第四十九回 ウボ=サスラってなぁに?【『領怪神犯』大賞受賞おめでとう!】
【はじめに】
こんにちは。カクヨムコンの結果が発表されましたね。なんとこの講座で映画『グエムル』などの解説を依頼していたオーミ“先生”が『領怪神犯(https://kakuyomu.jp/works/16816700429286418017)』で大賞を受賞なさいました。小説と漫画になるんだってよ! 拍手!
いやあ皆次々デビューしていくなあ、すごい。俺も本出してえよなあ。
本出したいので今日も地道に書くべきことを書き続けようと思います。
さて、早速ですがかなり前にウボ=サスラの記事をやりたいねと言ってそのままだったので『アフォーゴモンの鎖』を取り上げる前にやっておきたいと思います。未訳だったり入手困難だったりする作品の抄訳は今の自分にとって大事なネタなのですが、それはそれとしてやるべきネタは全部やりきらないとね。
でもこのウボ=サスラ、なかなかどうしてクセが強い。何故かというと安心と信頼のC.A.スミス製邪神にリン・カーターを代表として様々な作家どんどん設定を盛っていったからです。このために何を切り取ってどう説明するか非常に悩ましいんですね。面白いとも言います。面白さが広く共有されていないとも言います。そう、例えるならオーミ先生の https://kakuyomu.jp/works/1177354054884003495 みたいに。
というわけで「まずは基本的な設定」と「個人的なイチオシポイント」の二本立てで、ゼロから始めるウボ=サスラを始めていきたいと思います。よろしくお願いします。
【ウボ=サスラって?~空っぽの星から時代を始めた神~】
「ウボ=サスラは始原にして終末なり。(中略)地上の生物はなべて、大いなる時の輪廻のはてに、ウボ=サスラが元に帰するという。」
青心社『クトゥルー4』の「ウボ=サスラ」からの抜粋です。
C.A.スミスが遺したこの物語は、不運にも骨董品店で本物の魔法の水晶玉を手にした男が、太古の魔術師の真理を探究する道行に引きずり込まれるという筋書きのお話です。
この中に、時間旅行の目的として天地創造以前の知識が詰め込まれた銘板が存在するのですが、それに囲まれたままウボ=サスラは単細胞生物を次々と生み出しています。その姿は不定形の巨体であり、部位や器官の区別はありません。不定形という以外に具体的なことは言及されていませんが、それは非常に恐ろしい姿をしておりまた嫌悪感を誘うという記述は存在します。
ウボ=サスラの存在する原初の地球に向かう為には、原始的な単細胞生物にその意識を送り込まなくてはいけません。しかし、ウボ=サスラの周囲に存在する神神の知識を刻んだ銘板を発見して読む為には、原始的な単細胞生物のままではいられません。それ故にウボ=サスラの周囲にある銘板を読んで帰ってきたものは一人も居ないのです。
と、ここまでがC.A.スミスの書いたウボ=サスラ。
ここから色々な設定が色々な作家によって付与されていきます。
特に、リン・カーター。またお前かリン・カーター、ケイオスハウルの主人公のお母さんの名前の由来にしたのはこの方があまりにも色々な設定を生み出しているからです。そして生みっぱなしであんまり纏まっていないからです……! このリン・カーターが生み出した設定が特に多く
・旧神から知識を盗み出した
・多くの旧支配者(イグ、ズシャコン、ニョグダなど)の親にあたる
・アザトースと実は双子
このあたりのいかにも使いやすそうな設定がリン・カーターの手からなるものです。いつも本当に面白そうなことばっかり考えるなこの人……。
その中で個人的にプッシュしたい設定が――
【ウボ=サスラの子どもたち】
まずはズシャコンとの親子関係。
ヘンリー・カットナーの書いた「恐怖の鐘」において、ネイティブ・アメリカンに信仰された暗黒の神ズシャコン。その力は世界に暗黒をもたらし、視覚の存在を否定する。このズシャコンもウボ=サスラの子とされてしまった神の一柱です。
