日本人が消える日

むぺぺ

第1話 命のスマートフォン

今、この時代日本のスマートフォンの普及率は八割を越えている。そして、その今から更に二十年、日本のスマートフォン普及率は百パーセントになった。発売当初からのスマフォの便利制は向上もしたが、中にも著しく向上したのが電池の持続時間だ。昔のスマートフォンでは一日動画を見ているだけで電池はなくなった。しかし、今のこの日驚くべきスマートフォンが発売されようとしていた。


「見てください! この長蛇の列を! 新型スマートフォンの発売日の今日、約千人の日本人が都内の携帯ショップの前に列をなしています。では、一番乗りのこの学生さんに話を伺いたいと思います。あなたはいつから並んでなさるのですか?」


「は、はい! ぼ、僕はこのスマフォが欲しくて三週間前から並んでおります!」


「さ、三週間前ですか! 学業のほうはどうなさっているのですか?」


「ははは、それはまぁ、ぼちぼちです」


「勤勉な学生さんも学業に支障か出るほど人気のスマートフォン! これから、更なる人気の拡大が予想されます! 以上、中継でした」


「うーん。学業に問題が出るのは問題ですね。で、このスマートフォンは今までとどこが違うのですか? 古館さん」


「そうですね。機能面に関しては前の世代のスマートフォンとはあまり遜色ありませんが、電池の持続時間が大幅に延びました。噂によると、このスマートフォンには充電器がついておらず、数十年は持つ計算らしいです」


「数十年ですか! それはすごい! 家庭への電気代の節約になりましね。きっと、この光景を天国から見ている遠藤吉見さんも喜んでいらっしゃるでしょう」


「惜しい、開発者を亡くしたものです。まさか、発売日の前に亡くなられるとは…… なんとも言いがたいものです。しかし、遠藤さんの魂はこのスマートフォンに宿っているはずです!」


「そうですね。これからも、盛り上がりを見せるスマートフォンに目が話せません。では、次のニュースです」


プチッ。


僕はこの時のニュースを子どもながら目を輝かせて見ていたのを覚えている。そして、そのニュースから十年今、僕の手元にそのスマートフォンが回ってきた。


「こ、これが新型スマートフォン!」


僕は遂に手に入れた電池長持ちのスマートフォンを高らかに持ち上げる。


「別にもう新型ではないでしょ?」


「うるさいなぁー! 美佐子のスマートフォンも僕の持っているのと型は変わらないじゃないか!」


「まぁ、そうなんだけどね。でも、このスマートフォン限界なのよね。幹太見てよ。電池がもうなくて、ずっと真っ赤に点滅してる」


そう言って美佐子は僕にスマートフォンの画面を見せてきた。確かに美佐子が言うとおり、電池の部分が真っ赤に点滅している。これは従来のスマートフォンから判断すると電池が切れかけているのを示しているのだろう。


「ほんとだ! これ、電池切れたらどうするの? 」


「うーん。わかんない! このスマートフォン充電器ないしさ。切れたら終わりじゃないかな?」


「そんなものか。 まぁ、まだこのスマートフォンの電池切れまではまだ、年数あるし。切れたら切れたでまた、何か発売されるよ!」


「そうだね! じゃ、またねー!」


「うん。また!」


僕と美佐子は下校の交差点でいつものように別れた。僕は帰路の途中もずっとスマートフォンをいじっていた。好きな動画、写真、アプリ全てを指でスライドしながら見眺める。気に入ったものはしっかりとスクリーンショット所謂スクショをした。周りの人たちもそうしている。公共の場で、誰も他人の顔など見ない。見るのは手元に広がる無限の世界だけだ。


「ただいまー!」


「おかえり!」


台所から夕食の香りとともに、お母さんの声が聞こえてくる。手にはもちろんスマートフォンを握っている。今、主婦たちの中で流行っている料理アプリを眺めているに違いない。


「今日は変わった。料理だね」


「そうでしょ! このアプリに載ってたの。作り方も簡単だし、試しに作ってみたのよ。もう、出来るから二階にいるお姉ちゃん呼んできて」


「はーい」


僕はお母さんに言われるがまま、自分のスマートフォン以外の荷物を部屋に置き、お姉ちゃんのドアをノックした。


「お姉ちゃーん! ごはんだよ!」


呼んでみるも、返事はない。僕はやれやれとドアを開けた。いつものことだ。


「お姉ちゃん。ご飯だってば! お姉ちゃん!」


「はいはいはい、分かってる! うるさい、幹太!」


お姉ちゃんは下着姿のまま耳にはイヤホン、両手にはギターを握っている。


「また、作曲してるの?」


「そうだよ。聞いてみる?」


そう言って姉はスマートフォンを僕の耳に近づけた。バラードの音楽に合わせて、歌詞が流れてくる。


『限りなき命には、命で答えるもの。そのために私たちは命を懸ける』


相変わらず、分けわからない歌詞だ。声がきれいな分、本当に残念だ。しかし、ここで嫌な顔でもすればまず、卍固めにされるので僕は笑顔でスマートフォンをお姉ちゃんに返した。


