終章

(あれから、12年か・・・)


 彼と彼女たちは本物だった。

 もし『愛』だの『恋』だのという言葉にふさわしいものが実在するのなら、きっと3人はそうだったのだろう。

 親友を想い続けた彼女も。彼女を想った親友も。彼女を想い、己の心を隠し続けた彼も。きっと。


「本物だったはずなんだ・・・」


 一部も疑うことなく、3人は確かにそうであった筈なのに。何故残っているんだろうと思う。本物ですらない、ぼくが。


 玉葛友菊は死んだ、雅華乙音は死んだ。荻原灯は死んだ。


 のに。何故ぼくが、ぼくだけが、置き去りにされなければならないんだろう。


「遅せえよ」


 ぼんやりとガラスのなくなった窓枠から月を見上げていると、後ろから声がかかった。どこかかすれたような低い声に、振り向くとあの頃よりも年を重ねた彼が廊下の窓口の外に立っていた。


ぼくが入ってきたのと同じように入ってくるかと思いきや、堂々と前扉を蹴破って入ってくる。

 

 轟音とともに埃が舞い立つ。とっさに袖で口と鼻を覆い吸い込まないようにする。

こういう乱暴なところは嫌いだ。


「静かに入ってこられないのかい、終焉おわりくん」

「うるせーな」

「・・・懐かしい?」

「まあーな」


 彼は懐かしそうに辺りを見回しながらぼくの隣まで来る。1つ1つの思い出をなぞるようにゆっくりと。

 

 ぼろぼろに錆びて、いくつか扉の欠けた集合ロッカーの左から2番目に目を留める。正しくはそこに書かれた落書き、かすれた相合傘に書かれた名前はかすれきってもう読めなかったけれど。愛しいものを見るように目を優しく細めて、閉じた。

 

 彼は彼女を思い出したのだろう。懐かしい、愛しい彼女を。獄中で、最後まで親友の名前を呼びながら死んだ、彼女を。

 そんな彼を一瞥して、ぼくも目を閉じる。


 ふいに、本物だったのにと、先ほど流した思考が戻ってくる。

 本物だったのに。親友が彼女を想う気持ちも、彼女が親友を想う気持ちも、彼が彼女を想う気持ちも。本物であったはずなのに。

 

 本物が朽ちて、偽物であるぼくが残る。ここに存在する。世界は理不尽で、神様は無情で。

 とり止めもない思考に頭が痛くなってきたから、考えることをやめた。


「おーい、帰えんぞーいつか」


 いつの間にか教室から出ていた彼の声に目を開け、歩き出した。

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ゴーストメイト 小雨路 あんづ @a1019a

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