次にニョグダ。こちらもやっぱりヘンリー・カットナーの「セイレムの恐怖」において、魔女狩りの嵐吹き荒れるアメリカで狡猾に生き延びた魔女に崇められる神として現れます。
それにイグ。こちらはネイティブ・アメリカンから恐れられていた蛇の神としてクトゥルー神話の歴史の初期から登場しています。実質ラヴクラフト執筆の作品「イグの呪い」が初登場であり、こちらも正統派の邪神です。
他にも様々な子どもたちが居るのですが傾向としては「古くからアメリカ、あるいはイギリスで信仰された神」がその子として設定されています。逆を言えばこのあたりの地域で活動している地球生まれの神々を画面の前のあなたが創作する時には、ウボ=サスラの子どもとして設定するのも良いかもしれませんね。
【アブホース】
ウボ=サスラの子として設定された神の中で言えば、アブホースも注目すべき存在です。この旧支配者は私の好きな「七つの呪い」に出てきて、人間(主人公)を相手に「こんなやつ私の子孫じゃないです、帰れ」と塩対応を見せてくれる愛すべき神です。
銘板を保持しているという点を除くと設定はウボ=サスラにそっくりで、様々な子どもたちを生み出し続けてはそれを捕らえて喰らっています。銘板まで持っていたら人間が入手できる可能性が発生しちゃいますからね。
というのも、ウボ=サスラが時間を遡った先の全ての根源に存在するのに対して、アブホースはハイパーボリアが存在するのと同じ時代に会えることになっています。アブホースは生み出した子にイタズラを仕掛けられているところから見ても、ウボ=サスラと比べると少し格が落ちるというか、扱いやすくしたウボ=サスラという印象を受けますね。
1933年に「ウボ=サスラ」を発表した後、1934年にアブホースの登場する「七つの呪い」を発表したところから、ウボ=サスラの翻案として生まれたものがアブホースなのかもしれません。
【最後に】
ラヴクラフトという根源から様々な作品が生まれてくる。そしてラヴクラフトの根源にも様々な作品が関わっている。素晴らしいと思いませんか。創作の有り様はウボ=サスラやアブホースに似ています。一つの根源から沢山の子が生まれ、食い合ったり食われたり、そしてそれらが大きく羽ばたいてまた新しい世界を作っていく。そういう世界のありように、私は深く感動を覚えます。
そういう意味で、オーミさんの受賞です。大いなる生命の流れの中で一つとなっていくような喜びがあります。あっ、この流れB級ホラー映画混じってる……これもまた瞬間瞬間を必死に生きてきた味……。
というわけでウボ=サスラみたいに地球の生態系くらいには広がっていくと思うので、今後も皆様オーミ先生を応援していきましょう。レッツゴー!
それでは次回までくれぐれも闇からの囁きに耳を傾けぬように。
【宣伝】
『塔の諸島の糸織り乙女 ~転生チートはないけど刺繍魔法でスローライフします!~』(https://kakuyomu.jp/works/1177354054885629385)
さて、そんな記念回だったわけですが、記念・祝賀すべき作品がもう一つ!
なんと普段からお世話になっている渡来みずね(ねずみ)先生もデビューです!
すげえな、現代。
基本的には女性向け作品なのですが、僕は主人公のスサーナちゃんの夢兄になって読み、イケメン相手に「うちの妹と親しいようだね……」って言いながら読み、なにかこうとても行儀の悪い読者になっています。
そういう楽しみ方も許容する懐の深さ、根本的なパワーがある作品なので皆さんぜひ
https://www.amazon.co.jp/dp/B0B11R5ZB1/ref=cm_sw_r_tw_dp_DEB138HBH351WGVNC7TV
こちらから購入してTLで布教してください。
スサーナちゃんは可愛いねえ、ふぃーひひひ……。
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