先天的にしろそうでないにしろ、
この物語の主要人物は序盤から、多くのモノを欠いた存在として強く主張されている。
あらゆるメタファーが多次元的に束ねられ集約される対象が彼なれば、その人物像もより強固かつ柔軟なモノに仕上がるのも納得です。
そも“完全”というのも実に多面的なパーソンだ。
人として、性別として、社会的立場として、つきまとってくるソレらの弱みを、
全肯定という偏愛によって希釈するという均衡の保ち方が、実に危うげでキミらしい作風でイイ。
そうして表した普遍性を“可愛げ”として読者に捉えさせた時点で、
もうミステリーとして確立と成功が約束されているモノだと断言できる。
まだ第二幕ほどしか読んでないオレも骨抜きにされたんで、すでにミスリードされてるのかもネ☆
これこそまさに、推理という不確定性によって見出す、不完全で“完全”なるキャラミステリー!
お見事!
第二幕、まで拝読させて頂きましたがなるほどこれはミステリーでありながらもアンチミステリーの属性も十分に隠されています。
各幕、中心となる事件発生後、主人公の二人である湯島兄妹の妹、泪ちゃんを通して捜査状況を知る涙君。
それとは別に淡々と捜査は進み、親戚の泉水おば…お姉さんを中心に事件は一応の解決を迎えます。
それに違を唱えるのは安楽椅子探偵ポジションのイケボ(妹談)な兄。状況証拠から導き出される犯行動機とは別に心理学的見解により容疑者達の外郭から真に操られた、操ったであろう真犯人を推測します。含みを持たせた状況に違う角度から刺し込む兄の思考実験。アンチミステリーとも言えるその見解をどう捉えるかは読者次第です。
人物の役割配置とその幕に合わせた心理学的要素の限定的采配のバランスが見事です。読者が混乱しない様に踏み込んだ用語は多用せず、登場人物達がまるで道化の様に私達にそのヒントを与えてくれます。
本格ミステリーにアンチを少々混ぜた兄へ愛を捧げる妹とそのパンツの物語。
ところで……泪ちゃんの携帯電話代とバッテリー…そんな装備で大丈夫か?
大丈夫だ。溢れすぎている兄への愛が奇跡を起こすのですよ。
人間が抱く心の闇、人間ならでは歪んだ精神とイカれた思考と底無しの欲望の連鎖が織り成す殺人劇。
それを解き明かすのは警察でもなければ名警部でも名探偵でもない。超が付く程にラブラブ(死語)な兄妹!! 兄妹愛も然る事ながら、兄の為なら何処まで突っ切る妹ちゃん!! もう誰にも止められない!(兄を除く)
そして最後の最後で真相が分かっても、所詮はあくまでも仮説や空論の域を超えず、もどかしい気持ちのままで終わるのも、この作品だからこその醍醐味ですね。
この兄妹が進む先に待ち構えるのはハッピーエンドか、はたまた大どんでん返しか! 目が離せないィィィィィ!!!