に車体がぶつかる。すごい衝撃だ。

しぬしぬしぬ!!!!痛い!!!!


エアバックが飛び出す。しかしそんなの気休めに過ぎない。

エアバックが飛び出しても助からない。自動車学校の先生が言ってた。


車体×9.8。岩肌にぶつかったあともすごい速度で落下する。

もうすぐ地表だ。

僕の体はもはや言うことを聞かない。全身ボロボロ、助かる見込み

はないだろう。それは僕自信が一番わかる。


頭にたくさんの映像が流れる。死ぬときって案外スローに感じるもの

なんだな。


小さい時に家族と行った牧場。あぁ、ここで小さい牛にド突かれて

めちゃくちゃ泣いたっけ。


小学校に入学して、中学に入学した。初恋もこのときだったかなぁ。

あっけなく振られて、枕を濡らしたなぁ。


志望校に合格、高校生の始まりだ。知らないやつらとかいっぱい

いてさぁ。仲良くなれんのかなーって。最初はもちろん、黙りこく

ってて、クラス全体の雰囲気はよくなかった。でも、いつの間にか

みんななかよくなっててさ。人間は簡単だなって思ったっけ。

一瞬の暗転。

映像が止まる。ん、なんかあったっけ。


映し出されるのは、高校の頃好きだったクラスメイトの女の子。

とても可憐で、それでいて可愛らしい、優しい笑顔だ。


三年間、そして今ままでも忘れられなかったこの笑顔。

僕は恋していた。あの笑顔に。


僕のものにならねえかなぁ。

プツンと全てが途切れる、走馬灯も終わりだ。


黒い闇に放り出される。自分の姿なんてわからない。漆黒の闇だ。

まぁ、死んでいるし姿もクソもないんだけども。


「いいのですか」


声だ。声が聞こえる。


「いいのですか、このまま終わって」


声が聞こえる。耳で聞いているのではない。魂に響く、そんな声だ。


いいのですかってどういうことだよ。


「あなたはとても大きな後悔を抱えています。ほんとにいいのですか」


後悔かぁ、確かに僕は後悔している。就職した企業を間違えたことや

そのほかにもたくさん。

しかし、その中でも一番大きな後悔。

さっき走馬灯で見た女の子、彼女に 告白 できなかったことだ。


告白できるならしたいよ、でもさぁもう俺死んでるんだよね。


「あなたにチャンスを与えます、受け入れるかどうかはあなた次第

 どうしますか?」


チャンス?そんなものもらっていいのだろうか。誰しも死ぬときに後悔

することがあるだろう。そして叶わぬまま消えていく。そういうものだろう。


「受け入れますか?受け入れませんか?」


それを僕は受け入れていいのか?それは卑怯ではないのか。大体想像はつく。

もう一度、人生をやり直せるということだろう。そんな、理想の二度目を僕は

受け入れていいのだろうか。


本当にいいのか?僕はそれを受け入れても。


僕はその声に問う。


「そうですね、よろしいかと言われるとそういうわけではないのですが、

 今この時に、この地球、いえ、この宇宙で命を落としたのはあなただけ

 なのです」


僕だけ?そんな数値的に表すのも面倒そうな確率、あるんだなぁ。


「もう一つ、最近の若い人間は命を落とすのが早すぎるのです。そういう

 社会に変わっていっている、そういうふうに感じています。

 そこで私が、落とした命、魂からアトランダムに引き抜き、チャンスを

 与えています」


そして今、命を落としたのは僕だけで、アトランダムに選ぶ必要もなく、

チャンスは俺に巡ってきたと?


「そういうことです。それで、どうしますか?受け入れたほうがいいのでは

 ないのですか?」


そうだよなぁ。もし、あの笑顔にもう一度出会えるとしたら。


うん、僕のものにしたい。僕だけのものに。



僕は受け入れるよ、そのチャンス。ありがたく使わせてもらうかな。


「よろしい。ではあなたに、二度目の人生。そして体を与えます。

 再臨する時間、タイミングはこれまたランダムです。」


結構大雑把ではあるんだな。


「聞こえていますよ。うるさいです。では、行きなさい。そして生きなさい。

 あなたの抱える後悔を払拭し、あなたなりの幸せなハッピーエンドを迎え

 なさい。最期を迎えた時に、また会いましょう。そのときに土産話でも聞か

 せてくださいね」


冥土の土産にってか。


僕の魂的なよくわからない暗闇に、一本の光が射した。




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