第7話
「皆さん、この無能な私と違って、どちらも素晴らしい長所があるんだから、もう仲良く天気でも何でもつくっていれば良いんですよ。私はもうこれで人生に希望がなくなりました。ふふふふふ………」
「お前、まだ研修期間中だろ」
天上界に雨が降るという歴史的出来事をきっかけに、多くの人が天候不順の調整に尽力した。結局は天上界の人間であり、血の気が多いわけではないので、遺恨もなく和解は達成された。
最新版の天気製造機はカスミーにより完全にぶっ飛んだわけだが、ウェザードーム以外に大きな被害は及ばなかったため、過去の天気製造機は無傷だった。最新版ほどではないにせよ、これらもスピードでは天気職人を遥かに上回る。
今までは、ラボラトリーの人間だけでこれらを運用していたが、和解後は、天気職人が立ち会って、より良いパラメーターを設定できるようになったため、いよいよ真価が発揮できるようになった。やはり微妙なところは難しいが、全体の仕事量を職人と機械にうまく振り分けることで、作業ペースは格段に速くなった。
天候不順も、応急措置はあっという間に済んだ。実は、協力すればそれほど大変なものではなかったのだと、多くの人が感じた。
「もう、私は一人で絵でも描いてますよ」
休憩中のカスミー。
カスミーは、結局、天気事件後もそれまでと同じ調子でスプリン・ファクトリーにいた。研修期間は、いつ終わるのか分からない。
「あ………」
カスミーが短く声を発したタイミングで、人がやってくる。
「カスミー、今日も絶望的な顔してるねっ!! 調子はどう?」
イヨだった。相変わらずの跳ねるような口調で言う。カスミーは頭を抱えた。
「………またなくしてしまった。ああ、何で私は……ホント、生まれてきてゴメンなさいぃぃ!!」
*
「一時はどうなるかと思ったが、今年は豊作だな」
「今が頑張りどきよ、ケイシ」
「うん」
畑の脇を流れる水路を望む斜面で、ケイシは両親と昼食をとっていた。畑仕事の休憩中である。
流れる水は、上流の大きな溜め池から送られてきている。途中にあるいくつかの小さな溜め池を満たし、それぞれの農地で使う水となるのだ。
ここ数日、十分な雨が降り、大きな溜め池は満ち満ちていた。当面、農業用水の心配はいらない。畑の作物は色つやを取り戻し、人々の表情も明るくなった。
「これも、雨乞いの儀式のおかげね」
ケイシの母は穏やかに微笑みながら言った。
しかし、アババッ!のリズムが脳裏によみがえるより前に、ケイシは冷静な口調で反論する。
「違うよ、母さん」
ケイシは立ち上がった。
「天上界で、天気職人たちと、機械化を進めたかった人たちがワカイしたんだよ。仲良くなったから、ちゃんと天気製造ができるようになったんだ」
「そうだったな。ケイシは物知りだな」
「全部これに書いてあるからね。よく読めないけど、図が分かりやすいんだ」
ケイシは、手に持っていたものをパタンと閉じた。
「父さん、実は、明日友達と遊びに行きたいんだけど……」
ケイシは、しおらしくしながら父の顔色をうかがう。
「そうか。いいぞ、行って。今日はだいぶ
「やった!」
父の許しを得て、ケイシは子供らしくはしゃいで喜びを表現した。
抜けるような青空に巨大な入道雲がそびえていた。
ケイシは、土手のてっぺんで両手を思いっきり伸ばした。入道雲には届かないけれど、身体が青空に混じり合う。
それから、大きく息を吸い、天上界に向かって真っ直ぐに叫んだ。
「明日も天気になれ!!」
(おわり)
TENKI NI NARE !! 須々木正(Random Walk) @rw_suzusho
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