「いい曲だったよ!」


「でしょ? これなら、きっと動画再生回数も一万回のるわ!」


「そ、そうだね…… お姉ちゃん早く、なるべく降りてきてね」


そう言って、僕はお姉ちゃんのドアを閉め、スマートフォンを片手にお母さんがいる台所へ向かった。その後、台所に行った僕は用意された夕食を食べ、お風呂に浸かりながらスマートフォンを眺め、寝ながら、スマートフォンを眺めた後、就寝した。


次の日、僕は美佐子と共に学校へ向かった。その途中再び、美佐子はスマートフォンの電池の話をした。僕は特に気にすることもなく話を進め学校へと着いた。今日の授業は理科だ。


「えぇーでは、この地球上の生物のなかで一番長生きをする生物はなんですか?」


「はい!」


美佐子が、手をピンと手を真っ直ぐ上げ返事をした。美佐子は学校では首席を争うほどの優等生なのだ。ちなみに、僕は真ん中ぐらいだ。


「おっ! 美佐子君、答えてみなさい」


「それは人です」


「正解だ! そう、今この地球上で人ほど効率のいい造りをしている生物はいない。なぜなら、こんな小さな心臓で八十年以上も生きられるのだからね。君たちも、そのことをしっかり頭に入れおくように!」


「はーい!」


「では、今日の授業はこれで終わり! 号令!」


「起立、礼!」


今日の一日も何事もなくスマートフォンと一緒に過ぎていく。この日の帰り、美佐子は突然変なことを言い出した。


「このスマートフォン、人に似てるよね?」


「どこが? これは機械だよ」


僕はスマートフォンをコツンとこずいた。人の肌の柔らかさなんて微塵も感じない。


「そんなこと分かってるわよ。この電池の電気効率の良さよ。こんな小さなバッテリーで数十年も持つのよ」


「確かに、言われてみれば今日理科の先生が言ってた人の心臓と似てるな。で、だから何?」


「だからさー! この電気効率は人の心臓を真似たかも知れないということよ」


「はぁー」


これだから頭がいいやつは困る。そんなことどうでもいいじゃないか。スマートフォンは便利で素晴らしい。それでいい。造りがわからなくても充電がなくっなっても、また新しい便利なスマートフォンを買えばいいだけだ。


その後も、美佐子はスマートフォンの裏蓋を眺めてはこうでもあーでもないと言っていた。僕はそんな美佐子の姿を見て、こいつはこの時代では非効率な人だと思った。だって、今時分からないことがあれば、スマートフォンに聞けばいい。この時代、自分で考えることなんて何もない。僕は不意にスマートフォンを開けた。すると、僕のスマートフォンも美佐子のように赤いランプが点滅していた。


どうやら、電池切れが近いらし……


僕は赤いランプの点滅を特に何も思わず、そのあともスマートフォンをずっと触っていた。


プルルルルルル。


次の日の朝早くから、電話がかかってきた。誰からだ? 僕は寝ぼけたまま布団からも出ず、電話に出た。


「こちらの携帯の電池が切れそうですので、補充のほうをお願いします。もし、次開いた時、補充なさらなければこちらから、強制的に補充させてもらいますね」


ガチャ。ツーツー。


僕の返事の有無も確認せず、一方的に電話が切られた。僕はどうせ、何かのいたずら電話だと思いそのまま再び眠りに就いた。そして、再び目を開けたとき大量の着信が僕のスマートフォンに入っていた。


「お母さんとお姉ちゃんとあと、美佐子か…… なんだろ?」


電話の録音が残っていた。ピッ!


「ザーザー…… か、幹太…」


お母さんの声だが、雑音がひどくて何を言っているのか上手く聞き取れない。僕は音量を上げ、再び再生した。


「か、幹太…… スマートフォンを絶対に開けちゃだめよ…… は、早く、手放しなさい」


「どういう意味だ?」


プルルルルルル。今度は下の階から電話がかかってくる。この金属音は固定電話だ。


「なんだよ。珍しいな…… この電話が鳴るなんて」


ガチャ。


「か、幹太! 生きてる!」


美佐子の怒号のような声が固定電話の受話器から流れてきた。


「生きてる? なんのことだよ」


「あなた、絶対にスマートフォンを開けちゃだめ! このスマートフォンは…… キャッ、ザーザー」


「おい、美佐子! 美佐子!また雑音か…… 開いてはだめってもう、開いてるけど…… 」


僕はスマートフォンを見るとあるメッセージが浮かんでいた。


『電気の補充を開始します』


「え?」


この日、スマートフォン普及率百パーセントの日本は世界から一度に消えた。この事件の真相は二度と誰にも日本語で語られることはなかった。

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日本人が消える日 むぺぺ @mupepoo03

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